オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

トンノン鍬!

語学は好きなんだが、年を取ったせいか(←言い訳)、ますます頭に入らなくなってきた。

日本でも最近は外国人の方が増え、中には流ちょうな日本語を話す方もいらっしゃる。そういう方を見るたびに、自分の言語能力の低さ(ただ怠け者なだけか?)を思い知る。語学は好きだが、発音も文法も自信がない私としては、どこの国へ行っても怪しい言語で何とか押し切ってきた。文法が間違っているのか、発音が悪いのか、現地の人に笑われることも多々あった。

 

その人が、言葉を上手に話せないとしても、笑ってはいけない。それは、その人が別の言語を知っているということだ。

 

とかいう言葉がありましたよね。自分の母語でない言葉を、母語並みにマスターするというのはかなりの努力が必要。そこまで上手でない人は、ユーモアのセンスで乗り切るしかない!

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以前私が住んでいた、西アフリカのコートジボアールは、フランス語が公用語となっている。欧米列強にアフリカが分割された際、この地域がフランスに支配されたためだ。フランスの植民地となったコートジボアールには60以上の部族がいて、彼らにはそれぞれの民族の言葉がある。普段の生活では自分たちの言語を話して生活しているが、他の民族と話すときは共通語であるフランス語を使用する。こういう国は世界に多い。

 

コートジボアールでは、学校教育はフランス語で行われる。教科書もフランス語で書いてある。つまり、学校教育を受けていれば、フランス語の読み書きができる。当然ながら、フランス語で教育を受けている期間が長いほど、格調高いフランス語を操る。

 コートジボアールでの私の上司は、学生時代にフランスへ留学し、2つも博士号を取得したインテリ。彼の書いたフランス語の文章は、私には分からない単語や言い回しばかりだった。付け焼刃でフランス語を勉強した私と、フランス語で高等教育を何年も受けてきた人との違いだな。

セネガルは同じくフランス語圏なのだが、多数のセネガル人が理解できるウォロフ語という言語がある。ウォロフ語のように、大多数が理解できる民族語がないコートジボアールは、すなわちフランス語話者が多くなるわけです。

 

前ふりが長くなりましたが。

 

前述の通りコートジボアールはフランス語しか共通言語らしき言語がないので、地方に住む、ほとんど学校へ行っていないような人たちであっても、簡単なフランス語なら理解可能。

ある日、電気も水道もない村へ行ったところ、村のおばちゃんから声をかけられた。

「Ton nom quoi?」

はっ?

一瞬、私の頭の中でいろいろな言葉が駆け巡った。トンノンくわ?豚呑食わ??トンノン鍬?

おばちゃんの言ったことを、可能な限り自分の分かるものに当てはめようとする。再びおばちゃんがニコニコしながら同じことを言う。分からず、固まる私。

20秒くらいして、ようやく理解した。

「Ton (=Your) Nom(=Name) Quoi (=What)?」

お前の名前はなんだ、と聞いていたんですね。

 

フランス語のレッスンで習った「お名前は何ですか」は、

Comment vous-appelez vous?

だった。

全然違うじゃないか!

ただの「ユア・ネームぅ・う~ホワット?」じゃねえか!!

あまりにブロークンなフランス語で、まったく想定外だった(汗)。

 

別の日に、地方の片田舎で乗り合いバスに乗った。バス停が無いので、自分の降りたいところで意思表示をする。私は「ここで降ります!」って何ていえば良いんだろう?と思いながら、現地人の降りる様子をうかがう。

やっぱり、

「私は…だからJe だよな、降りるは、descend だよな…」

と頭の中で「私は降ります」というフランス語をこねくり出していると、近くに座っていた、バケツを抱えたおっちゃんが大声を出す。

「On descend!」

は?

そうか、主語はJeじゃなくてもOnでいいのか?と思っているうちに、おっちゃんがバスを降りる。そうかそうか、降りるときはオン・デサン!と言えばいいのか。

しばらくバスが行くと、今度はバナナを頭にのせたおばちゃんがだみ声で、

「Ca descends!」

と怒鳴る。え?主語はCa(サ)(=it) なのか?

(すみません、フランス語のフォントがないのでご容赦ください)

文法的に間違っている…と思い、隣に座るコートジボアール人に聞く。すると彼女は笑いながら答えた。

「だってJeとかOnとか、長くて言うのが面倒くさいでしょ。だから省略してCa(サ)なんだよ」

言うのが面倒くさい?ジュとかオンとか、それほど長い単語じゃないと思うが…(絶句)。

その後も、現地人はオン・デサンとか、サ・デサンとか色々な言い方をしながら、自分の好みの場所でバスを降りて行ったが、誰一人として「Je descend」と言わなかった。(やっぱり現地人のやり方をよく観察しておいてよかった?)。

 

コートジボアールでの生活で身に染みたのは、文法通りに美しく話すのが絶対に正しいわけではない、ということ。言語とは、自分の用事を足す目的で他人とコミュニケーションを取るために必要なツール。なので、相手に伝わらなければ意味がない。多民族社会では、相手に伝わるように言語を話すことが最優先。文法的美しさや正確さは二次的なものだ。

今までは「文法に忠実に」と肩に力が入って、私はなかなか気軽に口を開けない場面もあったが、文法的に正しくても相手が理解できなければ仕方がない。そう思うようになったので、へたくそでもとにかく話すようになった。相手が間違って理解したら、分かってもらうまでしつこく説明するようになったのも、この経験から身についたことだ。

 

日本へ帰国後、フランス語を忘れないようにしようと思い、フランス語検定を受験した。二次試験は面接だった。お題を与えられ、フランス語で話す私に、フランス人の試験官が不思議そうな顔で私を見る。ん?間違っているのかしら?

話し終えた私に、試験官が一言。

「君のフランス語、とても上手なんだが…どこで身につけたの?変わったしゃべり方なんだが」

うわっ。

一般的な日本人は、フランスやベルギーのフランス語を勉強するらしい…。面接を待っている女子たちがシャ〇ルとかディ〇ールとかの高級バッグや服を身につけているのを見て、なんとなくアウェーな感じがしていたんだが、やっぱりアフリカでフランス語を身につけたのがバレたか…。バレちゃあ仕方ない(万事休す)。

その後、試験のお題とは直接関係が無いのだが、コートジボアールの話を15分ほどすることになった。コートジなまりのフランス語を披露してしまったことが恥ずかしくてたまらなかったが、面接は合格だった。