オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

数学の天才少女

アメリカの大学は、日本でも言われている通り、何歳でも入学できる。

高校を卒業してすぐに大学へ入学する人もいるが、多くの学生は1年か2年、あるいは数年社会に出て働いてから入学する。自力で稼いだお金を貯めてから、入学するのだ。

 

私はアメリカの片田舎の大学へ進学した。当時は日本で都内の大学へ入学するよりも、アメリカの田舎大学へ入学したほうが授業料やら生活費やら安かった。本当はカリフォルニア州とかに行ってみたかったが、安さ重視で超田舎を選んだ。アメリカの大都市にある大学の授業料や生活費は、我が家が払えるような金額ではなかった。

授業料が安くなかったら、多分アメリカ留学を親に認めてもらえなかったと思う。田舎大学の授業料が安いことが分かった親は、渋々ながら留学を承知してくれたが、大学へ進学する条件として「生活費は全額自分で稼げ」と言われた。とにかくアメリカへ行きたかったので、その条件がどれだけ過酷なことか理解せずに承知した(バカでした 笑)。兄弟が都内の大学へ通っており、私まで大学へ行かせるのは大変だったのだ。

 

そんなわけで、米国へ到着してからすぐにアルバイトを探すことになり、おかげで?バイト先でアメリカ人貧乏学生の友人たちが出来た。当時、アメリカに留学するような日本人学生はたいていお金持ちの子女。高級車を親に買ってもらった、なんて学生が結構いた。そのため、アメリカ人に混じってアルバイトしている日本人の私は目立った。「どうして君は日本人なのに働いているんだ?ほかの日本人学生は働いてないじゃないか」と無邪気にアメリカ人に聞かれ、働かざるを得ない事情をいちいち説明しているうちに、ついには「貧乏日本人」という暗黙の了解が彼らアメリカ人学生の間で成立したようだった…。「君は日本人だけど、僕たち(貧乏な)アメリカ人と同じだね!」と笑顔で言われるたびに、複雑な気持ちがした。ま、仕方ない。

 

大学で、そういうアメリカ人学生たちと仲良くなって一年くらいすると、彼らの姿が見えなくなることがあった。「〇〇ちゃん、最近見かけないね」と聞くと、別の友人が「ああ、あの子は貯金が尽きて、大学辞めたんだよ。今はシアトルで社会人中」なんてこともたびたびあった。またお金が貯まったら、大学教育を続けるのだという。いつでも辞められていつでも入学できる教育システムだからこそ、長期戦で大学を続けられるのだ。(だからアメリカの大学の学生は年齢が高い)。

 

大学を辞めざるを得ない友人の話を聞くたびに、授業料だけは親に支払ってもらっている自分が情けなかった。英語で授業を受け、さっぱり分からない教科書を大量に読み、かつ生活費を稼ぎだすのは私にとっては並大抵ではなかったが、授業料も生活費も全額自分の力で稼ぎ出して、こつこつと大学教育を受けているアメリカ人を見ると、私の苦労なんぞ大したことが無い。アメリカ人学生からは「自分の人生は自分で責任を持つ」というような、人生への気迫を感じた。

 

バイト先で、両親が離婚した女子高校生と同じシフトに入ったことがある。「大学どうするの?」と聞いたら、「うちは親が離婚して母に引き取られたのでお金がない。海外の米軍基地で4年間働く。そうすれば4年分の大学授業料を政府に払ってもらえるから」という。こういう人も多かった。クラスメートでも、軍籍を置きながら大学生をやっている人もたくさんいた。もちろん、授業料を稼ぐためだ。そういう学生と話すたびに、アメリカ人って大人だな~なんて思ったものだ。誰にも助けてもらわず、自力で自分の人生をやるのだ。

 

話は新入学時に戻る。

新入生オリエンテーションに出席した私の隣に、小柄でかわいらしい美少女が座っていた。何とかして早く友達を作りたいと思っていた私は、彼女がシャーロット(仮名)という名前だということを聞き出した。私たちがおしゃべりしていると、オリエンテーションに参加していた3年生か4年生の先輩学生たちが二三人、笑みを浮かべながら寄ってきた。どうやら新入生の情報を多少なりと持っている様子で、やあシャーロット、なんて話しかける男子学生もいた。

「知ってる?シャーロットは飛び級で大学へ入ってきたんだよ。」

一人の学生が、シャーロットと私に微笑みながらそう言った。はにかむシャーロット。

なぬ?飛び級

確かによく見ると、シャーロットは19歳に思えない若々しさ…というよりまだ中学生か高校生?というくらいの初々しさ。話を聞くと、どうやら数学分野で天才的な頭脳を持っていて、高校で勉強することが無くなったので、大学へ進学したのだという。すげえ。

これがアメリカの飛び級ってやつか…と、19歳で入学した私は、自分がいかに凡才、いや老成?したかのような大ショックを受けた。ホント、世界には出てみるもんです。自分より上には上がいる、ということを身に染みて感じる。

 

その後、キャンパスで何度かシャーロットを見かけた。一度は、どうやらご両親らしきお二人と楽しそうに大学内を歩いていた。多分、ご両親にとっても、優秀で自慢の娘なんだろうなあ。と思いながら、遠くから見てました。

そんなシャーロットの姿を大学で見なくなった。どうしたんだろう?まさか?

シャーロットと共通の友人であるアメリカ人学生に聞いてみた。すると、

「ああ、シャーロットは大学を辞めたよ。」

ええっ?せっかく知り合いになったのに…(グスン)。シャーロット、お前もか。

「どうして大学を辞めたの?」

と聞くと、彼は苦笑いして答えた。

「ホームシックだよ。実家を離れたことが無くて(そりゃそうだ)、どうしてもお父さんとお母さんのもとに戻りたかったんだって。今は、両親と暮らしてるよ。」

そうか…そんな理由もあったのか。

さすがに、15歳だか16歳だかで、愛情いっぱいのご両親のもとを離れて「天才少女」として一人、見知らぬおじさんおばさん?(アメリカ人学生の平均年齢は高い)の中に放り込まれたら、そりゃね。寂しくなるよね。大人?の私だって日本を離れ孤独と戦ってるんだもん。アメリカの学生の中には甘やかされて育った人もいるが、たいていは前述の通り、人に頼らず、試行錯誤しながら人生を切り開いていくタイプの人が多い。

 

この年になって人生の厳しさや良さが分かってくると、初々しかったシャーロットのことを思い出すようになった。やはり、大学生活を送るとなると、勉強が出来るだけではなくて、精神的にも成熟している必要があるのかな。こうやって人は大人になっていくのかもしれない。シャーロットが天才的な数学の才能をどこかで発揮して、素敵な女性になっていることを願う。