オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

タルシウス

インドネシアスラウェシ島は、アルファベットのKの形をしている。

 

その昔、地殻変動でこの地域にあった2つの島、つまり「I」の形の島と「く」の形の島がくっついて「K」になった。それがスラウェシ島だ。アジアとオーストラリアでは植生や動物が異なるが、この地殻変動でアジア側?とオーストラリア側?がくっついたらしい。よってスラウェシ島は、両方の生態系が存在するという世界でも珍しい状況になっている。

このKの字の先っぽにマナド市という町がある。その近くのタンココ自然保護区へ私はタルシウスを見に行った。タルシウスとは、世界最小クラスのメガネザルだ。実はタルシウスはマナドだけでなく、南スラウェシ州のパンケップにも生息している。

 

マナド空港には、タルシウスをモチーフにしたすりガラスがあった。

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世界最小クラスのメガネザル、タルシウス

マナドはインドネシアの他の地域と異なり、キリスト教徒の多い街だ。この地域はナツメグなど香辛料を産出する。

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マナド市内を見下ろすキリスト像。ブラジルっぽい?

マナドよりさらに東部のマルク諸島にあるハルマヘラ島は、香辛料をめぐる欧米列強との争いに巻き込まれた。アメリカ・ニューヨーク州のマンハッタン島と交換されたという話がある。香辛料の欲しい欧州からは垂涎の的だったそうだ。今ではマンハッタン島の方が価値があるんだろうけど。

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マルク諸島方面をのぞむ

そういう歴史的背景から、マナドも「オランダの第〇番目の町」と呼ばれていたそうだ。私の印象としては、マレーシアのマラッカに雰囲気が似ていると思う。お土産もオランダ風のタルトが有名だ。

この地域には第二次大戦中に日本軍が進駐し、日系インドネシア市民もいる。マナドから車で1時間ほど離れたビトゥンという町には、かつおぶし工場まであるのだ。ジャカルタかつおぶしを買うと、たいてい「マナド製造」または「ビトゥン産」だ。マナドの名物料理の一つは、かつおだしのかぼちゃのおかゆだ。(インドネシアの他の地域では、おかゆ(ブブール)といえば鶏)。

 

キリスト教徒が圧倒的に多いので、豚肉料理もある!リチャリチャと言われる激辛料理が名物なのだが、私には辛すぎて食べられなかった。

伝統的な市場では、トカゲ、イノシシ、コウモリなど、エクストリームフードと呼ばれる野生動物の肉が売られている。マナドの若者には、そういう伝統的な食べ物は人気がないらしい。どこの国でも同じですね。

 

前置きが長くなったが、タルシウス。

どこで見られるかというと、マナドから車で1時間(渋滞していなければ30分らしいが)のビトゥンのさらに奥にある、タンココ自然保護区にいる。私は車付きガイドを雇い、ビトゥンへ行った。

 

その道中で、日本海軍の慰霊碑に案内してもらった(希望していないのだが)。このガイドさん、どうやら日本人海軍関係者のガイドやらドライバーやらをちょいちょい請け負っているらしく、日本人とみるとやたらと日本海軍の話をぶっこんでくる。

 

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慰霊碑。

慰霊碑の向こうは海。こんな遠くまで、戦争にとられた日本人の若者たちがやってきたんだな…と感慨にふけっていると、ガイド氏がヤシの木の方を指さしながら、身振り手振りで生き生きと説明する。

「ほら、あのあたりに日本軍が落下傘部隊で降下してきたんだよ。あの木のあるあたりに上陸してだね、そりゃすごいもんだった」

すごいもんだった、ってねえ。75年前にアンタ生きてたのか?と、若いガイド氏の顔をしげしげ見てしまった。多分、誰かの受け売りなんだろう。

 

慰霊碑は私立公園のように整備されていて、どうやら村の誰かがきちんと管理している様子だった。これからここに来る日本人は、どうぞ観光客でありますように。と私は祈りを捧げた。公園から帰ろうとして、声が聞こえたので振り返ってみると、村の高校生らしきカップルが海を見ながらデートしていた。平和になったのです。

 

タンココの宿に到着。

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タンココヒルというバンガロー宿

すると、庭に黒い人影が…。ガイド氏が、あれはクロザルだ、と教えてくれた。しかも、10頭以上いた。サルというが、アフリカのヒヒに似ている。「サルを見に来て、さっそくサルが見られてよかったね」

と言われ、ま、そうか…と納得した。

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サルと写っているのは観光客のおじさん

タルシウスは夜行性なので、夕方から森へ行くことになった。自然保護区内の森で、他の宿泊施設に泊っている観光客(ほとんど欧米人だ)やレンジャーさんたちと合流した。どうやらタルシウス一家が住んでいるという木があるので、そこから一家が出てくるのを待つ。

意外にもあっさりとタルシウス一家が木の洞穴から出てきた。お腹がすいているんだろう。暗がりで写真を撮影しようと四苦八苦しているうちに、両親と子どもがぞろぞろと出てきてしまった。

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夜のタルシウス

あわわ…写真写真!と焦っていたら、一匹のタルシウスが私の目の前のヤシの枝に飛び移ってきてしまい、ますます写真が撮影しにくくなってしまった。げんこつくらいの大きさで、ふわふわもこもこ。仕方ないので撮影をあきらめ、タルちゃんの足指すごいなと観察することにした。
サービス精神旺盛な?タルシウスのおかげで、観光客は全員大満足でホテルに戻った。

 

翌日は早朝から、保護区内の森を散策することにした。もちろん、保護されている場所なので一人では入れない。レンジャーさんと一緒だ。

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朝の森

保護区は森だが、海岸に隣接している。様々な野鳥を見ることができた。

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フクロウ3兄弟

「あそこにクスクスがいる」

とレンジャーさんが高い木の梢を指さす。必死に目を凝らすと、とてつもなく高い木の枝の先に黒いかたまりが。クスクスって有袋類だからオーストラリアのイメージだったけど、インドネシアにもいるわけですね。不思議な生態系だ。

 

朝の散策を終え、タンココを後にした。マナドへ戻る。

このエリアは火山があるので、温泉が湧き出る場所もある。温泉と言っても、日本人が想像するようなほんわかしたものではない。地底からマグマがぐらぐら噴出しているような場所だ。

ガイド氏が「日本人は温泉が好きだろう」といって連れて行ってくれたが、見た目はセメントから蒸気が出ているような塩梅。お湯に浸かることができ、美肌に良いという泥を体に塗る小屋もあった。観光シーズンでなかったのか、地元の家族くらいしか利用客がおらず、無料のお菓子やコーヒーをいただいてまったりしました。

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温泉入浴施設?

 

山を越えてマナドへ戻る途中に、日本軍の作った防空壕(ゴア・ジュパン)がいくつかある。備品を格納したりするために掘ったらしい。今はだれも使っていないとはいえ、さすがにちょっと怖い。

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日本軍の作った防空壕の入り口

無事、マナド市内へ到着。

都会もいいが、やっぱりたまには自然の中でゆっくり過ごしたい。ジャカルタに戻ってくると、タンココの海と森の静けさが夢のようだった。