オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

語学の上達に必要なこと その2

昨日の記事ではスペインで出会った人について書いたが、もう一人追加しておきたい。

 

スペインに到着して大学に通い始めたものの、下宿先家族の話すスペイン語に全くついていけず、くじける日々が続いていた。スペイン語ができないので、当然友達もできない。

 

ある日曜日、一人でぶらぶらと散歩に出かけた。川へ続く道を下っていくと、トルメス川沿いの道に何やらたくさんの店が並んでいた。そこには衣類や食べ物、子供のおもちゃなど様々な露店が出ていた。まだ買い物をしている客がいるものの、一部の店は片づけを始めており、どうやら私が来たときは終わりかけていたようだった。

 

こんな市場があるんだなあ、と思いながら、私はその市場に出ている露店を見ながら歩き回った。ふと、アクセサリーの露店の前で足を止めた。かわいいイヤリングがあったので、よく見ようと思ったのだ。私が品定めしていると、片づけをしていた男性店員が振り返り、笑顔で近寄ってきた。

「〇×▽◆*※~」

何かを言っているが、スペイン語なので分からない。腹立たしい?ので、思わず英語で聞いた。

「英語分かる?」

男性はうなずいた。そして、英語で話し始めた。

その時の私の気持ちと言ったら!!やっと話が通じる人がいた!という安堵感(と言っても、私の英語もそれほど上手なわけではないんだが)。

その露天商の男性は、モハマドという名前のモロッコ人だった。私はそこでしばらくぶりに英語で話し、ストレスを発散した?のだった。

 

帰宅して下宿先のお母さん、マリアにその話をすると、ああ、あれはRastroというんだよ、と教えてくれた。辞書で調べると「蚤の市」と書いてある。毎週日曜日にやっているらしい。

翌週の日曜日も、私はラストロへ行ってみた。ぶらぶらと露店をめぐっていると、またモハマドが店を出していた。モハマドは私を覚えていて、私たちはまた英語で会話した。翌々週も、モハマドは露店を出していた。こうして、モハマドは私がスペインで出会った最初の友達となった。

 

ラストロへ行くのは楽しかった。ある日、中国人らしい一家が漬物の屋台を出していた。当時、スペインにはアジア人が少なかったので、日本人である私は目立ったようだ。その中国人一家はぶらぶら歩いている私を見つけると、嬉しそうな顔で私に駆け寄り、私の手を取って何やら中国語をしゃべり始めた。突然中国人一家に取り囲まれ、私も焦る。多分、私のことを中国人と勘違いしてるよね?

「中国語分かりません」

「中国人じゃないんです」

と英語で言ってみたが、通じなかった(そりゃそうだ)。一家は私に売り物の漬物を試食させながら、あれこれ中国語で話しかけてくるが、私が中国語を話せないのを見て、中国人じゃないと気づいたようだった。(すみません、漬物は美味しくいただきました)。

 

英語の話せるモハマドは、私にとって貴重な友人だった。

英語をどこで覚えたの、と聞くと、「イギリスで覚えた」という。「イギリスに留学してたの?」と聞くと、不思議そうに「いや、仕事で(つまり露店で)イギリスにいたんだよ。」という。フランスにもイギリスにも仕事で行ったが、自分にはスペインが一番しっくり来るので、今はスペインで露天商をやっているんだ、という。

モハマドの話を聞くと、高額な辞書や教科書を買い、授業料を支払って大学に通っているのに、いまだにスペイン語がろくに話せない自分が情けなくなった。やっぱり必死さが足りないんですかね。自分がいかに軟弱なのか思い知らされる気がする。

 

モハマドは時折、自分の国であるモロッコへ帰った。モロッコで安い皮革を仕入れ、自宅でブレスレットを編んだりベルトを作ったりしては、それを販売していた。ネックレスやイヤリングなどの安価なアクセサリーは、スペインのどこぞで仕入れているということだった。

モハマドは、スペイン人学生や他の留学生たちと安いアパートをシェアして住んでいた。モハマドの一か月の食費の予算を聞いたら、私の半分だったので驚いた。すごいね、と褒めたら、僕は料理が得意なんだと言って、鶏肉のトマト煮込みをごちそうしてくれた。その後、「僕の食費の(さらに)半分で生活している」というモロッコ人露天商の友人、アーメッド君を紹介してくれた。上には上がいるもんです。

 

モハマドもアーメッド君も、英語、フランス語、スペイン語が堪能だった。やはり生活がかかっていれば、語学も必死に覚えるわけだ。語学が出来ればどこでも働ける。多分二人とも不法滞在者なんだろうが、たくましいなといつも感じていた。

 

ある冬の寒い日。家にいた私にモハマドから電話がかかってきた。

「今、暇?ちょっと来てほしいんだけど。〇〇公園にいるから。」

〇〇公園に行ってみると、モハマドが寒空の下、露店をやっていた。なんで私が呼ばれたんだろう?

不思議に思っていると、モハマドは私を見つけて安堵した顔を見せた。

「助かるよ~ちょっとトイレに行きたくなってさ。店番がいないと困るだろ?」

店番?

私は耳を疑った。冗談じゃないよ。

去ろうとするモハマドを引き留め、店番とはどういうことだ、と聞く。モハマドは台の上に並んだネックレスを指さして、この辺りは1,000円、こっちは2,000円。ピアスや革製品は値段がいろいろだから、覚えなくていいよ、という。

覚えなくていいよ、って、ねえ!?

と思っているうちに、モハマドは股間を押さえながらカフェのある方向へ走って行ってしまった。一人取り残される。うわっ、やられた。

私は露店の前で途方に暮れた。かといって、ここから逃げるわけにもいかない。お客さんが来たらどうすればいいんだ。客をさばけるほどのスペイン語能力はないんだよ。

 

と思っていると、黒いスカートに黒い頭巾をかぶった、ジプシーみたいなおばあさんが現れた。頼むからこっちに来ないでくれ~と思っていると、引き寄せられるように露店の方へやってきた。悪魔が付けそうなごっついネックレスをあれこれひっくり返し、眺めている。そんな大きなネックレスを付けたらおばあさんの首がもげそうだが…とひやひやしていると、おばあさんが私に聞いた。

「これ、いくら?」

来た!その巨大ネックレスは値段が分からないやつだ。ど、どうしよう?

値段が答えられないので、ごまかすしかない。

「それは、えーと、あの…(もごもご)」

私がしどろもどろになっていると、おばあさんは次のターゲットを手に取る。

「これ、いいわね。いくら?」

そ、それは2,000円のやつだ!(値段が分かる商品でホッとする)。

「このあたりの商品は2,000円でして」

私がそういうと、おばあさんは2つ手に取った。

「2つ買うから、3,500円に負けなさい」

そう来るかい。勝手に値引きしていいのだろうか?困った…

すると、通りがかった主婦が、おばあさんの横で先ほどの巨大ネックレスを手に取る。何でこんな派手な巨大ネックレスがスペイン人に人気あるのかしら??おばちゃんも値引き交渉に入った。うわ~~~やめてくれえ!!大パニックになる私。今度は若い女性が一人、ピアスを物色している。

きゃあ~~~~~

スペイン語、分からないんだよ!私に聞かないでえ!!(心の叫び)

見たら外国人(日本人)って分かるじゃん!スペイン語しゃべれないんだよ、と心の中で思うが、お客さんたちは容赦ない(店番してるんだから当然スペイン語が分かると思ってるんだろう)。

もう、適当に(いい加減に?)客をあしらうしかない。値段の分からないネックレスから客の意識をそらすために、値段の分かるネックレスを勧める作戦に出ることにする。

「こっちがいいんじゃないですか?かわいいし」

「あら、これもいいと思うわよ」

頼むから私が勧めるやつを買ってくれ!!!

主婦は1,000円のネックレスを一つお買い上げして、去ってくれた。一人去って安堵する。

「うん、上手上手!やれば出来るじゃん!」

その声に顔を上げると、両手にコーヒーを持ったモハマドが立っていた。トイレから帰ってたのか。どうやらトイレを済ませたあと、私の分もコーヒーを買って戻ってきてくれたらしい。安心感と疲れがどっと出た。

 

モハマドが買ってきてくれたコーヒーを飲みながら、もう二度と露天商の手伝いはやらんぞ、と誓った。

しかし、スペイン語も分からんのに手ごわい値引き交渉をネイティブスペイン人おばちゃんたちと毎日やってたら、そりゃスペイン語も上達するよね。習うより慣れよ。

 

日本でも、日本語学校に通う留学生が飲み屋のバイトをすると、あっという間に日本語が上達すると聞く。日本語学校の先生は優しく日本語を教えてくれるが、飲み屋で注文を聞き逃したら怒声が飛んでくる。

日本語を一瞬も聞き逃すまいと集中するから上達が早いらしいが、飲み屋で聞くのは、文法無視のブロークンなネイティブ日本語だ。分からないとさぞかし心臓がバクバクするだろうな。しかし、語学を上達したかったら、無傷ではいられない。適当でいい、片言でもいいので、何かしゃべらなくては。しゃべってこそ上達するのだろう。