オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

ピーナツバターサンドイッチ

ニューヨーク市内の小学校を見学する機会があった。

「市内小学校を見学したい人はアレンジしますよ」という内容のメールが、大学院の連絡メールで送付されてきた。地元小学校に知り合いがいるアメリカ人学生が、見学の申し込みを取りまとめているらしかった。なんか面白そうだな。

 

私は学校が好きだ。海外旅行中に時間が余ると、現地の大学や学校に行ってみることもある。子どもが授業を受けているのを見るのが好きだし、こんな科目を勉強してるんだな~と眺めるのも楽しい。

フランス人の友人女性にニューヨーク市内の小学校見学の話をしたら、ぜひ行きたいという。私が以前住んでいた下宿先にフランス人のポスドク学生がいたのだが、彼女は彼の奥さんだ。フランスの教員免許を持っているという。つまり学校教育に興味があるわけだ。さっそく2人で小学校見学を申し込んだ。

 

彼女(ノエミとしておく)と待ち合わせ、電車で目的地の小学校へ向かった。ちゃんと連絡が行き届いていて、小学校では私たちが来るのを待っていた。午前中のみの見学の予定だ。まずは授業を見学する。算数、国語(英語)などの授業を見学。この小学校は白人の子どもが多く、校舎も大変きれいだった。

午前の授業が終了し、子どもたちは昼食をとるために教室を離れ、食事スペース(カフェテリア?)へ移動した。ノエミと私もついていく。

 

カフェテリアを見て、私は驚いた。とても広いが、コンクリートが打ちっぱなしで体育館のようだ。なんか、寒々としていない?私は傍らのノエミを見る。ノエミもそう思っていたらしく、私と顔を見合わせた。

 

子どもたちをカフェテリアに連れてきたアメリカ人女性教員が言う。

「家から持参したお弁当をここで食べるんですよ。」

わいわいがやがやしゃべりながら、子どもたちはカフェテリアの椅子に座り、持参したお弁当をカバンから取り出した。いわゆるブラウンバッグランチ、というやつだ。茶色い紙袋に入れたお弁当。中身は家庭によっていろいろだ。ゆで卵1個だけを持たせる家もあれば、リンゴ1個のお弁当の場合もあるし、サンドイッチを持たせる家もある。私は大学時代をアメリカで過ごしたので、アメリカの子どものお弁当を見ても、あまり驚きはなかった。

 

ニューヨークに来てまもないノエミが、私に聞いてきた。

「あの子は何を食べているの?」

ノエミが気になっている子は、ピーナツバターサンドイッチを食べていた。私は小さい声で説明した。

「あれはね、食パンにピーナツバターを塗って、その上からイチゴジャムを塗って、もう一枚の食パンをかぶせたんだよ。あれはアメリカの典型的なお弁当だよ。」

ノエミは目をむいた。

「ピーナツバターの上にジャム?甘すぎない?」

そうか。彼女はあまりアメリカ文化を知らないわけか。私はピーナツバターがアメリカでよく食べられていることを補足した。

「セロリを10センチくらいに切って、セロリのへこみのところにピーナツバターを塗る食べ方もあるよ。」

「なんですって?セロリにピーナツバター?」

ノエミは衝撃を受けたようだった。フランス的でない食べ方なんだろう(日本でもセロリにピーナツバターをつけないが)。

私もアメリカに来たばかりの時は、アメリカ人の食生活に驚いた。でもこういう文化にしばらくいると、案外慣れるものだ。

 

そのあともノエミは

「どうしてお弁当がバナナ一本だけなの?お弁当を作る時間がないの?」

「野菜や果物をバランスよく食べないのかしら?」

「あの量じゃ子どもがかわいそう。お腹がすくわよ絶対」

「お腹がすくと勉強に集中できないわよ」

アメリカ人小学生のお弁当を見て、疑問(及び彼女の教育持論)が止まらなくなった様子だった。説明するこちらもノエミの言いたいことが分かるので、複雑な気持ちになる。

 

私も最初にアメリカの食事&調理を見たときは、

カロリー高すぎる!

野菜が少なすぎる!

野菜料理ってサラダだけなんかい!

これは料理Cookingとは呼ばない、単なるFixingじゃないか!

まな板ないからって、空中で野菜を切るんかい!(エアまな板)

ご飯にコカ・コーラってどうなんだ!

などと、いくつもの質問(及びツッコミ)を抑えられなかったものだ。しかし慣れは恐ろしい。

 

今では、

「自分の文化(日本文化)が必ず正しいとは限らない」

「相手の文化の良い点だけを見習えばよい」

と思うようになったが、そこに至るまでがホント、長い道のりだった。それに、口に合わない食事は避ければよいだけだ。アメリカ生活の中で、(ようやく)自分の口に合うものを発見したときの喜びは大きい!

 

ノエミは「フランスだったら、親はもう少し良いお弁当を子どもに持たせているんじゃないかな」と言う。確かに、フランス人の食に賭ける情熱はただごとではない。食い意地?が文化に昇華している、と言っても過言ではない。

ほかのフランス人の友人も「アメリカはチーズの種類が少ない上に、高い!」「食事に関してはフランスの方が種類も豊富でおいしい」と言う。(そんなに食べ物がおいしいなら、私もいつかフランスに住んでみたいものだ)。

 

私は料理が好きな方だが、ネットでキャラ弁の写真を見るたびに、「こんな芸術的な弁当を毎日作るなんて、すごすぎる…私には無理だわ」と打ちのめされる。私はたいてい、前日の残り物を弁当箱に詰めるだけだ。

しかし、アメリカの小学生のお弁当がバナナ一本だからといって、親の愛情が少ないわけではないと思うよ。朝食と夕食は家でたくさん食べているかもしれないし、朝はやっぱり時間がないので、簡単なお弁当にならざるを得ないんじゃないですかね。

 

昼食時間が終わり、子どもたちはぞろぞろとカフェテリアを出ていった。その姿を見ながら、ノエミが最後に一言。

「それに…どうしてカフェテリアでコートやジャケットを着たままなの?こんな体育館みたいなところで寒さに震えながら食べるんじゃなく、もう少し人間的な食事場所がないのかしら?」

その点は同感。日本みたいに教室で食べる方がいいんじゃないかと私も思う。移動する必要もないし。

アメリカと言っても地域や学校によって様子は異なるだろうし、もっと設備が整っている学校もあるだろう。私たちが見学した小学校は普通レベルの学校だったのだと思う。

 

ノエミ的には「ピーナツバターサンドイッチ」の破壊力がすさまじかったようだ。帰路の電車の中で何度も「フランスに帰ったら、アメリカのお弁当のことを友達に教えてやるんだ」とずっと言っていた。

私としては、普段は穏やかなノエミがアメリカの小学生の弁当を見た途端に熱く語り始めたので、こんなにしゃべる子だったのかと驚いた。ま、確かに食の王国?フランスから来ると、アメリカのお弁当は手抜きに見えるだろうな。でも文化は国それぞれ。

 

ピーナツバターサンドイッチも、最初は「甘い(ピーナツバター)ON甘い(ジャム)、じゃん!」とびっくりしたが、何度か食べると美味しく感じるようになります(自分で作ったりもしちゃいます)。たぶん、アメリカ版おふくろの味?かもしれない。