ナミビア北部のカオコランドはヒンバ族で知られている。
ヒンバ族は、男性は目立たない?が、女性は体を赤く塗ることで知られている。
赤い石を長細いすり鉢で砕き、その細粉を練って体や髪に塗る。
化粧の意味合いもあるが、虫よけの効果もあるらしい。
カオコランドへ来る観光客は、たいていヒンバ族を目当てに来るのだ。
しかしカオコランドへ来れば、その辺のスーパーでも買い物中のヒンバ族の女性を見かけることが出来る。
ヒンバ族の言葉は分からないので、元ヒンバ族のガイドさんを通して彼らと話をする。
ガイドさんは、もともとはヒンバ族の生まれ。
諸事情あって伝統生活を捨て、現代的な生活をしている。普通の黒人のおばちゃん?になったのだ。
ヒンバ族は現代文明を拒否し、昔ながらの伝統的な生活をしている。
村には電気や水道もなく、人は牛糞と蟻塚で作った住居に住んでいる。
ヒンバ族の村の村長さんやガイドさんと話をしていたら、ヒンバ族は現代の西暦カレンダーを使用していないことが分かった。
そういうところまで、現代文明を利用していないわけですね。
カレンダーを持っていないということは、自分の生年月日をどうやって把握するのでしょうか?
その点が気になって、ガイドさんに聞いてみた。
すると彼女の答えはこうだった。
「親は子どもの生まれた日のことをどうやって覚えているかって?
〇〇族と××族が戦った年の翌年の、4回目の満月になった日から数えてちょうど5日目に生まれた赤ちゃん、という感じで覚えているの。なので、それを西暦に当てはめると赤ちゃんの生年月日が分かるのよ。ちゃんと身分証明書やパスポートも発行してもらっているわよ。」
そういう記憶方法があったか。
文字を持たない人たちは、本当に記憶力が良い。
先進国と呼ばれる国の人(日本も含め)は、文字に頼り過ぎて、ちゃんと記憶していない気がする。
特に私は文字に頼りっきりで覚えようとしない…反省。
彼らはカレンダーを持っていなくても、ちゃんと記憶に残しているのです。
文字に頼らない記憶力について、もう一つ感心したことがあった。
コートジボアールにいたときのこと。
私は市内バスに乗り、どこかへ向かう途中だった。
すると、バスで隣の座席に座ったおじさんが、私に話しかけてきた。
見たところ私は黒人ではないので、珍しいなと思ったんだろう。
おじさん「ボンジュール!君は外国人かい。」
私「ええ、日本人です。」
おじさん「そうか!日本か~」
みたいな感じで会話が始まった。
気のいいおじさんと車内で会話が弾んだが、私の降りるバス停が迫ってきた。
「じゃ、私は〇〇へ行くんで、ここで。」
と言って失礼させてもらおうとしたら、おじさんが、
「せっかく知り合いになったのに、残念だね。そうだ、そのうち俺の家にご飯を食べに来ないか?」
と誘ってくれた。
なんて親切なおじさんなんだ。
「じゃ、連絡先をください。電話番号を教えてもらえますか?」
と尋ねると、おじさんは首を振った。
「俺は貧乏だから電話を持っていない。」
「じゃ、住所を書いてもらっていいですか?必ず遊びに行きますから。」
とカバンからメモを取り出して、私はおじさんに差し出した。
おじさんはメモ帳を見ると、困ったようにはにかんだ。
「ごめん…俺は学校へ行っていないから、文字が書けないんだ。」
私は一瞬息をのんだ。
悪いことを頼んでしまったな。
おじさんは電話も持っていないし、文字の読み書きも出来ないのか。
私はメモとペンを持ったまま、固まってしまった。
するとおじさんは元気づいて言った。
「でもなあ、俺の家はすぐそこなのさ!」
すぐそこ?
と私が戸惑っていると、おじさんは勢い込んで説明し始めた。
「××のバス停を降りるだろ。そしたら歩いていって5本目の道を左折するんだ。そこから歩いて2本目の道を右折し、まっすぐ歩いていくと川が見える。川沿いに下手へ歩いていくと船着き場がある。川を渡って対岸を歩いて7本目のヤシの木を右に曲がってだな」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!何ですって??
おじさんは得意になって自宅への道順を説明し始めた。が、長すぎるし複雑だ。
覚えられないよ~と言う私に何度も復唱させ、覚え込ませる。
頼むから××通り〇番地、っていう住所はないのかい。
おじさんに別れを告げ、目的地のバス停で降りてから、私は速攻メモを取り出した。
おじさんに言われた道順を今書かないと忘れてしまう!
その後、日を改めて、自分の怪しい記憶とメモ書きを頼りにおじさん宅を訪ねてみた。
おじさん宅は見つかった!7本目のヤシの木、ありましたよ!
なのにおじさんは不在で、奥さんが「すみませんねえ」と謝ってくれた。
ああ、せっかくランチを楽しみにしてきたのに。
電話を持っていないので、おじさんの在宅を確認しようがなかったのだ。
家への道順なんて一回説明すれば覚えるでしょ、とおじさんは思っていたようだが、私は文字中毒と言っても過言ではないくらい、文字に頼っている人間。
アフリカの人たちほどの記憶力はない。
イスラム教が伝播するまで文字がなかったので、アフリカの人たちの記憶力は鍛えられたんでしょうか。
なんでも覚えておかないといかんもんね。
多分、新社会人は会社で上司に「メモを取れ!」とよく言われると思いますが、アフリカの人たちほど記憶力が良ければ、メモなんて必要ないでしょうね。
アフリカに住んでいて、彼らの視力の良さには度肝を抜かれましたが、記憶力もめっちゃ良かった!
私はすぐにメモしますが、すぐにメモをするということは忘れるのも早い。
記憶しよう、と努めることがないですからね。
「自分の脳みその10%も活用していないのでは…」と思ったりします。
ホント、アフリカの人は神が人類に与えたものをフル活用していますね。