オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

アビジャンの乗り合いタクシー

 

コートジボアールのタクシーについて少し書きたい。

アビジャン市内には路線バスもあるが、ウォロウォロと呼ばれる乗り合いタクシーもあった。

 

乗り合いタクシーとは何かというと、車のタイプはセダン、またはステーションワゴン

バスのように決まった路線内を行ったり来たりする。

その路線内なら好きなところで乗れるし、好きなところで降りられる。

最大乗車人数は4人だ。後部座席に3人(かなりぎゅうぎゅうだが)、助手席に1人。

日本にもこういうものがあると便利なのだが。

 

私は通勤にこの乗り合いタクシーを利用していた。

最初は「バス通勤で」と聞いていたが、自宅近くから職場の方へ行くバス路線がない。

困ったな、と思っていたら、乗り合いタクシー路線ならある、ということが分かった。

 

バスなら〇番は△方面、×番は◇方面行き、とルートが決まっており、バスの正面に番号もついている。

乗り合いタクシーは車体に番号もなく、乗り場も適当だ。

大体このあたりから、△△方面の乗り合いタクシーが出るはず…という、あいまいな感じ。

乗り場もたまに移動してるし。

なので、乗るときに一応、「〇〇方面へ行く?」と聞いてから乗るようにしていた。

 

日本人やフランス人など外国人は、基本的には自家用車移動が多い。

もしくは社用車、正規タクシーなどを利用する。

バスや乗り合いタクシーを利用しているのは現地人だけだった。

なので、現地人に交わる勇気がなければ、そして多少の語学力がなければ、乗りこなせない。

しかし利用できるようになればこれほど便利な移動手段はない。

 

 

ある日、珍しく早く午前中の業務が終了したので、お昼を食べに家にいったん帰ろうと思った。

昼食後にまた乗り合いタクシーで職場に戻ればいいと考えたのだ。

 

職場の外で乗り合いタクシーを待った。

空がどんどん曇ってきて、怪しい天気になり始めていた。

風もびゅうびゅう吹いてきて、こりゃすぐにも一雨来そうだな。

早くタクシーに乗りたい…と思っていたら、私の目の前をえらくポンコツの乗り合いタクシーが過ぎた。

上り方面?へ去っていったが、まれに見るおんぼろタクシー。

私は笑いをこらえながら、そのボロボロタクシーを見送った。

あれには乗りたくないもんだ。

 

なおもそこでタクシーを待っていると、なんと、先ほど過ぎ去ったポンコツタクシーが戻ってきた!

私の職場近辺はちょうどターミナルのようになっている。

先ほどのタクシーはそのまま下り方面へUターンし、今度は下り路線で客を拾おうと戻ってきたようだった。

 

もしや、嫌な予感がする…いやだ、あれには絶対乗りたくない。

と心の中で激しく拒否していたのだが、そのポンコツタクシーはガタピシ言わせながら私の前に止まった。

見ると、車体も傷ついてボロだし、運ちゃんもさえない中年。

運ちゃんは「乗るよね?」という感じで私を見る。

 

あ~。

この一台を見送って、次に来るかもしれないピカピカの新車に乗りたいものだが、この時間はお昼であまりタクシーが通らない。

しかも、みるみるうちに黒い雲が空一面に広がって、雨をはらんだ雲が重たく垂れこめてきた。

こういう日に限って傘を持っていない。

土砂降りに濡れながらタクシーを待つか、とりあえずこのポンコツに乗るか。

 

私の頭の中には、今までに乗った様々なポンコツタクシーがよぎった。

タクシーの床に穴が開いていて、下の道路が見えるタクシー。

猫でも買ってるのか?というくらいシートがボロボロのタクシー。

うう…悩む。

しかし、雨が降りそうだし、これ以上待ってタクシーが来ないのも困る。

しかたなく、涙を呑んでそのポンコツタクシーに乗った。

 

タクシーに乗って3秒もしないうちに、大粒の雨が降ってきた。

乗ってよかった…とホッとするのもつかの間、雨はかなり激しくフロントガラスに叩きつける。

すごい雨だな…ん?

何だか変なことに気づいた。

フロントガラスを、滝のように雨が流れる。私は運ちゃんの横顔を見た。

「ねえねえ、ワイパー動かさないの?」

運ちゃんは困ったように言った。

「ワイパーは壊れてんだよね。」

ほーら来た。どうすんだよ、雨なのに前が見えないっての。

 

雨はどんどん激しくなり、前どころか横の窓ガラスにも強烈に叩きつける。

運ちゃんは慎重に車を進める。

ま、前が見えなかったらそうしてほしいものだ。

信号の色くらいは見えるんでしょうけど。

 

ももの下に何だか冷たいものを感じて、私は自分のシートを見た。

ぬ、濡れてる?!

よく見ると、窓ガラスがちゃんと閉まっておらず、隙間から雨が流れ込んできていた。

 

その車は昔懐かしい、ハンドルをぐるぐる回して窓ガラスを上下させるタイプだった。

私は慌ててハンドルをぐるぐる回した。

一番上まで窓ガラスを上げたはずなのに、どうしても隙間が出来る。

くー、どれだけポンコツなんだ!!

 

こんなボロタクシーに乗ってしまった不運を呪いたい。

私はあわよくば他のタクシーに乗り換えようと、大雨の降る町へ目を向けた。

といっても、いかんせんワイパーが動かないので、これだけ大雨だと何にも見えない!

 

私は必死に目を凝らした。

窓の外は猛烈な大雨のせいで、車も人も一切通らない。

乗り換えようにも、道にはバスも車も全然走っていないのだ。

腹立たしいが、ほかのタクシーが通りがかるまで、このポンコツに我慢して乗っているしかない。

 

ん?

私はさらにおかしなことに気づいた。

運ちゃんが前を見ながら両手でハンドルをつかみ、肩に力を入れて踏ん張っている。

ワイパーが動かないので、いくら目の良いアフリカ人でも相当目を凝らさないと前が見えないということは分かるが、それにしても行動が妙だ。

秒速50センチくらいのスピードまでダウンしている。

ここまでゆっくり走る必要があるのか?歩いた方が早くないか?

 

「どうしたの?また何かあったの?」

また問題が発生したら困るので、私は勢い込んで尋ねた。

運ちゃんは前を向きながらこわばった声で答える。

「ブレーキがきかなくなった。」

何ですって?(←ドスが効いている声で)

 

この時の自分の形相がどうなっていたのか覚えていない。

私の顔色が変わったのが分かったらしく、気の弱そうな運ちゃんはおびえた顔をして私を見た。

「で、でも、ブレーキの上には足を置いてるよ。」

なんだとお?

「さっきから車が惰性で動いてんだよね。だから大丈夫かも」

そういやあ、さっきから緩い坂道に差し掛かっている。

我々は坂を下っていく形になっている。

雨で路面がぬれているし、何もしなくても前に進んでいるわけだ。

でも、ブレーキきかないのに止まれるのか?

 

うおおお~!!

どうしてこんなタクシーしか来なかったんだ?

どうしてこのポンコツに乗っちゃったんだ?

傘を持ってくれば、このポンコツに乗らずに済んだ。アホな自分。

うああああ~~~!!

色々腹立たしい。こんなポンコツ、廃車しろ廃車!

どんどん雨がシートに流れ込んできて、お尻も冷たい。み、みじめ。

 

ここで怒っても仕方ないので、怒りをかみ殺してフロントガラスの向こう側をにらみつける。

私の殺気を感じたのか、気の弱そうな運ちゃんがますます小さくなる。

こういう日に限って、乗り合いタクシーに乗り込んでくる乗客もいない。

 

秒速50センチで大雨の中をようやく前に進むポンコツタクシー。

運ちゃんは乗せた乗客(私だ)が怒りではちきれそうになっているのが分かるらしく、たまにちらちら私の方を見るが、どうしようもない。

私が怒りで無言になってしまったので、車中は目的地に到着するまで重苦しい静寂で満たされた。

もはや車に乗っている意味はない。

タクシーとは名ばかりで、単なる雨傘と同じだ。

 

結局、タクシーはガタピシ言いながら、私の自宅付近までたどり着いた。

半分は怒りで、半分はブレーキが利かないのに無事に帰宅できた安堵感で、私はため息をついた。

運ちゃんに125フラン(約24円)を支払いながら車から降り、少し小ぶりになった雨の中へ出た。

運ちゃんも、怒気をあらわにした外国人が降りてくれてホッとした様子だった。

 

あちこちの国でポンコツタクシーに乗ったが、この時ほど腹が立ったことはない。

タクシーにも、乗ってしまった自分にも、乗らざるを得なかった状況にもだ。

 

見た感じからしてボロのタクシーには乗ってはいけないと肝に銘じた。

とはいえ、状況が許さなければ仕方ないんだけど。

今振り返ると自分の短気さに笑ってしまうが、あの運ちゃんのおびえようは本当に申し訳なかったです。