オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

アビジャンの物まねおじさん

インドネシアの話が続いたので、今日はコートジボアールについて書きます。

 

アビジャンで生活が始まって何に一番驚いたかというと、物乞いの多さだ。

アフリカに限らず、インドでもメキシコでもどこでも、途上国と呼ばれる国には多くの乞食がいる。

ストリートチルドレンだったり、子どもが目の見えない老人の手を引いていたり。

 

よくアメリカで聞いた話は、プロの?乞食がいるということ。

そういう人たちは本当は生活に困っていないのだが、乞食をやって生活費を稼いでいるとか聞く。

または、乞食の総元締めがいて、その人が鵜飼のごとく何人ものプロ乞食を雇い、町に放す。

そして彼らの毎日の売上高から手数料を差し引いて、給料を支払っている、といった類の話だ。

 

物乞いについては様々に悪い話を聞くので、本当に生活に困っているのかどうか分からない。

なので、乞食の人に「なんかくれ」と言われるときは、私はただであげないようにしていた。

 

例えば、道で会ったストリートチルドレンが「お金をちょうだい」と言ってきたとする。

すると、私は彼に何か軽い仕事をさせる。

私が重いスーパーの袋4つを持っていたら、3つを私の自宅の入り口まで運んでもらう。

その労働の対価として、お金をあげるようにしていた。

 

私のポリシーであるが、働かない人にはお金をあげない。

(もちろん、働けない理由があればこの限りではないけど)。

荷物を運ぶとか、靴を磨くとか、何でもいいから働いてくれたらお金を出すことにしていた。

 

ある週末、私は家にいた。

誰かがうちの玄関のドアをノックする音が聞こえた。

防犯上、念のためドアを開けずに「誰ですか?」と尋ねた。

すると「各家庭を回ってるんですが」という声がした。

 

各家庭を回っている、とはどういうことだ?

私はマンションに住んでいる。

この建物の各住戸を回っているということなんだろうか。

ちょっと不審に思ったが、よく分からないので私はドアを開けてしまった。

すると、見知らぬおじさんがニコニコしながら立っていた。

 

「どちら様でしょうか?」

と尋ねると、乞食だという。

あーあ、ドアを開けちゃったよ。

 

今からおじさんの鼻先でドアをバタンと閉めるわけにも行かない。

どうしよう。

というか、どうやって追い払おう?

 

おじさんは乞食だと名乗った瞬間、私が一瞬、嫌な表情をしたのを見逃さなかったらしい。

「ただの乞食じゃありませんよ。芸ができますよ!」

といい始めた。

 

芸?

まさかアシカとかオットセイみたいに曲芸じゃないよね?

と私が思っていると、おじさんはラミネートした一枚の白い紙を大事そうにふところから取り出した。

えらく使い込んだ紙で、折りたたまれたしわがいくつもついている。

私もその紙をおじさんの横からのぞき込んだ。

 

その紙にはリストが載っていた。

1番から50番か60番くらいまであっただろうか。

全部フランス語で書いてあった(よかった現地語じゃなくて)ので、私にも読めた。

 

おじさんは得意げに私に向き直った。

「マダムがリクエストしてくれたら、何番でもやりますよ!私は物まねが得意なんですよ!」

私はおじさんからその紙を受け取って、しげしげと眺めた。

この50種類の物まねが出来るってこと?

 

おじさんはやる気満々で私を見ている。

半信半疑で私はもう一度そのリストを眺めた。

物まねをやるので、うまく行ったら何かちょうだい、というわけだ。(これが彼の仕事ですもんね)

なるほど。ただでくれとは言わないよ、ってことか。

 

本当に出来るんだろうか?嘘なんじゃないの?

と私は思ったが、おじさんの言う通り、そのリストからいくつか選び、やってもらうことにした。

「じゃあ、4番、赤ちゃんの泣き声。」

というと、おじさんはおぎゃーおぎゃーと赤ちゃんの泣きまねをしてみせた。

すごく上手ではないが、すごく下手でもない。

微妙だ…。

 

もう少し、彼の実力を見せてもらおう。

「じゃ、次。18番、さかりのついた猫のケンカ」

おじさんは猫になり切り、一人二(匹)役で猫のケンカを演じて見せた。

ふーむ。なるほど。

コートジボアール人には、猫のケンカとはこういう風に見えているのか。

了解了解。ま、悪くないんじゃない?

 

「じゃ、36番、壊れたタクシーの音。」

「次、41番」

「じゃ、えっと…6番行ってみようか」

 

私はリストを見ながら、次々にリクエストを出す。

おじさんは役柄になり切り、様々な声音を使い分け、ある時はヒョウになり、ある時は川に流される空き缶になり、またある時はニワトリになって空を舞った。

 

目の前でいくつもの演技を見ているうちに、耐えきれず笑ってしまった。

数個リクエストしたが、仕上がりは可もなく不可もなく。

しかしどうやら本当に50種類の物まねが出来ることが分かった。

週末で暇だったので、楽しい時間つぶしになった。

 

これなら観客を楽しませたといえる?ので、対価を支払うのに値するだろう。

「ちょっと待っててね。」

小銭がなかった私は台所に引っ込んで、買い置きの玉ねぎ2個とジャガイモ2個を袋に入れた。

「これしかないんだけど、いい?」

と言っておじさんに手渡すと、おじさん大喜び。

「マダム、メルシー、メルシー」

と拝み倒さんばかりに喜んで去っていった。

 

その後、上の階に住んでいる知り合いにこの話をしたら、「俺の家には来なかった」という。

思いのほか実入りがよかった?ので、「今日の仕事はこの家で終わりだ」と帰ったのだろうか。

 

ジャガイモ2個と玉ねぎ2つで、その日の十分な稼ぎになったのかもしれない。

面白かったので、今度は友人がうちに遊びに来ている時におじさんに演技をしてもらいたかったな。

 

しかし、おじさんは二度と現れなかった。

アビジャンは大都会なので、あちこちのマンションを回っているのだろうか。

乞食、と名乗っていたが、芸人、と名乗ってもいいような気もする。

 

一つ一つの芸は大したことがないが、50種類全部暗記していたのは大したもんだ。

私は最終的には大満足しました。

あの使い込んだ物まねリストから行くと、長い間物まね芸人をやっているんだろうな。

しかし、うちの玄関でいい年した中年のおじさんが「携帯電話」になり切って演じていた様子は、かなりシュールだったぞ。