南アフリカは豊かな大自然に恵まれ、気候も過ごしやすく大変生活しやすい国だ。
南部は地中海性気候で、ブドウが取れワイン造りに適している。
ワインランドと呼ばれるエリアで酒蔵をめぐるツアーまである。(ワイン好きなら最高です!)
ちなみにワインは南アの輸出品の一つ。
こんなに素晴らしい国なのに、治安は悪かった!
私が住んでいたプレトリアには、当時、大きなモールが2つしかなかった。(仮にA、Bとしておきます)
食料品中心の小さなモールはいくつもあるのだが、服や靴、日用雑貨等を買うのであれば、その2つのうちどちらかを利用していた。
ある土曜日の朝、私が家で掃除をしていると、同僚から電話があった。
「今、もしかしてAモールで買い物してますか?」
家にいる、と答えると、どうやら早朝からそのAモールに強盗が入ったということだった。
朝っぱらから強盗なんて、すごいなあ。と最初は感心していた。
月曜日、出社して南ア人スタッフに聞くと、どうやらAモールを襲撃した強盗は2人組だったらしい。
その日は非番で、たまたま奥さんと一緒にモールへ買い物に来ていた南ア特殊部隊(スコーピオンという)のおじさんが、目の前のスーパーに武装強盗2人組が押し入ったのを見て、携行していた銃を抜いて1人の強盗を射殺したという。
もう1人は逃してしまったらしい。
銃をとっさに抜いて、動いている相手に命中するとはかなりの腕前。
(プロだから当たり前か)
武装した相手にひるまず撃てるというのは、さすが特殊部隊ですね。
しかし、そんな銃を持ったおっさんが普通に買い物してるってねえ…。
ある日のお昼休憩に、ATMでお金をおろそうと職場近くの銀行へ行った。
すると、物陰に自動小銃を構えたお兄さんがいてギョッとした。
見渡すと、武装したセキュリティガードが数人、あちこちに隠れていた。
これから現金輸送車が来るのだという。
それを襲う強盗がいるので、強盗対策用に数人のガードマン(っていうか見るからに兵士)をあちこちに待機させているらしい。
悪いことはしていないが、ドギマギしました。
ある金曜日の午後。
女性同僚3人と、
「今日の仕事が終わったら、Bモールにアイスクリームを食べに行こう!」
と話していた。
するとタイミングよく、南ア人スタッフから私に連絡が入った。
「もしもし?今日はBモールに行かないよう、日本人スタッフに言っといて」
という。
私は自分の計画がつぶれることになるので、少々鼻白んだ。
「なんで行っちゃいけないわけ?何かあったの?」
すると彼は、
「たった今、3人組の武装強盗がBモールに入ったんだよ。スーパーから現金を強奪して逃走中。」
という。
へっ?
「駐車場へ逃げ込んで、買い物のために駐車場に入ってきた車の女性ドライバーを脅して、彼女の車を奪って逃げた。そこへ、追ってきた警備員と銃撃戦になった。そこから逃げて、今は〇〇方面の通りで警備員や警察と銃撃戦になっている」
〇〇方面って、うち(私の自宅)の近所じゃねえか!!
く…。
悔しいが、アイスクリームをあきらめるしかない。
しかも、そいつらが逮捕されるまで、私は帰宅できないじゃないか!
早く仕事を終えて帰ろうと思ったのに…会社にいるしかない。
するってえと、残業か!(怒)
こんな悔しい思いをすることも一度や二度ではなかった。
会社にいるのが安全かというと、会社も武装強盗に入られたことがある(たまたま日本人スタッフは誰もいなかった)ので、安全な場所なんてどこにもないんですけど。
南アに住み始めて2年ほど経つと、だんだん私も治安の悪さに慣れてきた。
しかし、いくら自分が気を付けていても、自分の努力で防衛できないこともあるものだ。
ある日、上司と他の国へ出張することになった。
西アフリカと異なり、南部アフリカはそれぞれの国の通貨が違うので、出張が面倒なのです。
どの国でも信用されるのは、やはり米ドル。
しかし、ここで問題。
南アがいくら発展している国とはいえ、日本と違ってドルを入手するのは簡単じゃないのです。
あらかじめ銀行にドル準備をお願いしておき、翌週にドルを受け取りに行っていました。
で、出張にあたり、いつものように銀行に米ドルの用意をお願いしておいた。
今日の午後に受け取りに行く、という日。
お昼ご飯を買って職場に帰ってきたら、上司が妙な顔をして私を待ち構えていた。
「さっき、銀行から電話かかってきたよ。今日は銀行に来ないで、だって。」
なんですと?
私は慌てて自席に戻り、弁当をほっぽらかして銀行の担当者へ電話した。
キャサリンちゃん(仮名)という女性担当者は、すぐに電話に出た。
「先ほど電話をいただいたみたいですが」
と切り出すと、キャサリンは落ち着いた声で答えた。
「ええ。今日の午後、うちの銀行にドルを取りに来る予定だったでしょ。でもね。」
でもね?
嫌な予感が当たった。
キャサリンによると、たった今、銀行に8人組の武装強盗が押し入ったという。
彼らは窓口の行員たちを銃で脅し、ランド(南アの通貨)を持参したバッグに詰めさせ、逃走したという。
けが人はゼロ。
けが人はいない、というのを聞いて、私はホッとした。
セキュリティ会社や警察が駆け付けたが、脅された女子行員たちは恐怖で泣き叫んでいるという。
「あなたは大丈夫?」
と聞くと、
「大丈夫、心配しないで。でも、銀行は今日は閉店よ」
という。キャサリンが落ち着いていて安心した。
さすがベテラン行員。
ありがたいことに?私がお願いした米ドルは別室にあったので無事。
上司に事情を話し、別の日にドルを取りに行くことにする。
受け取りには私ではなく、男性である上司に行ってもらうことにした。
(私が行ってもよかったんですが、上司が男気を出したわけです 笑)
ドルを強奪されたら、上司の退職金でどうにかしてもらいましょう、ってことで。(←ひどすぎる)
こういう事件がちょいちょい起きていたので、自分は無事に日本へ帰れるのかなあ?
と思うこともありました。
おかげさまで何も事件に遭わずに元気に帰れました!
同じアフリカでも、コートジは政情不安で年中デモが発生して市民が軍隊と衝突してました。
政情不安は国全体の話ですが、一般犯罪は自分も巻き込まれる可能性がありますよね。
コートジの方が南アに比べればまだ安全だったな、と思ったり。
そのあとでインドネシアに赴任したので、アジアはやっぱり穏やかでいいなあ~と思ったり。
南アに着任直後、住居を借りるために不動産会社の社員と話していたら、その人は私と同じ年だった。到着したばかりで、少々不安だった私は聞いた。
「南アって治安が悪いんでしょ?」
すると、
「確かに治安は悪いけど、私は人生で3回しか強盗に遭っていないわよ!だからそんなに悪くはないと思うの。南米の方がよっぽど治安が悪いんじゃない?」
と言われた。
いやいや。
人生で3回も強盗に遭っていたら十分でしょ。
でも、治安が決定的に悪い、という欠点を補って有り余る良いところが、南アにはたくさんあるんですよ!
治安さえ良ければ、私は南アに家を買って移住したかったなあ~。
全て完璧な国というものは、なかなかないものです。
いまだに南アフリカの風景の美しさは、忘れられません。