オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

グルメじゃない

 

今日は、ある日本人の同僚のことを書いてみます。

 

インドネシアに赴任した当初、私はかなり緊張していた。

アジアの国で働くのは初めてだったし、インドネシア語が全然分からない。

 

私の勤務する職場に、Aさんという方がいた。

彼と私は全く違う部署で働いていた。

 

なぜAさんと仲良くなったのか、きっかけを覚えていない。

しかし、ある時、「今度一緒にお昼に行きましょう」と言われた。

どうせ社交辞令だろうな…と思っていたら、Aさんは本当に私をお昼に誘ってくれた。

 

その時、たまたまAさんが

「和食を食べましょうよ、たまには」と言ってくださった。

ジャカルタ日系企業がたくさん進出しているので、日本料理店もたくさんあるのだ。

 

Aさんがなぜその店を選んだのかは、席について分かった。

その店はランチの時間はガラガラだった。

うちの会社の人が誰もおらず、のんびり気兼ねなくおしゃべりが出来る穴場だったのだ。

 

最初の日は、あたりさわりのない話に終始した。

どこの国で働いたことがあるとか、どんな仕事をしたとか、そんな感じだ。

Aさんは大柄な男性で、柔道をやっているという話だった。

別の同僚から聞くところによると、Aさんの息子さんも柔道をやっていて体形がそっくりということだった。

 

Aさんは、大柄でいつもニコニコしていたが、実は非常に繊細な方だった。

私も最初はだまされそうになったが、本当は気配りが細やかで、優しい人だったのだ。

 

何度かランチを一緒にして分かったが、にこやかなAさんも仕事で行き詰まることがあるらしかった。

煮詰まった時に、ひょいっと私に声をかけてくる。

「今日、お昼一緒に行きませんか?」

 

私にもだんだんそれが分かってきた。

Aさんは、まったく違う部署の人と話すと気が楽になるんですよ、とよく言っていた。

ま、だいたい仕事ってそういうものですよね。

 

ある日、私は残業を終えて帰ろうとしていた。

するとAさんが珍しく、

「もしよかったら、夕飯を一緒にどうです?」

と誘ってきた。

私はもちろんOKだ。

 

Aさんと、どこのレストランで夕飯を食べるか、という話になった。

 

実は、Aさんと夕食を食べる何日か前に、別の男性同僚と夕食を食べて帰った。

その人をBさんとしておく。

 

Bさんに、

「何を食べたいですか?」

と聞いたところ、

「何でもいいですよ」

と言う。

「じゃ、韓国料理でいいですか?」

と聞いたら、Bさん、突然目をむいて叫んだ。

 

「ええっ?私、韓国なんて大嫌い!中国と韓国は嫌いなの。マレーシア料理にしようよ。」

 

こう言われたことが私のトラウマになっていた。

(中国と韓国は国として嫌い、と言われてもねえ。食事はおいしいじゃないか…)

 

Aさんに、「何が食べたいですか?」と聞くと、「何でもいい」という返事。

何でもいい、っていう人ほど、あれが嫌だ、これが食べたくない、とか言うんじゃないの?

と(トラウマになっている)私は疑心暗鬼になった。

 

私は好き嫌いがあまりない方だ。

だいたいどこの国へ行っても、現地料理を楽しめる健啖家?だ。

だから、野菜が嫌だとか何とかが食べられないとか、好き嫌いが極端に多すぎる人とは楽しく過ごせない。

好き嫌いは一つか二つにしておいてほしいもんだ。

 

Bさんとご一緒したときは、結局マレーシア料理店へ入った。

メニューを見ると、おいしそうな献立がたくさん。

Bさんは私より目上のおじさんなので、こちらも気を遣う。

「何が食べたいですか?」

と聞くと、「何でもいいよ、好きな物頼んでいいからね」とまた言う。

 

メニューをめくっていたら、おいしそうな麺料理の写真が載っていた。

「わ、この麺おいしそう!」

と私が言うと、Bさんはせかせかと言った。

「麺を食べたいの?うわ、信じられない!この店はご飯がおいしいのよ!」

(Bさんはおじさんだが、少々女性っぽかった)。

 

私は焦って、言い直した。

「じゃ、じゃあご飯料理にしましょうか?ね?」

するとBさんはメニューをめくりながら言った。

「え?いいの?じゃ、ご飯料理にする?」

 

そっか、やっぱりご飯料理がいいのか。

と私は胸をなでおろした。(ドキドキ)

しかしBさんは怒ったように続けた。

「でもいいわよ、あなた、麺料理が食べたいんでしょう?麺にすればいいじゃないの!」

 

私は慌てて手を振る。

「いえいえ、ご飯が食べたいんですよ!ご飯にしましょう!」

Bさんは、口をとがらせながら言う。

「そう?それならやっぱりご飯にする?美味しいのよ、ここのご飯メニュー」

 

こんな感じで、Bさんがご飯料理、野菜や肉料理、揚げ物等を選んだ。

Bさんのお勧めだけあって、どれもおいしかった。

 

私と一緒で楽しいのか分からないが、なぜかBさんはよく私を昼食や夕食に誘ってくださった。

私はほとんど好き嫌いもないし、何でも食べる子なので、Bさんは楽だったのかもしれない。

 

こういう一件があったので、私はAさんに対しても多少身構えていた。

Aさんも私より年上のおじさんだからだ。

あれが嫌だとか、これがおいしいのよ、とか、うんちくがあるのかもなあ。

 

夕飯、どこにしましょうかねえ、と言いながらAさんと職場近くのモールを歩いていると、韓国料理店の前を通りがかった。

実は、私はその店を愛用していた。

 

その店は安かった。

韓国料理は無料のおかず(ミッパンチャンでしたね)がたくさんついてくる。

おかずは野菜料理が多く(サラダとか和え物とかね)、お代わり自由。

なので、がっつり食べたいときは、いつもその〇〇という韓国料理店へ行っていた。

 

ジャカルタで知り合った韓国人の友人は、韓国人だけあって韓国料理にうるさかった。

彼に言わせると、その〇〇という韓国料理店はインドネシア人がやっている店なので、おいしくないという。

 

「キムチは××にある△◇って店がおいしいんだよ。焼き肉なら★★だね。〇〇は、韓国のお母さんの味じゃないから、韓国人は誰も行かないんだよ。あの店、インドネシア人がやってるでしょ、だからおいしくないんだよ。」

 

ふーん。

そう言われれば、その韓国料理店〇〇は、いつもインドネシア人客しか入っていない。

彼の言う通り、韓国人らしき客を見たことがない。

 

しかし、本場のお母さんの味じゃない…と言われても、こっちは韓国に住んだこともないし、韓国料理のド素人。

私はやはりグルメじゃないのか、本場の味じゃなくても十分おいしく感じられる。

 

そういうことがあったので、Aさんと私がその〇〇という韓国料理店の前を通りがかった時、私は黙っていた。

 

そこは韓国人の友人の言う通り、高級料理店でもなかった。

でも、私には十分だ。

白いご飯とキムチだけでも、私は美味しく食べられるのだ。

 

しかし、Aさんが何というか分からなかったので、私はそ知らぬ顔をしていた。

Aさんに「もっと高級な店へ行こう」と言われたら、それはそれでいい。

 

すると、意外にもAさんはそこで立ち止まった。

「どうです、今日は韓国料理で?」

私は内心、驚いた。

 

「い、いいですけど。このお店でいいんですか?」

 

Aさんはいつもの笑顔で言った。

「いいですよ。韓国料理、おいしいじゃないですか。嫌いですか?」

嫌いなわけがない。私の愛用店だ。

私はダメ押しで言った。

 

「韓国人の友人が言ってたんですけど、このお店、インドネシア人がやってるんですって。」

Aさんは、私が何を言いたいか察したようだった。

 

「あ、そうなんですか。へえ、知らなかった。じゃ、本場韓国の味じゃないんですね。

でも僕、グルメじゃないんですよ。ハハハ。なんでも美味しく食べられるタイプなんで、この店の料理、おいしく感じます。この店、結構来てますよ。」

 

おおっ!

何ていい人なんだ!

 

私は急に、視界がパーッと明るく開けたように感じた。

おいしいものは好きだが、グルメじゃない。

何でもおいしく食べられる。

いいですよ、Aさん。そういう人、私は好きです。

 

私も、なんでもありがたく食べられるタイプなんだが、そういうのはイケてないというか、食にこだわりのある方がカッコいいのかと思っていた。

好き嫌いがたくさんあるグルメな女性の方が、男性に機嫌を取ってもらえるのかな、とか。

なので、「好き嫌いがなく、食にこだわりがない自分」を出さないようにしていた。

 

しかし、このおいしくない?(失礼)韓国料理店にAさんが頻繁に来ると聞いて、急に親近感がわいた。

というより、人間として一気に好意を抱いた、という感じだ。

 

Aさんと私はその韓国料理店へ入り、ビールを傾けながらお腹いっぱいになるまで飲んだり食べたりして、楽しい時間を過ごした。

不思議なもので、たとえ高級じゃない食事でも、一緒に食べた相手によっておいしく感じ、楽しく思い出に残る。

 

Aさんはインドネシアでの勤務終了後、今はアフリカで働いている。

アフリカでも、現地料理をおいしく食べているんじゃないかなあ。

Aさんがインドネシア人スタッフに人気があった理由も、この辺りにあるんじゃないかと思っている。