オランダ人は英語が大変上手だ。
オランダは、ヨーロッパでイギリスの次に英語が通じる国と言われているだけある。
その辺のおっちゃんからお店の店員さんまで、本当に英語がペラペラだ。
どうしてオランダ人はそんなに英語が上手なんだろう?
ナミビアでキャンプしたとき、ツアー客の一人がインドネシア系オランダ人だった。
私は最初、彼の外見を見たとき「日本人かな?」と思った。
インドネシアは昔、オランダの植民地だった。
彼のご両親も、インドネシアからオランダへ移住したそうだ。
彼はオランダ生まれのオランダ育ち。
10日も一緒にナミビアの砂漠や荒野でキャンプをしていると、当然ツアー客同士仲良くなる。
(だってツアー客以外、人間がいないですからね。いるのは動物のみ)
そのインドネシア系オランダ人の彼が、ある時私に聞いた。
「世界で一番有名なオランダ語の単語、何か知ってる?」
うーん?何だろう?
昔、南アフリカにやってきたオランダ人たちが定住し、当時のオランダ語がいまだに南アで話されているのだ。
「世界的に有名なオランダ語なんてあったっけ?いや、知らないなあ。」
私の頭の中では、聞いたことのあるアフリカーンス語(ダンケとか)が駆け巡った。
しかし、南アでは英語さえ話せれば仕事が出来る。
アフリカーンス語を勉強しようと思ったことはない。
世界的に有名なオランダ語の単語って何だろう?
そのインドネシア系オランダ人の彼は、得意げに言った。
「世界で最も知られているオランダ語の単語は、アパルトヘイト。」
そうか。
世界で最も悪名高いオランダ語の単語だろう。
話は脱線するが、南アではアフリカーンス語と英語が公用語ではあるが、アフリカーンス語は不人気だ。
黒人の南ア人と話をすると、
「僕は、白人にアフリカーンス語で話しかけられても、無視するんだ」
という人もいる。
「どうしてなの?」
と聞くと、
「アフリカーンス語はアパルトヘイトの言葉だ。自分は英語しか分からないふりをすることにしている」
などと言う。
いやいや何言ってんの。
アパルトヘイトは、イギリス系南ア人も共犯でしょ。
南アに住む白人は、もともと中世の宗教改革でヨーロッパから追われ、南アへ来た人が先祖だ。
そのあと、南アの気候がヨーロッパと酷似していることに気づいた人たちが、こぞって移住してきたのだ。
フランス人もいれば、ドイツ人もいる。
アパルトヘイト時代、黒人たちはアフリカーンス語と英語の両方を知らないと、白人がくれる仕事にありつけなかった。
私に言わせれば、どちらも支配者の言語だ。
オランダ人が全面的に悪くて、イギリス人がまるっきり潔白、ってことはない。
しかし、近年、南アでは英語が人気なのだ。
私の職場の南アフリカ人女性スタッフの体験談。
彼女が英語を使って日本人と働いているのを見た長女が、
「自分も将来、英語を使って外国人と一緒に働きたい」
と言い始めたという。
母親も父親も、「おお、やっと娘がちゃんと勉強する気になったか」と大喜び。
彼女たち夫婦はアフリカーナー(オランダ系)で、娘もオランダ系の学校へ通っていた。
母親(つまり、私の職場のスタッフ)が学校の先生に、娘に英語をもう少し指導してくれ、と頼んだところ、アフリカーナーの教頭先生は拒否。
曰く、
「うちの学校は英語ではなく、アフリカーンス語を優先的に勉強させるのだ」
ということだったらしい。
英語は、公用語である南アフリカでも、アフリカーンス語をしのぎ、人気が高まっている。
英語が出来ると、海外企業や外国人と仕事が出来るからだ。
なかなか良い仕事がない南アフリカで、子どもに英語をちゃんと身に付けさせたいと考える親がいてもおかしくはない。
「で、そのあとどうしたの?」
と私が彼女に聞くと、彼女たち夫婦は学校と大ゲンカになったとのこと。(そこまでやるか…)
英語を子供に学ばせたい彼女と夫。
英語人気に危機感を募らせるアフリカーンス語の教師。
最終的に、彼女の娘はその小学校を退学し(!)、英語が学べる小学校へ転校したとか。
すごいな。
私は、なんだか自分に責任があるように感じた。
だって、私たちと一緒に働いているお母さんを見て、
「私も英語を勉強したい」
と小学生の娘さんが言い始めたわけだからね…。
「転校したら仲のいいお友達と別れて、かわいそうだったね。」
と私が言うと、女性スタッフは何でもないと首を振った。
「英語が学べる小学校(イギリス系)は、オランダ系小学校の近くだから。前の学校のお友達とは遊べるのよ。それに新しい友達が増えていいんじゃない?」
いや、そういう問題なんだろうか?
娘が希望したことだから、かなえてあげたいという気持ちは分かるが…。
言語って人の生活を変えるんだから、すごいですね。
話がかなり脱線した。
こんな話を書きたかったのではない。
ナミビアで知り合った、インドネシア系オランダ人のツアー客の話に戻る。
そのオランダ人は英語がとても堪能だったので、彼とはどうでもいい世間話をたくさんすることができた。
まず、「寿司の作り方」を教えてくれ、と懇願された。
彼は、いつも炊飯器にコメと水、酢を入れて炊くのだという。
「コメが炊き上がってから、酢を入れるんだよ」
と言うと、驚いたように目を丸くした。
「だって、これが正当な作り方だって、オランダで売ってる雑誌で読んだんだよ!」
それはガセネタだ。
日本では、炊飯器に酢を入れてコメを炊く人はいないよ、と言っておいた。
彼はその一件で味を占めたらしい。
「日本食のことは、やっぱり日本人に聞かなくちゃいけないんだ」
と言う。
彼から、ケープタウンで一番おいしい海鮮レストランはどこか?と聞かれた。
あまりよく知らないので、適当に答えておいた。
「魚好きの日本人がおいしいというなら、絶対おいしいよね!その店、絶対行かなくちゃ!」
と彼は楽しみにしている様子だった。
その後、ケープタウンで自分が勧めた海鮮レストランへ行ってみたが、魚が新鮮ではなかった。
適当に答えてしまい、すまん…。反省。
ガセネタを提供する、適当な日本人もいるんだよ。
でもねえ。「おいしいお寿司が食べたい」と思うなら、一度日本へ来てくれい。
海外のどこで食べても、やはり本場には勝てないよ。
それに、それだけ英語が上手だったら、日本人の誰かがもっとおいしい酢飯の作り方、教えてくれるよ。