オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

他人を注意する 2

 

今回は、日本でのお話。

ある日、私は東京発関西方面行の新幹線に、フィリピン人公務員20名くらいと一緒に乗車していた。

もちろん仕事の引率でです。

 

フィリピン人たちは、普段は明るくてよく笑い、よくしゃべる人たちなのだが、さすがに新幹線車内では静かにしていた。

日本人乗客が大騒ぎしていないので、「郷に入りては郷に従え」という感じなんでしょう。

静かに富士山の写真を撮影したり、小声で会話をしたり、日本人乗客のようにふるまっていた。

えらいなあ…。

 

するとある駅で、中学生の修学旅行の一団が乗車してきた。

引率の先生が車両入口に立ち、大声で中学生たちに指示を出す。

「おい、お前ら、自分の席は分かってるか?前の人を押さないように!黙って席につけ!いいか、分かったな!」

 

中学生たちは女子も男子も無言。

黙って通路を通り抜け、所定の席に着く。

網棚にバッグを手分けして乗せたりして、手早く荷物を片付ける。

 

引率教師は、なおも後続の中学生たちに大声で指示を出していた。

そんなことまで言うのか?というような細かいところまで、ああしろこうしろと指示を出していたので、少々うるさかった。

ま、仕事柄仕方ないよね。

 

中学生たちは私語を交わすこともなく、黙って移動し、全員が席についた。

先生だけがドタドタと大きな足音を立て、大声で話しながら通路を行ったり来たりした。

先生が着席すると、車内はまた静かになった。

 

次の駅に止まった。

その駅で、中学生たちの弁当が積み込まれた。

弁当係はあらかじめ決まっていたらしく、係の生徒が車両の前の方へ集合した。

再び、引率教師は声を張り上げた。

「いいか、お前ら、積み込む時間は短いんだからな!みんなで手分けして弁当を積み込め!」

聞いている私でも、そんなことくらい中学生だってわかっているだろう、と思い始めた。

先生も大変ですね。

 

中学生と教師は首尾よく弁当を新幹線に積み込んだ。

新幹線のドアが閉まり、発車した。

 

また、引率教師が大声を張り上げた。

静寂の車内で、この男性教師だけが大声を上げるので、彼の指示が丸聞こえだ。

 

「弁当係は、弁当を各自へ配布しろ!いいか、分かったな!」

そんなの分かってるよ。2個取るヤツもいないだろ。

 

その間、中学生たちは無言で教員の指示に従っている。えらいね、学生さんたち。

係の中学生たちが、座席で待機しているほかの学生たちに弁当を配布し、作業は終了。

みんな黙って弁当を食べ始めた。

驚くほど、私語が少ない。

多分、「修学旅行中、特に新幹線車内には他の乗客もいるので、静かにするように」

と言われているのだろう。

 

また、車内に静寂が戻った。

 

すると、突然、車両前方の客席から、煙が上がった。

禁煙車両だが、誰かがたばこを吸い始めたらしい。

 

私の隣に座っていた英語通訳さん2名が席から伸び上がって、その喫煙者の乗客を見た。

喫煙者は、どうやらその筋の方のようだった。

禁煙車両でたばこを吸うなんて、普通の人はやりませんよね。

 

フィリピン人公務員たちは私たちの後方に座っているが、彼らだってとっくに気づいているだろう。

「禁煙車両なのに、たばこを吸ってもいいのか?」と。

全く、面倒な状況を引き起こしてくれたもんだな…と私は思った。

 

すると、通訳者さんたちは、あの不届きな喫煙者を私が注意するように促し始めた。

「私が、ですか?」

私は面食らった。

なぜなら、彼女たちは通路側に座っていて、私は窓側。

あの乗客に注意をしに行くなら、彼女たちの方が通路に出やすいじゃないか。

 

おまけに、通訳者さんたちは40代、50代。

社会の中で言えば中堅どころ、いやベテランか?

不届き者に注意することくらい、30代の若輩者に頼まなくたって出来るだろう。

 

「いや、私たちは注意する勇気がないのよ。あなたにやってもらいたいわけ。」

「フィリピン人公務員たちが、不思議に思うでしょう?誰も喫煙者を注意しないのか、日本人は?って」

 

彼女たちは口々に、私にあのやくざ者を注意しに行くよう言い立て始めた。

そんなに注意したかったら、自分で注意しに行けばいいじゃないか、私を使わなくたって…。

と思った。

他人を注意するのに勇気がいるのは分かるが、それを別の人にやらせるのかい。

 

腹立たしかったが、おばちゃん二人の重圧に押されて、仕方なく私は席を立った。

通路を前方へ歩いていき、たばこを吸っているお年寄りの列の隣に立って声をかけた。

「あの、すみません。ここ、禁煙車なんですけど。」

 

サングラスをかけた老人は、ぐるりと私の方を振り向いた。

隣には、孫娘らしき小さな女の子も座っている。

あーあ、この子、自分のおじいちゃんがヤーさんだって知ってるのかね。

 

その男性は、硬い表情で私に言った。

「あんたたちが大声で騒ぐから、腹が立ったんだよ。静かにしてほしいのに。先にルールを破ったのはそっちだろ。だから腹いせにこっちもルールを破ってやったんだよ。」

 

なるほど。

この老人は、私があの中学生修学旅行の引率教師と誤解しているわけだ。

多分、この男性にとっても、あの引率教師の大声はうるさくて迷惑だったのだろう。

 

私は冷静に彼に告げた。

「私は修学旅行とは何の関係もありません。一般の乗客です。」

 

すると、そのヤクザじいさんは、急にパッと笑顔になった。

「え?そうなの?関係ないの?」

私は重ねて言った。

「全然関係ない乗客です。」

 

その男性は慌ててたばこをもみ消した。

「悪かったね。修学旅行の引率かと思ってたからさ。ごめんね、ごめんね。」

隣の孫娘が、不思議そうな顔で私と自分の祖父を見比べている。

私は黙ってそこを立ち去り、席に戻った。

 

席に戻ると、通訳さん二人が狂喜乱舞して私を待っていた。

「すごいわね!たばこ、消してくれたのね!なんて言ったの?」

と私を質問攻めにした。

面倒くさいので、私は簡単に説明した。

 

通訳さん二人が盛り上がっていると、通路の向こう側に座っていた初老の男性が話しかけてきた。

「あの方、やっぱりその筋の方でしたか!やっぱりねえ、ろくなことをしないなあ」

 

こいつも一部始終を見ていたくせに、自分は高みの見物だったわけか。

私が不快に感じていると、通訳さんの一人がその男性に「ご旅行ですか?」と尋ねた。

なんとその初老男性は、修学旅行の引率として同行していたその学校の教頭だった。

 

通路を隔てて、その教頭先生はヤクザのおじいさんの悪口を言って通訳さん2人としばし盛り上がった。

私がどういう気持ちになっていたか、聡明な読者の皆さんは分かりますよね。

彼ら3人の悪口大会には加わらず、私は黙って車窓を眺めてました。

 

私は、研修で初来日したフィリピン人たちに、日本に悪印象を持ってもらいたくない一心だったわけですが、とても後味悪い一件でした。

不届き者を注意するなら、他人にやらせず、自分でやりましょう。

 

この記事を読んでいる若者がいたら、お願いしたい。

「こういう大人にはなるなよ…」(笑)。