オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

モーリタニア人

 

以前の記事で、コートジボアールの警察官による「検問」について書いた。

クリスマスなど物入りの季節になると、小遣い稼ぎに「検問」を実施し、因縁をつけて?小銭を巻き上げる警察官の話だ。

 

この「検問」でターゲットにされるのは、身分証明書(運転免許証)を持っていない運転手や乗客。

特に目を付けられるのが、外国人だった。

 

コートジボアールでターゲットにされる外国人といえば、フランス人やベルギー人といった白人ではない。

モーリタニア人とかブルキナファソ人といった、貧しい国からの出稼ぎ者が警察官の格好の標的だった。

 

そういう国から来た人の中には、不法滞在だったり、身分証明書を持たずに来ている人がいたりすることも事実だ。

一方で、貧しい国出身者への偏見や差別が内在しているのではと思うこともあった。

 

ある日、私が長距離バスに乗っていると、ある場所でバスが警察官に止められた。

バスに乗り込んできた警察官は、じろりと乗客を見渡してのたまった。

「身分証明書を出せ!持っていないやつはしょっぴくぞ!」

 

乗客たちはのろのろと身分証明書を探し始めた。

コートジボアール人であれば、そして身分証明書を持っていれば、普通は問題ない。

私も自分が普段携帯している身分証明書を取り出した。

 

警察官は一人一人の身分証明書を受け取り、おかしなところはないか確認し、納得がいくと乗客に返却する。

(早く終わらないかな)と思いながら、私もこの儀式に参加していた。

 

通路にやってきた警察官は、私の身分証明書を受け取った。

記載事項を確認し、問題がないことが分かったので返してくれる。

これを一人一人やるのだから、しばらくかかる。

 

私たちは辛抱強くその「検問」が終わるのを待っていた。

すると、バスの後方に座っていた乗客の中で、警察官に目を付けられた乗客がいた。

その乗客は何か説明していたが、警察官に腕をつかまれてバスを降りた。

 

私は、警官と一緒に通路を通り過ぎたその乗客の横顔をちらりと見た。

整った顔立ちをした、遊牧民らしいエキゾチックな雰囲気の若い男性だった。

丸顔で団子っ鼻の、庶民的なコートジボアール人らしくない。

 

その乗客と警察官は、バスの車外でしばらく何やら押し問答をしていた。

この押し問答が終わり、警察官が納得しないとバスは発車しないわけだ。

警察官を納得させるために?その乗客が小銭(っていうか、わいろ)を支払う可能性もあるんだけど、それだと警察官の思うつぼなわけで。

 

警察官がわいろ目当てで因縁をつけているのが分かるので、私たち乗客ものんびり待っている。

そのターゲットになった客がわいろを支払ってすぐに解放されるよりも、乗客がリュックの底からやっと探し当てた身分証明書を引っ張り出して提示するのが一番いい。

なので、多少待たされるのは構わない(と私は思っている)。

 

その時は、状況が異なった。

警察官が引っ張っていった若い乗客は、なかなかバスには戻ってこなかった。

 

バスの運転手はバスを降り、警察官に状況を確認したようだった。

その乗客を待たずに発車していいのか、あるいは時間がかかってもその乗客は自分の荷物の中から何とかして身分証明書を探し出そうとしているのか。

大勢の乗客が、その一人の乗客を待ってすでに結構な時間が経っていた。

 

バスに戻った運転手は、エンジンをかけた。

私は「おや?」と思った。

降ろされた乗客を待たないで発車することが、珍しかったからだ。

 

同じように思った乗客が、運転手に尋ねた。

「あのお客さん、待たなくていいの?」

すると、運転手は答えた。

「待たなくていい。だって、彼はモーリタニア人だから。」

 

そう言われた乗客は、納得した様子だった。

会話を聞いていた私は、なぜ乗客がモーリタニア人なら待つ必要がないのか、理解できなかった。

 

そう感じたのは私だけだったらしい。

バスの運転手の答えを聞いた乗客の中に、「やっと出発できる」という安堵感が漂った。

モーリタニア人なら、置いて行っても差し支えないだろう」

モーリタニア人なら、どうせ不法滞在だろう」

そういう印象が現地人の中にあるということが分かったのは、この時が初めてだった。

 

その、若いモーリタニア人男性を悪徳警官の人身御供?に差し出して、我々は出発することができたわけだ。

同国人なら多少気がとがめるところだが、どうせ貧しい国から来た、ろくに身分証明書も持っていないような外国人乗客だ。

 

もちろん、私も身分証を携帯していない方が悪いことは承知している。

あのモーリタニア人男性は、300円くらいを悪徳警官につかませて、見逃してもらうことを考えなかったのだろうか。

(私ならそうするが、こう考える私も腐ってるのかも。)

 

ブルキナファソ人は、コートジボアールに大挙して出稼ぎに来ている。

彼らに対する差別も、かなりはなはだしかった。

おまけに当時のブルキナファソ人は、カシューナッツの樹液で顔に傷をつけ、部族ごとに異なる模様を顔に刻んでいる人が多かった。

彼らにとっては、部族ごとに異なる顔の模様が身分証のようなものなのだが、そういう習慣のないコートジボアール人から見ると、「顔に模様を付けている変な民族」という偏見もあった。

 

コートジボアールの警察官からすれば、身分証明書を持っていないのは言語道断だ。

彼らも国を守るために働いているわけなので、取り締まることが悪いとは思わない。

それが彼らの仕事だ。

 

なるべく悪徳警官に関わらないで済むよう、運転手も乗客も「触らぬ神に祟りなし」でやり過ごしている。

警官に捕まったのが外国人でよかった、ということなんだろう。

モーリタニア人に対する偏見があることを知った一件だった。

 

――

別の日に、アビジャン市内でタクシーに乗っていた私は、また「検問」で車を止められた。

窓から覗き込む警官。

タクシー運転手はすでに卑屈な笑いを浮かべ、何とか見逃してもらおうとしている。

脂ぎった警官が、窓から手を入れて要求してきた。

 

「Piece! Piece!」

 

面倒くせえなあ。

 

「ピエスって、何だよ!」

横柄な警官が腹立たしく、私は口答えした。

 

すると、警官は目をむいて大声を出した。

「ピエスだよ!身分証!」

あ、そっか。

(苦笑)

 

フランス語でpieceというと、「硬貨」「コイン」という意味がある。

私は「警官=小銭稼ぎ」と思っているので、てっきり「小銭!小銭!」と言われたのかと思ってしまったのだ。

 

しかし、Pieceにはいくつか意味があって、「書類」「証明書」という意味もある。

「身分証」は正式にはpiece d’identite なのだが、彼は省略してピエスといったわけだ。

いくら小銭が欲しくても、最初から堂々と「小銭!」って要求するわけないですよね。

一応、形式的には身分証を要求し、小銭で解決するのは奥の手のはずですからね。

私は相手を疑いの目で常に見ているから、うっかり反抗的な態度になっちゃうわけですね。

反省します。

(フランス語のアクサンが入力できずすみません)