ニジェールの首都ニアメに行った時のこと。
ニジェールはサハラ砂漠の南西に位置するため、遊牧民など様々な民族が存在する。
「ボロロ族って知ってる?」
とニジェール在住の友人に聞かれ、知らなかった私。
彼がわざわざアレンジしてくれたので、ニアメでボロロ族の男性の民族衣装やダンスを見ることができた。
ただダンスを見るだけなら普通の観光客と変わらないが、ポイントは彼らの着替えから見られたこと。
男性の着替えを見て何が面白いんだ、と思う人もいるかもしれない。
しかし、この民族は美男子コンテストを開催する民族。
女性に選んでもらうため、若い男性は美しく着飾り化粧をし、歌や踊りをするのである。
彼らの伝統的な化粧方法は、現代日本人が想像するのと少々違う。
頬を黄色く塗ったり、マスカラで目を強調したり、顔に模様を描いたり。
私たちは友人のおかげで、彼らの化粧からじっくり見せてもらうことができた。
化粧を顔に施し、飾りのついた伝統衣装や帽子をまとい、支度が出来ると、十人ばかりいただろうか、彼らの伝統的な歌を歌い、ダンスを踊ってくれた。
この民族は女性も美人コンテストをするのかというと、女性版はない。
美しく見せるのは男性だけなのだ。
さすが美を競う民族だけあり、化粧をした若い男性たちはカメラ目線でこちらを見たり、衣装をまとってモデルよろしくポーズしたり、美しく見せるに余念がない。
アフリカには色々な民族がいるんだなあ、とその時は思った。
彼らはサハラ砂漠の遊牧民で、青いターバン、青い衣装をまとっている。
背の高い彼らが風に青い衣装をなびかせて砂漠を歩くのは、とても印象的だ。
遊牧民と書いたが、彼らの伝統的な生業は、「他民族を襲って家畜や家財道具を強奪すること」だ。
トゥアレグ族はサハラ砂漠を渡り歩き、ほかの民族を襲って生計を立ててきた。
その過程でアフリカの黒人とも混ざり、黒トゥアレグと呼ばれる人たちもいる。
普通、イスラム教徒は女性がベールをかぶったり肌を覆ったりするが、トゥアレグ族は逆だ。
女性は肌を露出してもいいが、男性はきっちりと肌を隠す服装をしている。
ある日、私はニアメ市内を歩いていた。
テントのようなお店があり、見てみると手作りのアクセサリーを販売していた。
私が覗き込むと、奥からボロロ族の男性が出てきた。
「遠慮しないで入りなよ!どうぞどうぞ!」
と手招きされた。
テントに入ったら買わなくてはいけないのだろうか?
と思い、躊躇していると、「買わなくてもいいから入れ」という。
ま、多分入ったら一つくらいは買わされるんだろうな…と思いながら、テント内に入った。
すると、ボロロ族はやはりイスラム教徒。
「靴をはいたままでも構わないが、靴を脱いだらリラックスできるよ。靴を脱いだら?」
となった。
靴を脱いでしまったら、すぐに店を後に出来ないじゃないか…と思ったが、郷に入りては郷に従え。
勧められる通り靴を脱いでお邪魔することにした。
テントの中に入ると、たくさんのアクセサリーが並んでいた。
値段を聞くと、やはりニジェールは安い。
それを顔に出さないように、ふーんという表情で商品を眺めていると、案の定お茶が出た。
ニジェールはイスラム教徒が非常に多く、彼らはお酒を飲まない。
代わりにミントティーを飲む。
紅茶にミントと砂糖を入れ、小さな炭起こしの上に水色や青い小さなティーポットを乗せて、お茶を沸かす。
それをガラスの小さなコップに入れて出してくれる。
ニジェールに行くと、いつでもどこでもミントティーを出される。砂漠に座っていても、だ。
日本で熱い緑茶が出てくるようなものだ。
若いお兄さんは私にお茶を淹れ、アクセサリーの値段を説明し、別の商品を奥から出して来てくれた。
私も靴を脱いでしまったので、ゆっくりくつろぐしかない。
床にあぐらをかいたお兄さんは、私にも床に座るよう手で示した。
「外国人はせかせかショッピングをするから駄目だ。お茶を飲んでゆっくりしないと」
お茶を飲んでゆっくりしたら、たくさん買わされるんじゃないの?
立っていた私はお兄さんに促され、お茶を飲むために床に座った。
すると正座した私を見て、お兄さんがきゃあと悲鳴を上げた。
「日本人はどうしてそういうラクダ座りをするんだ!あぐらをかけばいいんだよ。」
足を折る座り方はラクダしかしない、というわけだ。
いや、日本にはラクダはいないので、これが正式な座り方なんですけど。
むしろ、私はあぐらをかけないんだが。
体育座りをすると、お兄さんは妙な顔をして見ていたが、まあ、ラクダ座り(正座)よりはいい、とあきらめたようだった。
私はお茶をすすり、お兄さんが見せてくれる商品をあれこれ眺めた。
自分もお茶を飲みながら、お兄さんはリラックスしていた。
客より先にリラックスするわけか…ま、いいけど。
いくつかの商品を気に入ったので、買うことにした。
日本円にすると全部で300円くらいだ。
お兄さんは私が数点買ったので、上機嫌になった。
君はニアメに住んでるのか?など、よもやま話になった。
お兄さんはボロロ族だが、化粧をしないと普通の若い男性だ。
自分の生活について雑談を始めたが、しばらくして急に話題が変わった。
「トゥアレグ族を知ってるか?」
知っているよ、と答える。
たいていの日本人は、トゥアレグの名前は聞いたことがあるだろう。
すると、お兄さんは忌々し気な顔になった。
「そうか、知ってるのか。あいつら、ひどいんだよ!僕たちボロロ族を砂漠で襲ったりするんだよ!」
そして、トゥアレグ族の悪口を言い始めた。
私はあっけにとられた。
お兄さんのトゥアレグ族に対する悪口はしばらく続いた。
内容は、
「あいつらほど怖いやつらはいない」だの、
「全財産巻き上げようとする」だの、
そんな話だった。
へえ、やっぱりトゥアレグ族ってそういう民族なんだ。
なんと返事していいか分からなかったので、適当に言ってみた。
「じゃあ、僕たちを襲わないでって言えばいいじゃん?」
すると、お兄さんは首を振った。
「そんなこと、言えるわけないじゃん。やつら、怖いんだよ」
砂漠で出会った民族を襲って財産を奪う、なんて伝統的なことをいまだにやっているのか。
それにも驚いたし、ボロロ族が抵抗できず、おめおめと家畜や財産を巻き上げられてしまうのにも驚いた。
美しさを競うぐらいだから、やっぱり軟弱な民族なんだろうか?と気になる。(偏見?)
こういう人たちが一つの国で共存しているなんて、それも不思議だ。
いや、共存しているわけでなく、他の民族が我慢しているだけなんだろう。
それに、トゥアレグ族はサハラのあちこちへ出没するので、どの国に所属しているのか分からないし。
強さを誇るトゥアレグ族から見れば、抵抗できないボロロ族はいいカモなんだろうなあ。
私も美男子は嫌いではないが、美男子が必ずしも民族を守れるわけではないんだな、と何だか複雑な気持ちがした。
皮肉屋の韓国人の友人がよく言うが、
「韓国ドラマを見過ぎてる日本人は、韓国の男は全員イケメンと思っているけど、そんなわけない。むしろ不細工の方が多いし、不細工な男だって兵役にとられるんだよ。」
はいはい。民族を守ってくれるなら不細工でも結構。
でも、若い男性が一生懸命自分の見栄えを良くしようと頑張っている姿は、可愛らしく見えなくもない。
そう言えば、この記事を書くために改めて調べたら、ボロロ族はトゥアレグ族の支系らしい。
ってことは、この2つの民族は、もともとは同じ民族なのか?
双方とも、またえらく違った方向に発展していったものですね。