アメリカの大学のことをもう少し書いてみる。
日本でも良く知られているように、アメリカでは大学入学時には専攻を決めていなくてもよい。
興味があるものを勉強しているうちに、違うことを勉強したくなる場合もありますよね。
入学時に専攻が決まっていない人は、とりあえずLiberal Arts専攻、みたいなことにしておく。
アメリカの大学は2学期制、3学期制など、大学によって異なるのだが、2学期制を採用している大学が多い。
秋学期と春学期、といった具合だ。
2学期制の大学の場合、2年生の2学期、遅くても3年生の1学期までに自分の専攻を決めなくてはならない。
前述の通り、入学時には専攻を決めていなくてもよい。
少し勉強してみて、自分にその専攻が合うか合わないかを考えてみるわけです。
興味が絞り切れない場合は、「専攻を2つ持つ」とか、「主専攻を1つ、副専攻を1つ」なんてのもOKだ。
意外にも、「主専攻1つ、副専攻1つ」とか「主専攻1つ、副専攻2つ」という学生は多い。
ある日、私はある授業で知り合った、気は優しくて力持ち、みたいな男子学生と話した。
彼は何と、主専攻が2つ、副専攻が2つあるという。合計4つ!!
「ええっ?なんでそんなにたくさんあるの?」
と驚いて尋ねると、2年生の2学期までA学部とB学部で授業の履修を続けたが、急に気が変わり、C学部とD学部へ専攻を変えたという。
しかし、すでにA学部とB学部でかなりの必修及び選択科目を履修済み。
もったいないので、A、B、C、Dすべて生かすこととし、主専攻2つ、副専攻2つになったという…。
(これはやってはいけないパターンですね。こんなに履修していると4年では卒業できないかもしれん)
この、専攻を最終決定するのに時間がかかり過ぎた学生の例から見ても分かる通り、専攻を2つ持つには、当然ながら両方の学部の必修科目や選択科目を履修しなければならないのです。
これは、勉強も大変だし時間もかかる。
かなり大変です。
なので、学位を2つ取るなら、必修科目や選択科目が重複する学部を2つ選ぶのが正解。
例えば、政治学と歴史学とか、経済学とビジネスとか、同じまたは似たようなジャンルの学部を選べば楽なわけです。
でも、こんな大変なことをやらなくても、「主専攻1つ」あれば卒業できるんです。
だからよほど興味が分散していない限り、専攻を2つなんてこと、やらなくてもいいのだ。
勉強が得意じゃない人は、楽をしましょう。
私の専攻の一つは(私も2つあったのです!)、国際関係学部だった。
入学時はなかなか同じ学部の学生が見つからず、
「一体誰が私と同じ学部なんだろう?」と思っていた。
よく授業で見かける学生に思い切って
「すみません、お宅、何学部ですか?」と聞いていたこともあった。
それなのに、なぜか「国際関係学部」専攻者はなかなか見つからなかった。
周りの親しい学生に「私は国際関係学部なんだよ~」と宣伝していたが、誰一人として「僕も」と名乗り出る学生はいなかった。
なぜだ…。
外交オンチのアメリカ人は、やっぱり「国際関係」には興味ないのかしら?とずっと思っていた。
ルームメイトは英文学専攻だったり看護学専攻だったり。
仲良くなる子は経済学、数学、幼児教育…と違う専攻ばかり。
うおお~誰が国際関係学専攻なんだ!
大学1、2年時には、「この学生と私の履修授業、結構かぶるなあ」という学生もいた。
そこで尋ねると「歴史学専攻」だったりして、ああ近いんだけど惜しい、という思いをいつも味わっていた。
4年時に私が履修した授業は、さすがに国際関係学専攻じゃなければ履修しないクラスが大半を占め、そこで「もしやこの子は?」と判明するケースもあった。
その中で、色白で賢そうなジェシー君という男子学生がいた。
彼は私より一学年下の3年生だったが、私が4年時に履修した授業で彼を見かけることが多々あった。
これだけ履修クラスが重複したので、私はひそかにあたりを付けていた。
「ジェシーは国際関係学部専攻に違いない。」
ある時から、ジェシーは学食で、私が親しくしていたグループに合流して食事をするようになった。
私の仲良しグループは留学生たちと、留学生大好きアメリカ人学生で構成されていた。
日本もそうなのか分からないが、留学生に勇気を出して声をかけるアメリカ人学生はなかなかいない。
留学生はえてして孤立しがちだ。英語も間違ったりするしね。
そういう中で、留学生に気軽に話しかけてくれるアメリカ人学生の存在は、本当にありがたかった。
留学生と積極的に交わるジェシーは、もはや疑いなく?国際関係学専攻のはずだ。
ある日、グループに混じって楽しそうにご飯を食べるジェシーを学食で見かけた。
頃合いを見計らって、私は彼に聞いてみた。
「ねえねえ、よく同じクラスになるけど、もしかして国際関係学専攻?」
ジェシー君は賢そうな顔を微笑ませた。
「うん。ダブルメジャーだけどね。」
(つまり、主専攻が2つある、ということです)
私は続けた。
「へえ、すごいね。国際関係学部と、もう一つは何?」
私は、ジェシーのもう一つの専攻は経済学か、歴史、政治、その辺だろうと思っていた。
すると、ジェシーはにこやかに答えた。
「うん、医学部。」
おおっと。
意外な専攻が出てきて、私はびっくりした。
ジェシーは涼しい顔で続けた。
「医者になろうと思ってるんだけど、国際関係学もどうしても捨てがたくてね。僕、海外にとっても興味があるんだ。〇〇教授の東アジア史、取った?あれは面白かったよ」
なーるほど…。
私は色白のジェシーの顔を眺めた。
この子は(雰囲気で)絶対理系だと思っていたが、最近になって私が履修する授業に良く出没している。
なので、てっきり「そうか、もしや彼は国際関係学部か?」と思い込んでいた。
理系と文系をまたぐって方法もあるわけだ。
しかし…。
医学部は、日本でもそうだが、アメリカでも勉強がとっても大変な学部の一つだ。
それと両立できてるわけか。
うーむ。やはり私と頭の出来が違うんだなあ。
この時から、私はジェシーとよく話をするようになった。
おとなしそうなので全然話したことがなかったが、話してみると彼の「海外好き」は筋金入りだった。
(むしろどうして医学部?と思ったが、ジェシーの答えは『とりあえず医者になっておけば仕事はあるでしょ』だった。)
確かに、あれもこれも勉強したいのに専攻が一つだけ、って、勉強のできる学生にはつまらないだろうな。
普通は、分野が全く違う学部2つは履修が大変だから選ばないですけどね。
ジェシーくらい頭が良ければ大丈夫だろう。
そういう意味で、アメリカの大学システムは良く出来ている。
大学を中退した後、復学するのも簡単だし、何歳になっても簡単に入学できる(しかし卒業は大変だ)。
こういう柔軟なところが、アメリカの面白いところなんじゃないかと思う。
ジェシーも今頃は、アメリカの外交問題を患者さんとおしゃべりするようなお医者さんになっているかも。
好きなことであれば、大変でも頑張れる、ってことなんでしょうね。