オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

異文化適応

 

こんなタイトルで記事を書くなんて、おこがましい気もする。

先日、数人の人と話をしていて思い出したことがあったので、記事にしてみる。

 

インドネシアの首都ジャカルタは、人口の8割か9割がイスラム教徒だ。

彼らは一日5回、神に祈りをささげるのだが、毎日の一番目のお祈りは朝4時に行う。

朝4時にモスクへ行くためには、それより早い時間に起床し、身支度をしたりシャワーを浴びたり、軽い朝食を取ったりして出かけるのだ。

 

つまり。

4時前から、彼らは一日の行動を始めていることになる。

 

私がインドネシアで働き始めたとき、朝3時半に突然電話をかけてきた現地人スタッフがいた。

たいていの日本人はその時間には就寝中だと思うが、私も例にもれずベッドの中だった。

 

枕元に置いてあった携帯電話が鳴った。

夢の中だった私は飛び起きた。

 

携帯を見ると、うちのスタッフじゃないか!

もしや事件?事故?

色々な状況が頭の中をよぎり、眠気がいっぺんに吹き飛んだ。

こんな時間に電話があるなんて、尋常じゃない。

 

「もしもしっ!どうしたの?」

勢い込んだ私に、スタッフがのんびりした声で言う。

「パギ~(おはよう、の意味)。今日の9時からのミーティングなんだけど、先方の予定が変わったので30分後ろ倒しになるらしいですよ。」

へっ?

頭が起きていないのか、この時間にそれを告げられる経緯が理解できず、しばし絶句。

しかし、電話の向こうのインドネシア人スタッフは、当然のように告げる。

「じゃ、そういうわけで。」

 

そういうわけで?

どういうわけでこんな時間(と、腹立たしく時計を見る)に、仕事の電話をしてくるんだ?

「それ、いつ分かったの?」

と尋ねると、現地スタッフはのんびりと答える。

「今さっき。連絡があったのは3時過ぎだったかなあ」

 

朝3時?!

「なんで今、この時間にそうなるわけ?」

と、納得のいかない私は続けて尋ねる。

するとインドネシア人スタッフは、大統領が突然どこだかを視察することになり、そこへ先方の偉い方が同行することになり、それでスケジュール変更が発生したのだとか、そんな説明を始めた。

 

ミーティング時間の変更の背景は分かったが、それはいつ決まったんだ?もしや、今、決まったのか?

「今、決まったらしいですよ。」

インドネシア人スタッフの間延びした声が聞こえた。

さっき言ったじゃないですか。

今、決まったに決まってるでしょう。

昨日決まったなら、昨日連絡してくるんだから。

今日決まったことを、いち早く連絡してくれる。

ありがたいじゃないか。

それに何か問題か?と思っているらしい。(彼の心の叫びの代弁)

 

私は、分かった、と小さくつぶやき、電話を置いた。

どうやら、彼らは彼らの時間で動いているらしい。

 

こんな調子で、そのあとも何度か、朝3時半とか4時にインドネシア人スタッフから電話でたたき起こされることがあった。

午前に予定されていたアポ時間の変更発生時に連絡をしてくれるのだが、後ろ倒しならまだいい。

ひどいときは前倒しもあった。

 

「今日の午前に予定されていた訪問なんだけど、8時に前倒しになったんですよ。渋滞を避けるために朝7時半には事務所を出ましょうね。」

 

なんですってえ?(声が裏返る)

朝7時半に事務所を出るためには、当然ながらその前に私は会社に到着していないといけない。

私の職場は9時半始業なのだが、仕事先のインドネシア人には関係ない。

 

携帯電話を握りしめ、一言いってやろうと思うが、いかんせん布団の中。

相手は「じゃ、会社で!」と言って電話を切る。

残された私は一人、布団の中で「あと何時間後に起きねば…」と目覚まし時計のアラームを前倒しにする。

くっそお~!

 

こんなことが何度か続いた。

ある日、私は思い切って現地スタッフに頼んだ。

あなたたちと違って私は朝3時にはまだ寝ている。

なので今後こういう連絡があったら、今後はWhatApps連絡にしてちょうだい。

インドネシア人スタッフは、それ以降はアプリに連絡してくれるようになった。

 

メッセージを見ると、やはり彼らは3時とか3時半、4時くらいにメッセージを送ってくる。

会社のスタッフのみならず、他の組織のインドネシア人も似たような感じだ。

やはり彼らは早朝に起床して、朝早くから仕事の連絡を取り合っているのだろう。

 

こんな感じで、朝から活動を開始している彼らは、当然ながら午後3時くらいになると、電池切れになる。

何かを頼むと、「インドネシアの組織は、この時間は動いている人はいないですよ」なんて言う。

いいからやれ!

 

良く考えるとインドネシア人スタッフが夕方4時半に退社しても、日本人は7時、8時、あるいはもっと遅くまで仕事をしている。

日本人が朝3時にインドネシア人にたたき起こされ、日本に合わせて夜10時まで仕事をすれば、結果として長時間労働になってしまう。

やはりメッセージ連絡にしておいてよかった。

 

と最初のうちは「しめしめ、WhatAppsにしてよかった」と思った。

しかし、インドネシア生活は一筋縄では行かなかった。

 

前述の通り、ジャカルタ住民は圧倒的多数がイスラム教徒。

私が借りていたアパートも、大きなモスク2つに挟まれていた。小さいモスクも1つあった。

朝4時の礼拝の呼びかけ(アザーン)が、この3つのモスクから鳴り響く。

これが大音声なのです。

 

「ハイラ~ラリラ~アッラーアクバル(すみません、呼びかけにはちゃんと意味があるんですけど、良く分からないのでこんな風に聞こえます)」

みたいな大音量のアザーンが、嵐のようにアパートの前後左右?から聞こえる。

日本人の友人が100均の耳栓を送ってくれたが、入れ方がまずいのか、寝相が悪いのか、気づくと片耳からすっぽ抜けている。

 

「ハイラ―」

と聞こえ始めると、寝ぼけまなこで、ベッドのどこかに転がっているはずの耳栓を探す。

「あれ?ないな?」

と枕の下をまさぐったり、タオルケットをばさばさっと上げ下げしたりする。

「あ!あった!」

と床に転がった耳栓を探しに行っていると、もうほとんど眠気はなくなってしまう。

そうやってドタバタしているうちに、アザーン終了。

 

同じアパートの別棟に住んでいる日本人同僚が何人かいた。

アザーン?私の方はモスク側じゃないんで、向きがいいみたいです。あまり聞こえなくてラッキーなんですよ」

という人もいたし、

「僕の方は聞こえるんですけど、いつの間にか環境に適応したみたいで、アザーンが始まってもガン無視で眠れるようになりましたよ、わはは」

というつわものもいた。

 

そうか。やはり環境に適応するしかないのか。

異文化に適応するのはそれだな。

 

私もインドネシアに住んでいる何年かの間、異文化に適応できるよう頑張った。

努力の甲斐あったのか、不思議なことに毎朝4時に目覚めるようになった。

 

それを聞いた同僚たちからは、大爆笑を受けた。

「じゃあ、お祈りするしかないじゃないですか?」

 

いや、自分の意図と違う方向へ適応したんですよ。

全く、人生とは思うように行かないものだ。

日本では朝4時に起きる必要がないのにねえ。