以前の記事にも書いた通り、インドネシアは日本に負けるとも劣らぬ、食いしん坊大国だ。
様々な地域に地域色豊かな名物料理があり、それぞれ独自のおいしさで人気を博している。
しかし、グローバル化?に伴い、インドネシアでは日本料理の人気が高まっている。
寿司やてんぷらといった伝統的和食だけではなく、ラーメンや餃子(チキンですが)、うどん、カレーなども好評だ。
この辺は、米国や欧州などと同様の傾向なんだろうな。
中華系も多いので、チャプチェ(野菜炒め)やフーユンハイ(オムレツ)も国民食として食べられている。
インドネシア人からすれば、豚肉さえ入っていなければ食べますよ、というスタンスのようだ。
インドネシアに住み始めると、この国民は相当の健啖家であることが分かる。
とにかく、一日中食べている。
お酒が飲めないので甘いものも男女問わずたくさん食べる。
日本食人気と書いたが、実はハンバーガー(米)でもピザ(イタリア)でもマルタバ(アラブ)でも、インドネシアでは何でも良く食べられている。韓国系ベーカリーも大人気。
インドネシア人は、食に対してかなり寛容で好奇心旺盛といえる。
でも、日本人より食べる量が多い気もする。(だからなのか、肥満も多い…)
ある日、仲の良いインドネシア人の友人と出かけた。
彼女が行きたがっていたレストランに入り、好き放題注文し、お腹いっぱい食べた。
もう、死ぬほど食べた。
私がぐったりしていると、友人がメニューを取り上げた。ま、まさか?
友人は笑顔で微笑んだ。
「デザート、何にする?」
やっぱり…。
私は食事でお腹いっぱいにする主義なので、もはやデザートが入る余地がない。
すると、彼女は笑いながらメニューをめくった。
「ええ~ホント?日本人は”デザートは別腹”って言うじゃないですか?」
そんな日本語を知っとるのか!
日本に住んでいたことは知っているが(注:私たちの会話は英語です)、日本人の真似をしなくてもいいんじゃないの?
別腹なんて言いだすとは、じゃあ、食べる気満々なんだな…。
私はテーブルの上に山と積まれた皿を見ながら、(いったいどれだけ食べる気なんだ)と怖くなってきた。
彼女はさんざん迷った挙句、es cendol(エス・チェンドル)を頼んだ。
エスとは、アイス(氷)のこと。
チェンドルとは、米粉で作った団子。
つまり、ココナツミルクのかき氷(というか、ココナツミルクに浮かんだ氷?)に、米粉団子が浮かんでいるものだ。
おいしいが、今、それを食べる余裕は私にはない。米粉の団子、ですよ?
彼女は店員を呼んで、それを一人前頼んだ。
大きなどんぶりに入った、エス・チェンドルが運ばれてきた。
私がこれを注文しない最大の理由。
それは、これがどの店に行っても大きすぎるからだ。たいてい、どんぶり状の容器で出される。
私は食べきれたことが一度もない。
しかも、小さいエス・チェンドルを出す店を見たことがない。
どんだけ食うんだこいつら…。
満腹の私の前で、友人は幸せそうにエス・チェンドルに取り掛かり始めた。
「子どものころからこれが好きなんですよお」
ま、幸せならそれでいい。
肉の多すぎるアメリカ人と違い、インドネシア人は野菜や魚もよく食べるので、健康的だなと最初は思っていた。
しかし、いちいち食べる量が多い…。
インドネシア人は体は大きくないが、胃袋は大きいんだろうか?
日本人はよく「〇〇の店がおいしい」ということを話題にする。
アメリカ人はそういうことはあまり話題にしない。
アメリカへ留学する前に、英会話を少し習ったことがあった。
アメリカ人の先生を目の前にして、日本人学生は気おくれがする子が多数だった。
私も、何を話していいのやら…と緊張していた。
週明けのレッスンで、先生が私たちに会話を促すため、質問をした。
「週末に何をしたか」だ。
先生に聞かれ、学生の一人が話し始めた。
「土曜日は、友達と映画に行って、最近オープンしたレストランへ行って、おいしいものを食べた。」
次の学生も、似たような話をした。
「兄とラーメンを食べに行きました」
次の学生も同様だった。
「私の趣味は食べることなので…」
先生は急に機嫌が悪くなった。
「どうして、日本人は食べ物の話ばかりなんだ!!それしかやることがないのか?」
教室は水を打ったように静まり返った。
私は頭の中で、(家族で餃子を作りました)と言おうとしていた。
我が家は、週末は家族で手作り餃子を作って楽しむことが多い。
言わなくて良かった、と思ったが、同時に(そう言えば、どうして日本人は食べ物の話題が多いんだろう?)と不思議に思った。
アメリカに行ったら、おいしいものが何もないことが分かった。
今では分かる。
アメリカ人が食べ物の話題をしないのは、おいしい店がないからじゃないか?
それに、時間をかけて料理をする文化がアメリカにはない。
私もおいしい食べ物には大変興味があるのだが、インドネシア人の情熱には負ける。
食べ歩きが好きな人なら、多分インドネシア人と仲良くなれると思うし、ジャカルタ生活も楽しいだろう。
多分、インドネシア語の先生なら、日本人学生が「週末は家族と餃子を作りました」と言っても、怒らないに違いない。
インドネシア人の食欲に押されっぱなしだった私も、新聞で「話題の店」などを見ると、インドネシア人化したせいか、メモしておくようになった。
ジャカルタのある地区に、中国系カリマンタン人が経営する、「ユンユン99」という中華系チェーン店があった。
安くてうまい店、と評判だったので、メモっておいた。
カリマンタン島西部は、中国からの移民者が多い。
ここで「中華系チェーン店」と書いた理由は、この店がオーセンティックな中国料理店ではなく、インドネシア好みに変化した中華料理店だからである。
日本でも「中国料理店」と「中華料理店」は異なるが、インドネシアでも同様だ。
この店、結局我が家から遠く、行かずじまいだった。残念!
ジャカルタの××地区にある、ホットサンドが有名な店があった。
「ナイフで切ると、チーズが滝のように流れる…」などと書いてあって、「こりゃ行かねば」と思っていたが、これも結局行かなかった。
やはり、インドネシア人と比して食べ物にかける情熱が薄いからなのかなあ…。
今、私がとても飲みたいのは、ジャカルタのスーパーで販売されていたグリーンココナツウォーターだ。
もちろん、生ココナツの上を切り、そこにストローを差し込んだものが道端で飲めるのだが、ペットボトルに入ったグリーンココナツウォーターは、冷蔵庫に入れておけばいつでも冷やしたものが飲める。
日本の自宅周辺のスーパーには扱っていないが、執念深く探そうと思っている。
私も多少、インドネシア人化したのかもしれない。