以前の記事にも何度か書いたが、日本同様、アメリカの大学生は長期休暇になると実家へ帰省する。
留学生だった私は、バイトして生活しているので高額な航空券は買えず、それほど頻繁には日本へ帰れない。
だから日本へ帰れなくても仕方ないや、とあきらめていた。
そうなると、周りのアメリカ人の友人たちが「じゃ、うちに来る?」と誘ってくれることがよくあった。
アメリカ人の優しさには本当に感謝している。
どういう経緯で仲良くなったか覚えていないが、同じ女子寮に住んでいたとか何とかで、仲良くなったバービーという子がいた。
「ロスなんて、うちからすぐよ。だからうちに遊びに来ない?」
と言われ、私はもう一人の日本人留学生に相談してみた。
日本人留学生の桜子ちゃん(仮名)は、ロスに行けると聞いて狂喜乱舞した。
「絶対行く!バービー、そんなところ出身だったんだあ~!」
桜子ちゃんが喜ぶので、なんだか私も行く前から楽しみになってきた。
そんな感じで、彼女と私はバービー宅へお世話になることになった。
グレンデール、いや、ロスは暑くて都会だった。
あの周辺といえば、カリフォルニア大学の有名どころ(リバーサイド、サン・バーナーディノ、もちろんUCLAもだ)と華やかな大学が集まり、ミーハーな?日本人留学生からするとワクワクする町だ。
私も初めてロスに来たので、桜子ちゃんのウキウキ気分が移っていた。
バービー宅は豪邸だった。
お父さんは弁護士で、子どもが4人いた。
お父さんはとても気のいい男性で、私たちを車に乗せ、ロスの市内を走り回ってくれた。
「ほら、見てごらん。ヤシの木もいろいろな種類があるだろう?背の高いの、小さくて太ってるの。人間と同じなんだよ。」
などと説明しながら、車窓から見えるヤシの木が植わった通りを指さした。ワオ、いかにもLA!
桜子ちゃんは完全に舞い上がっていた。
ロスに来て良かった!を連発し、買い物をしまくっていた。
桜子ちゃんと私は、到着して数日間はバービー付きっ切りで歓待してもらったが、だんだん生活に慣れてくると、むしろ自分たちで行動したくなった。
バービーも、いくら帰省したからといえ、ずっと私たちに構っているわけにはいかない。
彼女には彼女の地元の友達がいて、会いたかった人も多かったようだ。
ある日、彼女は私たちに言った。
「ごめんね、悪いけど明日は一緒にいられないの。お父さんは仕事でレセプションが夜まであって、お母さんと兄弟は〇〇へ行く用事があるの。私は友達に会う予定なのよね。だから、明日の夜だけ、二人だけで過ごしてくれる?」
桜子ちゃんと私はもちろんOKだ。
私たちは、バービー宅の敷地内にある、お客さん用離れの建物に滞在していた。
(そんな離れを持っているほど、大きなお宅だったのです)
母屋から離れているので、24時間好き放題テレビを見たり、うるさくしたりしても全くバービー宅から苦情はない。
庭にプールもあったし、ビリヤード台も部屋にあった。大きなテレビも備え付けだった。
まさに、アメリカの豪邸といった感じだった。
バービーは、「あなたたちに念のため説明しておくわ」と言って自宅周辺の店を説明し始めた。
この近くに〇〇というビデオ店があるので、ビデオを借りたかったらそこへ行くと良い。
××というスーパーが歩いて5分くらいの場所にある。
△△というピザ屋が深夜までやっているので、そこでデリバリーを頼むのもよし。
彼女の説明は数か所の店に及んだが、それだけ聞いたら、一晩くらい2人で過ごすなんてことない、という気分になった。
(どうせ深夜には、バービー一家は帰宅するんだしね)
私たちがしなければならないのは、夕飯をどこかで買って食べること、それから暇つぶしの何かをやること(DVDを借りるとか)くらいなものだった。
私たちが「大丈夫、2人で何とか過ごせる」と言ったので、バービーは満足した。
そして。
昼間は、我々はバービーとロス市内のどこぞへ遊びに行き、楽しく過ごした。
さて、これからだ。
太陽が沈んできたので、桜子ちゃんと私は気合を入れて外出することにした。
「何食べる?何か映画を借りようか?」とワクワクしながらバービー宅を後にした。
あっという間に太陽が沈み、道が暗くなってきた。
桜子ちゃんと私は、まず腹ごしらえしようとピザ店を目指したが、いくら歩いても見つからない。
「おかしいね?こっち方面って言ってたような気がするんだけど」
2人で歩き回るが、まったく見つからない。
高いヒールのサンダルを履いてきた桜子ちゃんが、音を上げた。
「面倒くさいから、ピザはいいや。どっかコンビニでお菓子でも買って、それを食べながら映画見ようよ。」
あ、そうですか。
じゃ、コンビニを目指そう。
道が暗くなってきて、私たちは、自分たちが今、どこにいるのかだんだん分からなくなってきた。
とりあえず、コンビニがあればそこに入ろう。
ぐるぐる近所を歩き回ってみたのだが、コンビニらしきものが見当たらない。
どうやら、完全に道を間違えてしまったようだった。
バービーの話では、歩いて5分くらいとか言っていたような気がしたんだけど…。
足の痛い桜子ちゃんは、もう歩けないと言い始めた。
私も、「カリフォルニアのバービー宅へ一緒に行こう」と桜子ちゃんを誘った手前、こうなったのは自分に責任があるように感じ始めた。
なんとかして、手近なコンビニを探さねば…。
私は焦って、周りを見渡した。
あっち方面に電気の付いている店があるけど、あそこはどうなんだろう?
桜子ちゃんとその店へ行ってみると、どうやらコンビニらしかった。
やれやれ。
私たちは安堵して、その店のドアを押した。
店内には、アメリカに売っているような(アメリカだから当たり前だが)、巨大なスナック菓子が大量に並んでいた。
毒々しい?色のジュースも各種取り揃えていた。ま、一般的な店ですね。
疲れている桜子ちゃんは、「もう、何でもいいや」と言いながら、巨大なスナック菓子を無造作にバスケットに突っ込む。
ん?
私はあることに気づいた。
このスナック…全部アラビア語で書いてある!
私は巨大スナックの包装に記載された、アラビア語表記にくぎ付けになった。
「桜子ちゃん、この店、全部アラビア語だよ!!」
小声でそういうと、桜子ちゃんは、すでにスナックで満杯になったバスケットを見やった。
「どういうこと?」
どういうことって、言ってもねえ。
私たちは棚に置いてある商品を確認した。
よく見ると、お菓子もジュースも同様だった。
他の商品も、すべてアラビア語表記だった。
なるほど。
この店は、アラブ人(またはアラブ系アメリカ人)の経営しているコンビニなわけだ。
私は、店内の商品を見渡してようやく悟った。
ロス郊外にも、がっつり100%アラビア語のコンビニがあるわけか…。
さすが移民の国、アメリカ。
しかし、いつまでも衝撃を受けているわけにはいかない。
スナックの中身が分からんと言っても、なんとなく推測は出来るはず…。
適当に選んでしまったが、よく見て食べられそうなものを買おう。
桜子ちゃんと2人で、彼女が大量にバスケットに突っ込んだ商品を選別。
ヤバそうな?食品を避けることにした。(何がヤバそうなのか分かりませんが)
「これはよく見たら怪しくないか?」
「これは超甘そう!」
「これは許容範囲内じゃない?」
いかんせん、アラビア語が全く理解できないので、あくまでも推察。
多分、これは何かの塩味チップスだろう。これは、多分甘いヤツ。
中身がさっぱり分からないとなると、かなりチャレンジングだ。
そして、時間をかけて選別した商品を持ってレジへ進む。
すると、店の奥から出てきたのは、全く英語の通じないアラブ人男性だった。
Oh my god!
この時間帯、英語の分かる店員はいないのか…。
というか、この近隣、アラブ人住民が多いってことなんだろうか??
そのアラブおじさんが何やら話すが、私たちはアラビア語が分からず、まごまごしてしまった。
すると、その男性が気を利かして?奥から英語の分かる店員を呼んでくれた。
最初からそうしてくれよ…。
時間はかかったが、桜子ちゃんと私はこうやって、アラビア人ご用達コンビニで、必要な買い物を首尾よく終了した。
我々の任務は果たした。
アラビア語コンビニから歩いてみたら、バービー宅にものすごく近いことが判明した。
バービーは、このコンビニを利用しないのだろうか…?
あるいは、いつも車で出かけているから、もっと違うコンビニへ行ってるのかな?
我々はくたくたになってバービー宅へたどり着いた。
もはや、ビデオ店へ行く気持ち的な余裕はなかった。
部屋に入り、とりあえず巨大テレビのスイッチを付け、買ってきたジャンクな巨大スナックを開けた。
そして、2人でコカ・コーラを開け(それなら中身は分かる)、無言でぼりぼりとスナックを食べた。
ぼんやりしているうちに、桜子ちゃんが静かになったので見ると、彼女は疲れたのかソファで大爆睡していた。
私もとても疲れたよ。
まさか、ロスにアラビア語のコンビニがあるとはね。
アメリカに行ったからと言って、必ずしも英語でどうにかなるわけじゃないんだ。
移民大国アメリカ、を肌で感じた一日でした。
ま、こういうこともあるから、アメリカは面白いのかもしれない。