オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

席を譲られる

 

 

インドネシア国民の平均年齢は25歳だ。

日本の平均年齢が46歳であることと比較しても、若い国である。

 

日本で生活していると、道やスーパー、駅、デパートなど公共の場所で様々な年齢の方を見かける。

つまり、赤ちゃんからお年寄りまでを見かけることが出来る。

 

しかし、人口が若い国・インドネシアでは、当然ながら見かけるのは若い人ばかりだ。

高齢者人口がもともと少ないというのもあるかもしれないが、日本のように60代、70代以上の方が元気に外出すること自体、あまりないのではと思う。

 

ある日、私はジャカルタの市内路線バスに乗った。(トランスジャカルタというバスです)

ジャカルタは渋滞がひどいので、バスの方がスムーズに移動できることがある。

バス専用レーンがあるので、比較的渋滞の影響が少ないのだ。

 

その時、バス車内は結構混んでいた。

乗った私はドア近くの吊革につかまり、立っていた。

バスは車両が2つくっついた形になっており、真ん中が蛇腹みたいなので連結されている。

前部車両が女性用、後部が男性用だった。

 

ぎゅうぎゅう詰めというほどではないが、座席はおおむね埋まっていた。

立っている乗客も結構いた。

バス発車後すぐに、後部車両から30代くらいの男性車掌がやってきた。

男性車掌と私の目が合った。

彼は私を見ると、なぜか笑顔になった。

 

「イブ、イブ!(マダム、といった意味)」

車掌が何やら手招きする。

ん?イブって、もしかして私のこと?

あたりを見渡すが、どうやら彼は私に話しかけているらしい。

 

「イブ!こっちこっち!」

男性車掌がニコニコしながら呼ぶので、私は悟った。

インドネシア人は優しいので、外国人の私を、空いている座席に座らせようとしてくれているのだろう。

空いている座席はなさそうだが…。

 

いやいや、大丈夫。

日本では、これくらいなら座るほどでもない。

なってったって、日本にいたときは都内まで片道2時間半、通勤していたんですからねえ。

立っているのは慣れてまっせ。

殺人的に混んだ山手線で、暴力的なおじさん会社員たちと苦痛のラッシュアワー

哀愁の会社員生活、苦節〇年…。

 

そんなことを考えていると、バス車内を移動して、車掌が私の近くまでやってきた。

「イブ、どうぞこちらへ!」

 

私は戸惑った。

いや、いいんだよ。ほっといてくれ。

なんだってそんなに、座らせたがるんだ。

 

私が吊革にしがみついていると、車掌は『奥様にそんなことをさせてしまい申し訳ない』というように顔を曇らせた。

ぜひこちらへどうぞ、と腰を低くしながら、私を奥へ連れて行こうとする。

 

「いえ、立っていられますから、結構です…」

促す車掌に、私は謙虚に?首を振った。

大体、わたしゃまだ席を譲ってもらう年齢じゃないんだよ!!

まだ若いんだから!(←こう思う自体、年寄りくさい)

 

車掌は「いやいや、ぜひぜひ!」と言いながら、私を吊革から引きはがそうとする。

やめてくれ!

周囲の乗客の視線が、私に集まった。

うわっ恥ずかしい!!!

 

この場を穏便に済ませようと、私は観念して吊革から手をはがした。

強引な?車掌に抵抗していつまでもしがみついているのも、大人げない。

車掌は「こっちこっち」と言いながら、私を車両の奥へ促した。

車両の隅にはインドネシア人女子高生2人が立っていて、話をしていた。

 

車掌は女子高生たちを追い払った。

「しっしっ!お前ら、あっちへ行け!」

私は車掌の後ろからのぞいた。

あれ?空いている座席なんかないじゃないの。

 

車掌は女子高生たちを追い払うと、私に向き直って笑顔になった。

「ささ、イブ、どうぞこちらにおかけくださいませ!!」

そう言いながら、彼は隅にたたまれてあった簡易座席を引き出した。

がっちゃんと音がして座席部分が展開し、座れる状態になった。

(日本でもたまにありますよね。ラッシュアワーが終わると使えるようになる、折り畳み式座席です)

 

車掌はバンバンとその座席を叩き、座れる強度であることを確認すると、また私に笑顔を向けた。

「さあ!イブ!どうぞ!!」

 

追い払われた女子高生たちは、興味津々の目で私と車掌、そしてその簡易座席を見比べている。

 

(座らせてもらう年齢じゃないんだよ!よく見ろ兄ちゃん、私はまだ若いんだよ!!)

内心、私はいろいろ言いたいことがあった。

しかし、ここまで来てしまったからには座るしかない。

年寄りじゃないんだが…とか様々な気持ちを押し殺し、観念してその簡易座席に座った。

 

その男性車掌は、自分の行為に大変満足したようだった。

腰をかがめて私にお辞儀をすると、威厳を取り直して隣の車両へ消えていった。

その簡易座席に座った私を、周りのインドネシア人乗客が珍しいものでも見るように眺めていた。

 

もう、むっちゃ恥ずかしい…。

穴があったら入りたかった。

人払いして、かつ、簡易座席を出させてまで座るって、ねえ。

 

インドネシア人乗客たちの好奇の目をやり過ごすには、どうしたらいいか。

寝たふりをするか、年寄りのふりをするか(?)。

それしか、この場をやり過ごす方法はない。

せめて「座席に座るに値する」年寄りである、と周りの乗客に思ってもらおう。

 

後になってこの事件?を思い出すたびに、「まだ若い」と意固地になった自分が笑えてしまう。

中年のおじさんおばさんを見る機会の少ない?インドネシアでは、こんなことがあったのだ。

10代、20代の若者が圧倒的に人口の大半を占めるインドネシアでは、私くらいの年齢でも目立つんだろうな。

 

日本だと、私は席を譲られることなんて絶対にない。(当然だ)

むしろ、譲らなくてはならない方だ。

(一体、何歳くらいになったら『座ってもいい』年齢なんだろうか)

 

あの車掌さんが日本で働いたら、むしろ驚くだろう。

日本の中高年、いや老人も元気であることに。