オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

鶏がらだしラーメン

 

何度も記事に書いているが、インドネシアは国民の8割くらいがイスラム教徒だ。

イスラム教の国では、豚肉は禁忌だ。

肉と言えば鶏肉かヤギ肉、あるいは牛肉となる。

 

餃子やラーメンはインドネシアでは人気があるが、豚肉が使えない。

つまり、ラーメンは鶏ガラだしスープ。チャーシューも鶏肉だ。

餃子も鶏ひき肉使用となる。

鶏ひき肉も悪くはないんだが、やはり豚ひき肉の餃子の方が私は好きだ。

なので、インドネシアでラーメンや餃子を食べると、がっつりとした満腹感に欠けるような気がいつもしていた。

 

豚肉をどうしても食べたければ、豚肉を扱っている店へ行くしかない。

そういう店の数は少ない。(でも、あります)

豚肉を食べるインドネシア人は、少数派であるキリスト教徒か、中国系インドネシア人だ。

イスラム教徒のインドネシア人からすると、豚肉を食べるということは不潔ということになる。

 

その日は残業の後、ラーメンが食べたくて仕方なかった。

帰宅途中に立ち寄れるショッピングモールの地下に、安いラーメン店がある。

そのラーメン店はイスラム教徒仕様で、鶏がらスープだしを使用していた。

 

鶏がらスープか…。

お腹が空いているのに、何となく物足りない気がする(こだわり過ぎ?)。

元気が余っているなら、遠くまで行って豚骨ラーメンを食べるのだが、その日はものすごく疲れていた。

鶏がらスープのあっさりラーメンで良しとするか、タクシーで遠くの豚骨ラーメン店まで行くか。

悩んだが、疲労には勝てなかった。

 

「ま、何だか物足りない気がするが、仕方ない。

イスラム教の国へ来たら、イスラム教徒と同じように行動するしかない。

郷に入りては郷にしたがえ、だ。」

 

と、自分を慰め、『本当は豚骨がいいのだが』と思いながら、その安いラーメン店へ入った。

メニューを見渡しても、当然ながら「不潔な」豚肉料理はゼロ。

イスラム教徒が安心して食べられる博多ラーメンとなっていた。

 

定番のラーメンを注文すると、鶏がらスープのラーメンが運ばれてきた。

私はそのあっさりラーメンを食べ始めた。

週末とか時間と体力のある時に、豚骨ラーメンを食べに行けばいいんだから。

 

「なんですって?」

突然、女性の低い声が聞こえた。

私は麺をすすっていたどんぶりから顔を上げた。

私のテーブルの前あたりに、家族連れらしき3人が立っていた。

どうやら新規の客らしい。

イスラム教のベールをかぶった女子店員が応対していた。

 

その3人は、中国系インドネシア人のようだった。

真ん中の中年女性は大きなヒスイのペンダントをし、耳と指にも大きな宝石がきらめいていた。

いかにも裕福な中国系マダムといった感じだった。

後の2人は、10代後半か20代前半の息子と娘らしかった。

 

私はそのゴージャスなマダムの宝石に目を奪われた。

どうしてこんなお金持ちそうな中華系の奥様が、こんな場違いな?安い店に来るんだろう?

あ、そっか。ラーメンって中華料理だったっけ…。

 

店員との会話で、先ほどの言葉を発したらしい奥様。

後ろを振り返ると、どうやら店外にいるほかの家族に声をかけた。

「この店、豚肉を使っていないらしいわよ。」

 

入口から、奥様の夫らしき中年男性と、そのお母さまのような年配のおばあさんが入ってきた。

「なんだって?豚じゃない?」

夫らしき男性が、店内に入りながら言った。

迫力のある奥様と並ぶと、やや迫力負けする感じの優しそうな旦那さんだ。

「ラーメンと言えば豚じゃないか。」

 

奥様と旦那様は、この店が豚肉を使っていないことにご不満の様子だった。

多分、お二人とも中華系なのだろう。

 

『ラーメンと言えば豚じゃないか』とも限らないと思うが、言いたいことは私にも分かる。

子ども2人は、この店が豚肉を使っていないことに両親がぶうぶう文句を言い始めたので、黙っている。

私は、ラーメンを食べる手を止めて成り行きを見守った。

イスラム店員も、申し訳なさそうな顔をしている。

 

「じゃ、いいわ。」

ゴージャスな奥様は、イスラム教のベールをかぶった女子店員にそう言うと、家族を促して店外へ出た。

旦那様は、ぶつぶつ「豚骨じゃないのか」と名残惜し気に言っている。

外装からして、日本風ラーメンの店だと思っていたらしい。

店の外に出た彼らは何やら口々に言いながら去っていった。

 

なるほど。

私は感心した。

さすが中国系インドネシア人だ。

食には妥協がないのかな。

 

やはり豚骨ラーメンを知ってしまうと、イスラム仕様のあっさり鶏がらラーメンが物足りないんだろう。

鶏ひき肉の軽い食感の餃子が許せなくなるんだろう。

チャーシューは豚肉で、がっつり満腹感を得たいんだろう。

うんうん、分かる分かる。

 

しかし、私なら豚骨のためにいちいち遠出はしない。

この辺が、すぐに譲歩する日本人(私だけ?)と、あくまでもうまいものにこだわる中国人(厳密には中華系インドネシア人だが)の違いなんだろうか?

 

コートジボアールにいたとき、よく現地人の友人が言っていた。

「日本人と中国人は、アフリカ人から見ると外見は似ている。

でも中身はまるっきり違う。

日本人はすぐに現地に適応するが、中国人はあくまでも自分の文化を貫く。」

 

私なぞは気が弱いので、イスラム教徒から「豚肉は不潔だ」なんて言われようものなら、じゃあ食べるのを控えようかな…なんて思ってしまう。

現地人が食べているものでいいや、と思ってしまうのだ。

 

「ラーメンは豚骨だ」

「鶏だしのラーメンなら食べない」

 

と言い切ってしまう中華系の人は、自分の文化に誇りを持っているというのか、あるいは単なる食いしん坊なのか分からない。

でも妥協ナシの態度はかえってすがすがしい。

 

こういう、こだわりの強い中国系の方なら、日本の「頑固おやじの店」とか「こだわりの店主」とかの哲学が理解できるのかもしれない。

最近は、インドネシア人の富裕層のみならず、中間層で日本へ観光に来る人も多い。

この中華系家族も、口ぶりから推察すると日本のラーメンを知っているぽかった。

日本人である私がラーメンの味に妥協していて、彼らが妥協しないのも面白いですね。