私は読書好きだ。
人の読んでいる本が気になる。
ホームへ行くと、私がいつも乗る乗車位置には、中年のおじさんが本を読みながら立っていた。
そのおじさんの後ろに並んだ。
電車はなかなか来なかった。
目の前の小柄なおじさんは、身長が150センチ台後半くらいだろうか。
集中して本を読んでいた。
私はおじさんの後ろに立ち、おじさんの読んでいる本になんとなく目をやった。
見ると、文字が横書きだった。
そうか、最近は外国語に堪能な人が多いからねえ。
東京は大学も多いし、このおじさんもどこかの先生かもしれない。
好奇心から、私はその本が何語で書かれた本なのか確かめようとした。
おじさんに失礼のないよう、あまり近くに寄らないように気を付けながら、本が見える角度からのぞいてみた。
(こんな怪しいことをやっているのは、多分私だけです。不審な行動をしてすみません)
ようやく分かった。
おじさんが読んでいるのはフランス語の本だった。
私はそっと、おじさんの後ろから離れた。
解読成功。
鼻息がおじさんにかからなくてよかった。やれやれ。
しかし、人は見かけによらないな。(←偏見)
おじさんの風体からして、落語全集とかそんな本だと勝手に思っていた。(←すごい偏見)
でも、本を読んでいる人には好感を抱きますね。
――
最近は、電車の中でスマホをいじっている人が圧倒的に多い。
座っている人を観察すると、10人いれば10人とも、スマホをいじくっている。
そんな中でも、本を読んでいる人がたまにいる。
本を読んでいる人を見ると、私は無条件に好意を抱いてしまう。
自分も本が好きだからかもしれない。
本を読むというと、思い出すことがある。
どこの国での出来事か忘れた。
飛行機ではなく、電車だった記憶があるので、多分欧州のどこかだったのだと思う。
電車に乗る前に、私は駅のキオスクで雑誌を買った。
長時間乗るのが分かっていたので、本を読んで時間をつぶそうと思った。
しかし、キオスクでは本は販売していない。
扱っているのは雑誌か新聞くらいだ。
ゴシップ誌は好きではないので、適当に適当な雑誌を買った。
雑誌を持って電車に乗った。
私の座った客室には入れ代わり立ち代わり、近距離利用の乗客が来ては降りて行った。
話しやすい乗客が来れば当たり障りのない会話をするが、駅に止まっても誰も乗らず、長時間一人になるときもあった。
そういうこともあったので、まあ、雑誌があれば暇つぶしになるかな、と思ったのだ。
話すのが面倒くさい時も、雑誌を読んでいるふりができますしね。
ある駅に止まり、何人かの乗客がどやどやと私の客室に入ってきた。
彼らは知り合いではないらしいが、空いている客室がないのでやってきたらしい。
乗客同士で何やら話しているが、私の分からない言葉だったので、黙って雑誌を読んでいた。
次の駅で、私の客室にいた乗客の2名ほどが降りた。
そして、また別の乗客が乗ってきた。
そんな感じで、何度か乗客が入れ替わった。
いくつかの駅を過ぎたとき、私の隣に座っていた乗客がいきなり話しかけてきた。
「あの、ちょっといいですか?」
英語だったので私は思わず反応してしまった。
「はい?」
見ると、先ほどから客室に座っている乗客だった。
私は、急に話しかけてきたその若い男性の顔を見た。
顔を見ただけでは、どこの国の人なのかさっぱり分からん。
でも、この人、さっきは別の乗客と別の言葉で会話していたような?
私が驚いた様子を見せたので、その若い男性はニコニコした。
この人、さっきはスラブ系の言語を話していたような気がするんだが。
(だから見た目が東洋人の私には、絶対に話しかけてこないと思って油断していたのだ)
「すみません、どうして私に話しかけてきたんですか?」
何だか妙な質問だが、気になる。
英語は誰でも話せるので、東洋人でも分かると思ったのかな?
すると、その男性は笑顔で言った。
「だって君、さっき英語の雑誌を読んでたじゃん。だから、この人は英語が分かるんだろうと思ってさ。」
そういうことか。
キオスクに売っていたほかの言語の雑誌は読めないので、自分が分かる英語の雑誌を買った。
私が雑誌を読んでいるのを、こいつは隣で見ていたわけか。
そのあと、この乗客の会話の相手をせざるを得なくなった。
雑誌さえ読んでなければ、
「ワタシ、英語わかりませーん」
とか言って、知らんぷりできたんだが。
この男性はかなり話好きで、いいのか悪いのか時間つぶしにはなった。
この一件の後、『後ろから人の読んでいる本をのぞくのはやめよう』と反省した。
のぞかれていた、と気づくのは、気持ちがいいものではない。
こうして、私は最近では人の読んでいるものをのぞかないように心がけている。
しかし、たまにだが、座って新聞を広げている人を見ると、こっち側からついつい読んでしまう。
(ただで読んでスミマセン!)
他人の新聞で面白い記事を読み、もっと読みたいときは、電車から降りてからその新聞を買ったりもします。
ラッシュアワーでエッチなスポーツ紙を広げているおじさんもいますね。
そういう時は、エッチな写真を見ているおじさんをじろじろ観察してしまう。
(多分、みんな同じことやってますよね)
どんなものを読んでいるかで、その人の中身も推測できそうな感じがするのは面白いですね。
電車通勤の会社員なら電車ネタは結構あると思いますが、今度はそういう記事も書いてみようかな。