今日も電車にまつわる記事です。
電車通勤していると、色々なことを目撃するものです。
今日の記事は私自身の体験談。
その日、私は少し残業したものの、終電よりもっと前に職場を出た。
職場の最寄り駅から地下鉄に乗り、別の駅へ行く。
そこで別の路線に乗り換え、また別の駅で再び乗り換え。
つまり、職場最寄り駅AからB駅へ行く。BからC駅、C駅から在来線と2回乗り換えるのだ。
C駅から乗る在来線が、ラッシュアワーにはむちゃくちゃ混んでいるのです。
なぜ東京に企業が一極集中しているんだろう。
と毎朝毎晩、鬼のように混雑する電車の中でもみくちゃになりながら、日本のいびつな社会構造を呪う。
ほとんどのサラリーマンが同じような気持ちで通勤しているに違いない。
昨今は、地方に本社を置く企業も多い。
そういう企業を見ると(つまり都内に本社を置かない企業を見ると)、私としては非常に好感度が高い。
しかし、多くの企業は残念ながら東京に会社があるんですよ…。
海外でもラッシュアワーはあるが、都内の通勤電車の比ではない。
海外生活の長い周りの友人たちが、ことごとく都内通勤に音を上げるのも無理はない。
その日の夜も、私が乗る電車は帰宅する会社員で激混みだった。
(すみません、語彙が貧困で…)。
以前、何かで読んだことがある。
日本で最も混む電車ランキングだ。
1位が千葉県から都内へ来る電車、2位は神奈川県から都内へ来る電車、3位は埼玉県から都内へ来る電車、だった記憶がある。(路線名は忘れました)
つまり、東京を取り巻く3県から来る通勤電車が、日本で最も混む通勤電車の1位から3位までを占めているのだ。
最近はフレックスやら時差通勤やらで多少は混雑が緩和されているものの、混んでいることには変わりない。
その激混みの電車にやっと乗ったが、車内はいつも通りぎゅうぎゅう詰めだった。
私はおじさんたちをかきわけ、奥の方に進み(入口に立っていると邪魔なので)、四人がけの座席(ボックス席と呼ぶらしいですね)のあたりにつかまっていた。
すると、ラッキーなことに窓側に座っている人が次の駅で降りた。
私はまたもやおじさんたちをかきわけながら、空いた席に座った。
窓側の席はすぐに通路に出られないので、皆なかなか座ろうとしない。
皆さん、通路側に座りたがるのです。
私は長時間乗るので、窓側でも全然かまわない。
座ると、すぐに睡魔が襲ってきた。
(習慣なのか?反射的にこうなるみたいです)。
カバンを膝に抱え、私は少しの緊張感を持ちながら目を閉じた。
帰宅途中、電車で大爆睡して、気づいたらとんでもない遠くの駅で目が覚めたことが何度もある。
降りる予定の駅の少し前で目覚めよう。
そんな風に思っていた。
ちゃんと緊張感を持っていたおかげで?私はふと目覚めた。
車窓の風景から推測するに、次の駅が自分の降りる駅のようだった。
なんとタイミングよく目覚めたんだろう!
今日は寝過ごさなかったぞ。よしよし。
窓側の席に入ってしまったので、次の駅に到着する少し前には席を立ち、出口ドアへ移動しよう。
そんなことをぼんやり考えながら、私は隣や前に座っているおじさん会社員たちを眺めた。
私の隣のおじさんも、目の前のおじさんも、カバンを抱えてぐっすり眠っていた。
お父さんたち、本当にお疲れ様です。
このおじさんたちをかきわけて、早く移動しよう。
私の斜め前に座っているスーツ姿の初老の男性に、私の視線はなんとなく止まった。
(斜め前とは、自分の向かい側の席の乗客の右隣に座っている乗客、ということです)
その男性は、自分の目の前に座っているおじさん(つまり、私の左隣に座っている乗客です)が膝に抱えたカバンに手を伸ばした。
その初老男性は、私の隣で眠っているおじさんのカバンのファスナーを両手で持ち、すっと左右に開いた。
ファスナーが15センチくらい開いた。
私はそれを見ながら、なるほど、と思った。
この親しい感じからして、2人は同僚か何かなんだろう。
初老の男性は、私の隣に座っている男性に書類か切符か何かを預けたのだろう。
もうすぐ自分の降りる駅に違いない。(つまり私の降りる駅で降りるわけだ)
なので、預けた切符か何かをカバンから取り出そうとしているんだろう。
私はぼんやりとそんなことを考えながら、その様子を眺めていた。
すると、電車は次の駅に到着。
「〇〇、〇〇です。」
駅員の車内アナウンスが聞こえた。
すると、それが聞こえたのか、私の左隣で眠っていたはずのおじさん会社員が飛び起きた。
え?
私は驚いて、その立ち上がった会社員を見上げた。
彼は、カバンが15センチほど開いていることに気づかない様子で、乗客をかき分けて降りて行った。
私の前に座っていたおじさん会社員も、同様に目覚めて電車を降りて行った。
私はあっけにとられた。
ど、どういうこと?
2人が降りても、初老男性は座ったままだ。
隣の会社員は、初老の男性と同僚同士じゃないのか?
初老の男性は、隣の男性会社員に切符か何かを預けたんじゃないの?
何が起きたんだ??
はてなマークが私の頭の中で飛び交う。
4人掛けの席から、隣と前に座っていたおじさん2人が降りて行ったので、私も慌てて席から立ち上がった。
何だかおかしいな?
私は、まだ座っている初老の男性をもう一度見た。
この人は先ほどのおじさんと同僚じゃないの?
しかし、カバンを開けられたおじさんが初老男性に声もかけずに降りて行ったところを見ると、2人は顔見知りじゃないらしい。
なんでだろう?
初老の男性は、私と目が合うと、ニヤリと笑った。
あ、そうか。
ようやく私にも分かった。
私も、人込みをかきわけてその駅で電車から降りた。
電車は発車した。
駅から去っていく電車の車両を見ながら、私はようやく理解した。
あの2人は知り合いでも何でもない。
初老男性は、爆睡しているおじさん会社員の財布が目当てだったのだろう。
初老男性がスーツ姿だったので、会社員だとうっかり思い込んでしまった。
人の財布を盗む際、おどおどしていたらすぐにターゲットに気づかれてしまう。
友達か知り合いのように、自然にそして堂々と、ターゲットのカバンを開けるのがコツなのだ。
そして、混んでいる電車に乗っていても怪しまれないようスーツを着ることも重要だ。
なるほど。
私は今になってようやく何が起きたか良く分かった。
ずっと一部始終を見ていた私に対し、初老男性はニヤッと笑った。
それは、ターゲットの財布を盗めなかったという笑いだったんだろう。
しかし、どうでもいいが、あれだけ爆睡していたおじさん会社員。
自分の降りる駅でちゃんと目覚めるわけだ。
タイマーをセットしたように自分の降りる駅で目覚めるおじさん会社員、さすがベテランだ。
その習慣のおかげで財布を盗まれずに済んだのだから、すごいとしか言いようがない。