食事前にこの記事を書いているので、食べる話題で恐縮です。
今までの記事にも何度も書いたが、インドネシア人にとっては食事が人生の喜びの一つだ。
日本人も食べることが好きだが、彼らのグルメっぷりは日本人に負けず劣らず。
食べる、寝る、祈る、しゃべる。
この4つにしか生活時間を割いていないのでは?と思うくらいだった。
ジャカルタでGo Foodのイベントがあった。
Go Foodとは配車アプリGojekグループ傘下のサービスの一つで、料理の宅配サービスのことだ。
Go Foodで取り寄せられる店の数々がブースを出展し、様々な料理が一か所で楽しめる。
このイベントは長い間開催されたので、私もインドネシア人の友人たちと何度か利用することができた。
ある日、仕事が終わってから同僚たちとランニングをすることになった。
服を着替えた後、それぞれ自分のペースで適当に走った。
その後、日本人同僚たちは疲れたとか言いながら、帰宅していった。
私も帰ろうとしたが、インドネシア人の同僚たちがGo Foodへ行こうと言い出した。
インドネシア人グループの中に一人だけ日本人というアウェー感満載。まあ仕方がない。
GoFoodの出展ブースは沢山あった。
ブースを回り、料理の写真を見て、おいしそうなテイクアウトを選んだ。
会場内には椅子とテーブルも設置されていたので、私は自分のオーダーしたテイクアウトを持ってそこで同僚たちを待った。
これが、なかなかやってこないのだ。
一体どこへ消えてしまったんだろう??
待ちあぐねて、もう食べちゃおうかな…と思い始めたころ、同僚たちが三々五々と戻ってきた。
「お待たせしました~!!」
「いやあ、料理がありすぎて迷っちゃって!」
インドネシア人同僚たちは口々に謝罪しながら、テーブルに自分たちの獲物を並べ始めた。
その数が、人数分より何となく多い…。
そのことを指摘すると、同僚たちは表情も変えずに言った。
「これとこれとこれは私の。どれも食べたいから全部買ったの。」
「〇〇ちゃんのこれは、私とシェアするの。これは自分で食べる。これは××ちゃんと食べるおかず」
彼らの説明を聞きながら、私は思った。
Mさんが買ってきた料理2つ、どっちも揚げ物じゃないか…。
私は「揚げ物を食べたいが、健康に良くないから控えよう」と思って、揚げ物じゃない料理にしたのに。
えっ、Yさん一人でそれとそれ、それからあれも食べるわけ?一人で?
ちょっと食べ過ぎじゃないのか?
私など、「あれも食べたいが、さすがに太るからやめよう」とあきらめたのに。
Jさん、そんなに食べた後、揚げバナナも食べるわけ?マジすか?
私も美味しそうだなとは思うが、「夜だから胃がもたれるかも」と思ってやめたのに。
私が色々考えているのをしり目に、インドネシア人同僚たちはきゃっきゃっ騒ぎながら、楽しく大量に食べている。
それを見ていると本当に幸せそうだ。
食べたいものを食べたいだけ食べているんだもん、幸せなのは当然だ。
日本人は「揚げ物は体に悪い」とか、「夜は少量で」とか、「腹八分目」といった健康情報に惑わされ過ぎなのか?
健康に気を遣いすぎなんだろうか?
むしろ何も考えない方が楽しいような感じもする。
(しかし、それを毎日やっていると大変なことになりそうな予感…)。
この時、同僚たちが食べている物のいくつかは、本当においしそうだった。
早く食べ終わった私(だって、「夜だから少量」しか食べていないですからね)が時間を持て余していると、一人の女性同僚が言った。
「インドネシア人は食べることが大好きで、グルメなんですよ。年がら年中、おいしい物の情報を求めてるし、おいしい店はいち早くチェックするんですよ。日本人もグルメだけど、私たちも負けていないですよ。」
この彼女は子どもの頃、親御さんの仕事の都合で日本に住んでいた。
日本語も堪能だ。
彼女が言うなら、インドネシア人のグルメっぷりは本当なんだろう。
少し太めの彼女だが、体形を気にする様子はない。
日本人は痩せすぎだし、体形を気にしすぎかも。
――
こんなこともあった。
別の友人と、食事に出かけたときのこと。
彼女は小さいながら美容院を経営していて、そのほかにも不動産業や料理の販売やら色々手掛けている。
「私が手作りしたソースなの。好評販売中なのよ。味見に持っていかない?」
とか、
「日本がジャカルタに地下鉄を作ったでしょ。だから、これから郊外に住む人が増えると思って、郊外に土地を買ったの。」
とか、
「このエリアを調べたら、美容院がないことが分かったから、思い切って美容院を出店したの。」
などと、なかなかのやり手だ。
彼女と話をしていると、何でもビジネスチャンスになるような気がする。
そういう、仕事大好き人間のラトナと居酒屋へ行く途中。
(この時も、『最近オープンした日本式居酒屋へ行きたい』とラトナに言われ、行くことになったのだ。)
彼女は中国系なので、ビールも飲める。
2人でタクシーに乗っていると、突然彼女の携帯電話が鳴った。
ラトナは私に断って電話に出た。
彼女は顔をしかめながら、「え?」とか、「どうして?」と言っている。
何かトラブルが発生したようだった。
しかし、いくつもビジネスを手掛けている彼女はいつも次々に難局をさばいていく。
今回もそうなんだろうと思いながら、私は彼女の電話が終わるのを待っていた。
彼女は電話を切った。
ため息をついて私に向き直る。
「今の電話、うちの運転手からだったの。」
私は彼女に、誰からの電話?と聞いていないのだが、ラトナは腹立たしさを押さえきれないように話し始めた。
彼女は仕事が早いので、のんびり屋が多いインドネシア人の仕事ぶりにイライラするようだ。
ラトナはインドネシアではなく、日本で生活をすればしっくり来るんだろうな、といつも思う。
「うちの運転手、お金を貸してくれ、って言ってきたの。」
へえ。
雇い主に給料の前借りか。
そんなこともあるんだ。
彼女は運転手を雇っている。
彼には、今日は休みをあげたのだという。
その運転手からの電話だった。
ラトナは怒りのやり場がない様子で、こう言った。
「それが、どうしてお金が急に必要になったんだと思う?」
うーん。私はいくつか理由を考えてみた。
「お子さんの学費?奥さんが出産?年老いた親御さんが入院とか?」
思いつく『緊急にお金が必要なケース』を私は挙げてみた。
ラトナは首を振った。
「身内が急に入院して物入りになった、とかなら仕方ないと思うわよ。違うのよ、食べ過ぎたのよ!!」
食べすぎ?
どんな理由なんじゃ、そりゃ?
ラトナは憤懣を吐き出すように話し始めた。
今日、自分の運転手は妻と2人の子どもを連れ、レストランへ食事に行った。
(ラトナは、運転手が行った店の名前と場所まで聞いたという。どんな料理を出す店で、いくらくらいの値段なのか、詳しく話してくれた)
その店で、家族4人でお腹いっぱい食べた。
あれもこれも、食べたいものを何でも注文し、好き放題食べまくった。
そして支払いの段になってようやく気付いた。
4人で食べまくった結果、お勘定が(日本円にすると)3万円くらいになっていた。
(1人あたり7,500円。日本でも、普通はこんなに食べませんよね。どんだけ食べたんですかね…恐ろしいですね)。
運転手は、さっきまでの幸せな気分がサーっと引いていくのが分かった。
彼の月給は、日本円にすると約5万円。
家族4人分とはいえ、一食で3万円も使ってしまうとは。
そこで、慌てて雇い主に電話し、給料を前借しようとしたのだ。
私は驚いた。
月給5万円で、食費に3万円も使ったのかい。
エンゲル係数、高すぎ。
しかも、たった一回の食事でねえ…。
ラトナは腹立たし気に言った。
「どうして財布と相談しながら食べないの!って叱ったのよ。なんで私がレストランにお金を届けなくちゃいけないのよ。」
そしてそのあとは居酒屋に到着するまで、ラトナの愚痴は続いた。
運転手にこういうことを指示した、居酒屋から帰ったらきつく注意してやる、だいたい、奴はいつも食べ過ぎなのよ、給料を上げろって?お金の使い方がルーズなのよ…。
以前も書いたように、インドネシアで定められた最低月給は、日本円にすると約1万円。
ジャカルタの大卒OLなら、3万か4万くらいはもらっているだろう。
運転手なら高卒くらいだろうから、5万円は極端に安いわけでもないと思うのだが…。
もしかして、子どもが2人とも男子で、野球部でドカ食い?なのかな。
奥様が大食い選手権優勝者とか?
店にどう言って支払いを猶予してもらったんでしょうかね。
そっちが気になって仕方ない。