海外で相手の事情を知らないまま、自分の思い込みで怒ってしまったことが何度も(!)あります。
恵まれた日本とは事情が違うのに勝手に怒ってしまい、本当に反省しています。
こんなことがあった。
あるとき、私はインドネシアのある地方へ出張した。
会社の女性スタッフが仕事で宿泊する施設を予約したときのこと。
オーナーのお姉さんが、建物内部を案内してくれた。
建物内外を見て回ったが、宿泊する部屋の窓の鍵の取り付けが甘かった。
一応、鍵はかかるのだが、鍵自体がぐらぐらしていた。
おまけに、シャワーもなんだか水の出があやしい。
途上国ではよくありがちなんだが、すぐに壊れそうな鍵なんて信用ならない。
自分が泊るならともかく、他人(しかも女性)が宿泊するなら、安全なところでないといけない。
それにシャワーだって、ちゃんと整備できるはず。
と思い、オーナーのお姉さんに鍵とシャワーの修理を頼んでおいた。
2,3か月経ち、いよいよその施設に女性スタッフが宿泊する日になった。
行ってみると、鍵がまだ修理されていないし、シャワーも相変わらず水の出がちょろちょろ。
その日、管理人室にいたのは20代くらいの男性だった。
「修理して、って頼んだでしょ?聞いてないの?」
オーナーのお姉さんから聞いていないのか、お兄さんはきょとんとしている。
ちゃんと連絡してないんだから、もう…と腹立たしかったが、仕方ない。
お兄さんに、部屋の鍵とシャワーを修理しておくよう、改めて伝えておいた。
その後、宿泊した女性スタッフから電話があった。
早速、管理人の兄ちゃんが鍵とシャワーを直してくれたのだという。
良かった、お兄さんに言っておいて。
と思ったのもつかの間。
彼女は電話口で嬉しそうに言った。
「あの後、管理人のお兄さんともう一回話したんですよ。
すごくいい人で、シャワーから水が流れなくて困ってる、って言ったら、すぐに業者さんを呼んでくれました。
でも、知ってました?彼はインドネシア語が出来ないんですよ」
私は耳を疑った。
「インドネシア語が出来ない?どういうこと?」
すると、女性スタッフは説明してくれた。
彼女がインドネシア語でシャワーの話をしても、お兄さんは不思議そうな顔をしていたらしい。
自分のインドネシア語が不十分なのかな?と思い、その町に住む別の現地スタッフを呼んだ。
そこで初めて分かったことだが、管理人のお兄さんは現地語(その町の地方語)しか理解できないのだという。
「どうして地方語しか出来ないの?インドネシア人でしょ?」
私が尋ねると、彼女は答えた。
「そうなんですが、お兄さんは生まれてこの方、学校へ通ったことがないそうです。」
学校へ通学したことがない?
私がその言葉を頭の中で考えていると、彼女は続けて言った。
「だから、こっちがいくらインドネシア語で『シャワーを修理しろ』と言っても、理解できていなかったみたいですよ。」
そうなのか…。
私はようやく、すべてを理解した。
アフリカと違って、インドネシアの就学率は9割くらいだった記憶がある(ネットで統計を見ました)。
そんなに就学率が高かったら、インドネシア人のほとんどが小学校くらいは卒業しているはず。
公用語であるインドネシア語は当然勉強しているだろう、と私は思い込んでいた。
その町は、インドネシアでも田舎の地方だ。
公用語であるインドネシア語が話せなくても、そこの地方語が話せれば普段の生活は問題ない。
おまけに、学校へ通学したことがなければ、公用語であるインドネシア語を勉強する機会はないのだ。
そっか、あのお兄さん、学校へ通ったことがないのか…。
インドネシア語でがみがみ叱ってしまい、悪いことをしたなあ。
彼女との電話を切った後、もう一度自分なりによく考えた。
あの若さでも、教育を受けたことのない人がいるのか。
経済発展しつつあるインドネシアの表面しか見ていなかったことを知り、ちょっと衝撃でした。
ま、大体どこの国の政府も、自分の国を良く見せようと統計を公表するものです。
就学率9割といえど、それは最近の話。
学校に行けないくらい貧しい人、貧しかった人も、まだまだいるわけです。
就学したが卒業できなかった人もいるでしょうしね。
あのお兄さんも、ジャカルタから来た、インドネシアの事情も知らない外国人にがみがみ怒られて、さぞかし怖かったことだろう。
本当にごめんなさい!