オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

ロニさんの涙

 

常々思うのだが、インドネシア人は優しい人柄の男性が多い。

もちろん、全員が優しいわけではないし、感じ悪いインドネシア人もいる。

しかし、概してインドネシア人男性は、体が大きくてもソフトな人が多いように思う。

こんなことがあった。

 

ある日、私は会社の車に乗って出かけた。

用事を済ませて会社に戻る途中、渋滞にはまった。(いつものことですが…)

 

なかなか渋滞が切れないので、私はインドネシア人運転手と世間話を始めた。

車の中で時間つぶしとなると、おしゃべりくらいしかやることがない。

しかも、たいていの運転手はインドネシア語しか話せない。

私のインドネシア語上達には、ありがたい?機会なのです。

 

その時の運転手は、こわもてのロニさん(仮名)という運転手だった。

最初はロニさんの腰痛の話とか、どうでもいい?話をしていたが、そのうちある事件の話になった。

 

イスラム教徒が多いインドネシアは、当然ながら中東へのあこがれがある。

(メッカ巡礼も盛んですしね)

中東に渡り、IS(イスラミック・ステート)の過激思想に染まる人もいる。

そういう過激思想に染まった後、インドネシアに戻ってテロ活動をするケースがあるのだ。

 

インドネシアでは、本当にごく最近の傾向だが、女性のテロリストや爆弾製造犯が増えてきた。

中東へ行った夫が過激思想に染まり、帰国した夫からISの話を聞いて自分もテロリストになるパターン。

中には、妻や子がより過激なテロリストになるケースもある。

そんな中で、こんな事件が発生した。

 

東南アジアの国へ旅行したことのある人なら、バイクに乗る現地人を見たことがあるだろう。

お父さんがバイクを運転し、後部座席にお母さん、その間に子どもがはさまっているような、一家3人がバイクに乗っていることもよくある。

 

ある大きな町の警察署へ、バイクで立ち寄った一家がいた。

警察署で用事を済ませるため立ち寄った体だったが、実はそうではなかった。

 

彼らはテロリストだった。

爆弾を身に着けており、応対した警察官もろとも自爆した。

最初から、警察署をターゲットに自爆テロを起こすつもりだったのだ。

 

この時、両親と一緒に2人の子どもがバイクに同乗していた。

大きい子は両親とともに亡くなったが、小さい子どもは爆風で吹き飛ばされた。

目撃した警察官が身を挺して救い、小さい子の方は命が助かった。

この事件はインドネシア国民にとっては衝撃的だったし、私も報道で知って驚いた。

 

その事件の直後だったので、ロニさんはこの事件の話を始めた。

 

インドネシアでは、今まではテロ事件を起こすのは男だけだった。

奥さんや子どもまで道連れにするテロは、なかったんだよ。」

 

家族優先、家族中心主義のインドネシア人からすると、妻や子どもと一緒に自爆するなんて、考えられない。

マッチョ的というか、男尊女卑的風潮もあるため、女性や子どもは男が守る存在、という考えもある。

この国の一般的な考え方とは相いれない事件だったのだ。

 

「でもさあ、子ども1人だけでも助かってよかったね。」

と私が言うと、ロニさんは顔を曇らせた。

 

「『テロリストの子ども』と言って学校でいじめられないかな。

本当に気の毒だ。その子が悪いわけじゃないのに」

 

うん、それは確かにその子の責任じゃない。

「ああ、本当にかわいそうだ。家族を巻き込むなんて、絶対やっちゃいけないよ。」

 

ロニさんは感極まって、目に涙を浮かべた。

ええっ、ちょっと泣かないでよ。

私は戸惑った。

 

車内には彼と私しかいないので、何だか私が泣かせたみたいじゃないの。

対向車のドライバーが見たら、悪徳日本人上司に怒られた善良インドネシア人運転手のように見えるだろう。

早くこの話題を切り上げよう。

なにかほかの話題…あわわ(焦る)。

 

私が慌てて違う話題を探し始めたので、ロニさんも指で涙をぬぐった。

運転しながら、くすんくすんと鼻をすすっている。

 

この後、結局ロニさんとの会話はスクワランの話になった(なんでだろう)。

スクワランは化粧品だと思っている私と、目に効くからと、目の悪い母親に買ってあげたいロニさんと、話が平行線だったのはともかく。

 

顔のいかついロニさんが、自爆テロ犯の子どもに同情するような、繊細で心優しい男だったとは知らなかった。

スクワランの話をして初めて分かったが、ロニさんは高齢の母親を介護する孝行息子だったのだ。

 

しかし、何年かのインドネシア生活を経て、私がいまだに理解できないことがある。

心根の優しい男性が多いと思う一方、警察や軍がテロリストや独立運動のデモ隊を暴力的に弾圧するのをよく見かけることだ。

気性の優しさと、上官の命令で発砲するのはまた違うのかもしれない。

 

大統領令に反対するデモ隊を、ビルの屋上から狙撃したゴルゴ13みたいなケースもあった。

以前の記事にも書いたが、独立運動参加者を拘束し、闇に葬るケースもある。

優しい顔と冷酷な顔の二つがあるように思う。

 

そんなことを言ってしまうと、女性も同じかもしれない。

女性と言えば、自宅で爆弾を製造していた一家が警察に密告された事件があった。

包囲された夫は、あっさり警察に投降。

しかし、過激思想に染まった妻と子が家に立てこもり、最後には家ごと自爆した。

日本ではそんな事件は、あまり聞いたことがない。

 

ジャカルタ在住外国人からは、「小鳥のように」かわいらしいと言われるインドネシア人。

しかし、人前で涙を見せる優しさもあれば、冷酷にテロを実施したりデモ隊を弾圧したりする一面もあるのだろう。

 

かたやインドネシア人に言わせると、戦時中の冷酷な日本人と、戦後の優しい日本人が同じ国民に見えないらしい。

どの人にも二面性がある、ってことなんでしょうかね。