オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

野菜肉炒め定食

 

南米の人は肉をたくさん消費するという。

自分も肉は好きだよ、という日本人は多いだろうが、日本人の食べる量とは比較にならないようだ。

 

以前、こんなことがあった。

 

パナマ人のホセフィナちゃんという女子研修員がいた。

来日して日が経つにつれ、だんだん元気がなくなっていった。

もしかしてホームシックかな?なんて、最初は思っていた。

 

「どうしたの?頑張ってね」

なんて声をかけていたのだが、ことはそんな簡単ではないらしかった。

一か月、二か月過ぎて行くと、ホセフィナは笑って頑張れる感じではなくなってきた。

日本人から声をかけられると弱々しく微笑むが、元気は完全に失っていた。

 

心配した日本人が彼女に話を聞いてみると、日本での食事に問題があるのだという。

肉が食べたいが日本は肉が高い、とホセフィナは訴えた。

 

それを聞いた私の上司の高橋さんは、笑顔で言った。

「私に任せておいて!ホセフィナを元気にしてあげるわ!」

 

高橋さんはホセフィナを食事に連れて行き、話を聞くことにした。

外食すれば気分転換になるし、ゆっくりホセフィナと話をすれば、彼女のホームシックも解消されるかもしれない、と考えたのだ。

高橋さんは英語も上手だし、ホセフィナも英語で好きなだけ話が出来て、ストレス発散になるだろう。

 

高橋さんは、ややベジタリアン気味だった。

いや、ほとんどベジタリアンになりかけていると言っても差し支えなかったかもしれない。

まあ、ある程度の年齢になれば肉や魚を食べるのが胃の負担になって、だんだん野菜中心の生活になっていくのかもしれませんけど。

 

高橋さんは張り切って車でホセフィナとランチへ出かけ、1時間後に帰ってきた。

ホセフィナとの昼食がどうだったのか、すぐには聞くことが出来なかったのだが、帰宅時間にようやく高橋さんと話をする機会があった。

 

高橋さんによれば、ホセフィナを昼食に連れて行き、一緒に楽しい時間を過ごしたという。

「何を食べたんですか?」

と尋ねると、野菜肉炒め定食をご馳走したのだという。

 

「野菜の中に、肉が入ってるからね。あれなら大丈夫でしょう」

高橋さんは満足げに言った。

 

しかし、高橋さんとの昼食後も、ホセフィナはますます元気を失っていった。

心配した日本人に、元気?と聞かれれば、ホセフィナはぎこちなく微笑み返す。

日本人が気を遣っているのが分かるので心配をかけまいとしているのだが、どんどん生気を失っていくのだ。

 

うちのスタッフがもう一度、ホセフィナに聞いてみた。

「君の体は大丈夫か?何か食べたいものがあるか?どうやったら君は元気になるか?」

すると、ホセフィナは訴えた。

「肉が食べたい。肉をたくさん食べたいんです。」

 

それをスタッフから聞いた高橋さんは、不思議そうに言った。

「でも、この前ホセフィナは野菜肉炒め定食を食べたでしょう?」

 

普段、ほとんど肉を食べない高橋さんは、野菜肉炒め定食で肉をとれば十分だ、と思っていたらしかった。

それでもまだホセフィナが肉、肉と騒ぐので、高橋さんは面食らった。

 

「たくさんの肉を食べたいって、どれくらい食べたいの?」

 

一計を案じ、日本語教師のA先生がホセフィナを車に乗せ、焼き肉店に連れて行った。

ホセフィナに肉を集中的に食べさせるつもりだった。

日本で倒れられるよりはましだ。

 

焼き肉店から帰ってきたA先生によれば、店でホセフィナは肉以外、何も注文しなかったという。

店で彼女は次々に肉を平らげ、先生に訴えた。

 

「先生、どうして日本はこんなに肉が高いんですか?」

 

ホセフィナにとっては、日本の肉は少ない上に高額すぎる。

彼女の財力では、全然満足できる量が食べられないのだ。

 

結局A先生は全く食べず、ホセフィナだけが肉をがつがつと食らった。

肉を前にして食欲全開のホセフィナに、

「おごってあげると言った手前、食事代金が払えるのか不安になった」

とA先生。

好きなだけ肉を食べたホセフィナは、大満足して店を後にした。

 

ホセフィナが何皿の肉を食べたか、A先生から聞いた我々は驚いた。

すげえなあ…。

 

気になって、ネットで調べてみた。

アルゼンチン(南米代表ということで)の肉消費量は年間36キロ。

日本は7キロ。(2020年OECDのデータ)

ってことは、南米人の肉消費量は、日本の5倍じゃないか!

なら、日本で食べる肉の量は、南米出身者には話にならないくらい少なすぎるわけか…。

 

その後、ホセフィナの話を、夫がブラジル人である友人Bに話した。

すると、彼女はさもありなんと深くうなずいた。

 

「野菜肉炒め定食なんて、『肉』を食べたうちに入らないでしょ。

南米人は肉がほぼ主食なんだから。」

 

へえ、そうなのか…。

そのあと友人Bから、南米人の肉消費量についてじっくり話を聞くはめになった。

 

半信半疑だった私も、Bと他の友人たちと一緒にブラジル料理店へ行って、ようやく分かってきた。

確かに、食べる肉の量が半端ないですね、南米人たち。

日本人の比ではないわけだ。

 

高橋さんは、A先生と焼き肉に行って元気を取り戻したホセフィナを見て、納得いかない様子だった。

「だって、野菜肉炒め定食にも肉が入ってるじゃないの。」

いやいや、あれは肉を食べたうちに入らないらしいですよ…。

 

私は肉好きというほどではないが、たま~にトンカツとか焼き肉、ステーキなんかにかぶりつきたくなる。

安い肉をスーパーで発見するとこっそり買ってきて、家族に見つからないようにステーキにし、一人で肉を堪能したりする。

 

鹿児島に単身赴任した友人は、

「鹿児島では、焼酎が飲めないと仕事にならないんだよね」

と言っていた。

モンゴルでも、お酒が飲めないとモンゴル人と仕事にならないと聞く。

 

たぶん、南米に赴任したらかなり肉好きでないと、出される料理は肉料理が多すぎて辟易するだろう。

そのうち南米で仕事をしたい、と思いながら、私は日々スペイン語の勉強をしている。

 

しかし、ホセフィナの肉の食べっぷりを聞いたら、胃に自信がなくなってきた。

ほっそりした女子でも、そんなに肉を食らうのかい…。

やはり、南米で働くなら若いうちがいいのかもしれない。