今回の東京オリンピックを見ていて、不思議に思ったことがある。
例えば香港だ。
中国に返還されて中国の一部になったことは知っているが、オリンピックでは「香港」として出場している。
中国として出場するんじゃないの?と不思議に思った。
同様に、バージン諸島、ケイマン諸島などもそうだ。
(ちなみに、バージン諸島は英国領もあれば米国領もあって、ややこしい)
それら地域は全部ひっくるめて「英国」として出場するのかと、ずっと思っていた。
国際オリンピック委員会の選手選定基準がいろいろあるんでしょうね。
カリブ海地域で開催された大会で優勝した選手なら、「英国」代表ではなく、「バージン諸島」代表になる、とかなんとか。(←よく知らないので適当に言ってます)
旧宗主国である英国、フランスは、いまだにたくさんの海外領地を持っている。
このオリンピック方式(つまり政治的な共同体の「英国」を用いず、地域ごと)にすれば、様々な地域から選手が出場できる。
見ているこっちは混乱しましたが、オリンピックとはこういうものなわけですね。
普段ニュースで見ている「国」とは違って、ちょっと新鮮に感じました。
で、その英国。
英国の正式名称はグレートブリテン・北アイルランド連合王国、というらしい。
オリンピック入場行進では「英国」というプラカードになっていた。
オリンピックでいう「英国」とは、イギリス本土?のみのことなんだろうか?
今回出場した「英国」選手はどの地域出身なのか、私には見当もつかなかった。
グレートブリテン・北アイルランド連合王国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4地域から構成される。
地理的範囲はイングランド島(本土)と、アイルランド島の一部だ。
このアイルランド島に、(独立国家)アイルランドと(英国の一部)北アイルランドが同居している。
アイルランドと北アイルランドは陸続きなので、当然アイルランドから北アイルランドへ行く道路がある。
この道路は、北アイルランド側はきれいに舗装されていて、アイルランド側は安普請?の道路だ。
私は先日、この道路を池上彰さんのテレビ番組で見て、改めて2か国の経済格差に驚いた。
北アイルランドは(先進国)英国の一部なので、道路がちゃんと舗装されているのだ。
比較的貧しいアイルランドの方は、英国領ほどの舗装がなされていない、というわけ。
この道も、今までは英国がEUに加盟していたので自由に行き来が出来た。
英国がEU離脱してしまうと、アイルランドから北アイルランドへ続く道路には国境検問所を設けなくてはいけなくなるらしい。
面倒くさいですね…。
ま、この問題は長くなるので、また何かの折に。
スペインの大学へ行っていた時に、北アイルランド出身の同級生がいた。
ここではヤスミンという名前にしておく。
仲良くなった同級生同士でお互いに自己紹介した際、ヤスミンは「Soy de Irlanda Norte」と言った。
それを聞いた私は面食らって、イルランダ・ノルテってどこだ?と思ってしまったが、つまり英国なわけですね。
(いや、つまり北アイルランドですね、というべきか。)
ここで面白いのは、彼女は決して「私は英国人です」とは言わなかったこと。
誰に対しても、「自分は北アイルランド出身だ」と言うのです。
ふーん。
自分は北アイルランド人であって、英国人じゃないのか…。
ヤスミンはベルファスト出身だった。
知っている人は知っていると思うが、北アイルランドは昔テロが盛んな?地域だった。
北アイルランドの英国からの分離(そしてアイルランドとの統一)を掲げたアイルランド共和軍(IRA)という武装グループが、英国の支配に抵抗してテロを起こしていたのだ。
スペインは昼食時間がやたらと遅い。
朝食は朝6時とか6時半なのだが、昼食は早くても午後4時なのだ。
(早くても、ですよ!)
私は小学生がいる家庭に下宿していたので、昼食は午後4時には何とか食べられた。
しかし、普通のスペイン人家庭は、昼食は夕方6時過ぎてもおかしくない。
夕食は夜10時くらいに食べる。
我々外国人にとっては、昼食が夕方4時なんて待ちきれないわけです。
授業の合間、午前10時くらいになると私たちはバルへ行き、牛乳を飲んだりビスコチョだので腹ごしらえしたりしていた。
さもないと、夕方4時まで空腹で死にそうになるのだ。
ヤスミンは痩せた色白の学生だったが、よく菓子パンやドーナツなどかさばる物を食べていた。
私も食欲旺盛な方だが、私よりもヤスミンはよく食べていた。
牛乳を飲みながら菓子パン2個をおやつ代わりに食べ、昼食も食べ。
よく食うなあ…。
おやつを食べながらヤスミンがよく話していたのが、ベルファストのテロだった。
「道を歩いているとね、急にポストとかゴミ箱が爆発したりするのよ。IRAのテロなの」
もぐもぐ揚げパンをほおばりながら、他人事のようにヤスミンは話した。
「怖くないの?」
と他の学生が尋ねると、ヤスミンは表情も変えずに言った。
「だって、私たちどこへ行けばいいの?そこしか私の住む町は無いのよ。どうしようもないでしょ」
そりゃそうだ。
私たちは苦境に陥っている国を見ると「かわいそう」と思いがちだ。
しかし、そこに住んでいる人たちは、そこしか行くところは無いのだ。
私も海外で生活していると色々考えることはあるが、嫌となったら日本へ逃げかえることが出来る。
逃げられるあてのある自分は、結局お客さんなんだよな、と思うこともある。
いまだに揚げパンを見ると、揚げパンを食べながら冷静にテロを分析していたヤスミンを思い出すし、北アイルランドは平和になったんだろうかと思う。
池上さんの解説によれば、北アイルランドでは大掛かりなテロはなりをひそめたらしい。
今回オリンピックに出場した地域が、「中国じゃなくて香港」とか、「英国じゃなくてバージン諸島」というのを見て、「英国じゃなくて北アイルランド」のヤスミンはどう思っただろう、なんて思い出しました。
しかし、どうも私の彼女に関する記憶は、政治的なテロよりも揚げパンと強烈に結びついているようだ。