オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

アメリカのお化け  

 

アメリカの大学へ通っていた時に、古びた建物の学生寮に住んだことがある。

入学時は、私は新築の女子寮に住んでいたのだが、希望する寮に毎回入れるわけでもない。

 

その学生寮は、大学創立直後から存在する建物の一部だった。

建物自体は古いが、内装はきれいにリノベーション工事を施して使われていた。

 

昔の建物だからなのか、重厚な石造りの建物のてっぺんには、塔がいくつかそびえたっていた。

私の大学は古~いカトリック大学。

昔は、悪さをした学生を塔に閉じ込めていたのかもしれない。

なんて思えるほど、その石造りの建物は重々しい雰囲気が漂っていた。

 

建物の下層階は教室や大学の学務等で使用されていたのだが、上層階が学生寮となっていた。

新築の女子寮に入れなかった学期に、私はその古い石造りの男女混合寮に入ることになった。

 

すると、私と同様にその寮に入った日本人学生のAちゃんが、早速こんなことを言い始めた。

「昨日、金縛りにあったよ!」

 

Aの話によれば、昨夜、学生寮の部屋で寝ていたら金縛りにあった。

眼を開けたら、部屋の隅に花嫁衣裳を着た女性が悲しそうに立っていたという。

 

それを聞いた日本人学生たちは、大いに盛り上がった。

「えー、ホント?怖いね!」

聞いていた私は(そんなわけないだろう)と思いながら、みんなに合わせて適当に笑っていた。

 

Aちゃんは敏感過ぎるんだよ。

こわいこわいと思うから、変なものを見るんだよ。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というじゃないの。

だいたい、キリスト教アメリカに幽霊なんているわけがない。

そんな風に思っていた。

 

Aの体験談を親しいアメリカ人の学生たちに話したら、彼らも興味津々に聞いていた。

(金縛り、という状況を英語で説明するのに手間取ったが、彼らは幽霊話は普通に受け入れていた)

どうやら、アメリカ人たちもその学生寮を何となく不気味に感じているらしかった。

 

空がどんより曇り、強い風が吹いた日には、塔の方からびゅおおおお~と恐ろしい音が聞こえてくる。

石造りの暗い建物の中で、こんな音を夜に聞いたら、そりゃあ怖くなりますよ。

しかし、冷静に考えてみてくれ。

お化け屋敷に入ったらお化けが出ると期待していれば、何でもお化けらしく見えるんだよ。

 

その学期は、私はルームメイトが欲しくなかった。

一人部屋でゆっくり生活したいと思ったのだが、大学側がアメリカ人ルームメイトをあてがってきた。

私のルームメイトになったスカーレットは、背の高いイケメンの彼氏がいた。

 

スカーレットは昼間は学生寮で過ごし、夜は彼氏の家に泊まることが多かった。

私はもともと一人部屋になりたかったので、彼女の不在はある意味ありがたかった。

 

しかし、ある日、部屋に帰ってきたスカーレットが私にこう尋ねた。

「一人で大丈夫?この部屋、私はこわいんだよね。」

 

へっ?何が?

すると、スカーレットは天井を指さした。

「たとえばさ。ほら、あの板。勝手に外れてるでしょ。」

 

見ると、天井の板が一枚はずれていて、そこからびゅうおおお~とかすかに風の巻きあがる音がした。

「あの板、先週は外れてなかったんだよ。」

そうなのか。全然気づかなかった。(←鈍感すぎ)

 

私はふーんと思っただけだったが、スカーレットは恐怖の目つきで天井を見上げた。

「何かいるんだよ、何か…」

(いるわけないじゃん)と私は思ったが、黙っていた。

 

私が動じないので、スカーレットはまじまじと私を見た。

「こわくないの?」

そんなことを言われてもねえ。

私は肩をすくめた。

スカーレットは笑った。

「あなた、夜は本当にぐっすり寝てるもんねえ!」

 

なるほど。

隣でぐうぐう寝る私をしり目に、スカーレットは毎晩恐怖におびえていたらしい。

そういうこともあって、どうやら彼氏の家に泊まる方が安眠できるようになったようだ。

 

ルームメイトがこわがるところを見ると、やはりお化けがいるんだろうか?

私に言わせれば、風で天井板がずれたとしか思えない。

外れた天井板の向こうに真っ暗な空間が見えるが、それに気づくと確かに気になる。

お化けよりもネズミが入ってくる方が嫌だなあ。

こんなことがあったと、この件を別のアメリカ人の友人たちに話してみた。

 

すると翌日、彼らは私の学生寮の部屋にやってきた。

先週までは何ともなかった天井板の説明もしておく。

友人の一人が机の上にのぼり、天井板を元に戻してくれた。

 

机から降りて何をするのかと見ていたら、みんなで手をつなぎ、輪になって祈り始めた。

よく分からないが、私もアメリカ人たちと手をつなぐ。

助けてくれるなら何でもやりまっせ。

 

「…アーメン」

と言うので、イエス・キリストに祈っていたとしか思えないのだが、私も唱和しておく。

「お化けが出ないよう、神様にお祈りしておいたよ。」

と彼らは真面目な顔で言う。

 

てことは、やっぱりいるんですかね?

その、例の…ネズミじゃない方が?

 

部屋に来てくれたアメリカ人の友人たちは、誰一人として「お化けなんていないよ」とか、「んなことあるわけない」と笑い飛ばさなかった。

アメリカにお化けなんているわけない」と思ってるのは私だけなのか。

 

友人たちが天井板をしっかり閉め、そこを釘で止めておいてくれたので、それ以来天井板は勝手に外れなくなった。

お化けが出なくなったなら、それでいい。

しかし、何も見ていないし何も感じなかった自分…。

 

自分の周りのアメリカ人たちが勝手に騒ぎ、勝手に問題解決した感じだ。

自分だけ取り残された気もする。

やはり日本人だからアメリカのお化けを見ることが出来ないんだろうか?(ホントかよ)

Aちゃんはどうして見ることが出来たんだろう?

 

何か見てしまったらあの部屋に住んでいられなくなると思うので、やはり何も見ないでよかったのかも。

しかし惜しかったな。

海外でお化けを見た人の話を聞いてみたい気もする。