先日の続き。
数人だが、フランス人の友人たちがいる。
フランスという国はあまり好きではないが、彼らは良い友人だ。
で、フランスという国。
社会的に寛容な国だと思っていたのだが、そうでもない部分もあるようだ。
以前、フランス人の友人の一人、マリオンからメールがあった。
メールの出だしに、妙なことが書いてあった。
「あなたに伝えたいことがあるの。
それをあなたに伝えたとしても、私たち、友達だよね?
変わらずにこれからも、ずっと私の友達でいてくれるよね?」
何を言っとるんだ?
変わるわけがない。
ずっと友達でいるに決まってる。
変なことを言うなあ…。
私は不審に思いながら、彼女からのメールを読み始めた。
結婚でもするのかな?
結婚したくらいで、私たちの友情が終わるわけないんだが。
と思いながら読んでいくと、結婚する予定だ、という報告だった。
やっぱりねえ。
と思っていたら、マリオンのお相手は女性だった。
私は長年気づかなかったのだが、彼女はそのお相手と知り合ってから、レズビアンになったようだった。
そういうことになっていたとは知らなかったので、私はびっくり。
なんでそういう選択をしたんだろう?とか、ご両親は承認してるのか?とか、一人でうろたえてしまった。
でも、色々考えて思った。
それはマリオンの選んだ人生だ。
誰かが彼女に指図するものではない。
私に出来ることは、「変わらず友達でいること」しかない。
彼女が思い切って私に打ち明けてくれた理由は、私が彼女の友人であり続けてくれるだろう、と期待しているからですよね。
じゃあ、その期待に応えよう。
私は祝福のメッセージをマリオンに送った。
電話もした。
彼女は大変喜んでくれた。
そして、今までに自分たち2人が受けた差別について語ってくれた。
マリオンたち2人がレズビアンカップルと分かると、道で石を投げる人もいた。
借りている家から追い出されたこともあった。
何度も転居を余儀なくされた。
「今の家は、近所の人たちも私たちに理解があって優しいの。
ここでずっと暮らそうと思っている。やっと幸せになれそうなの。」
とマリオンは嬉しそうに私に言った。
そっか。
LGBTQの人たちに寛容なイメージのフランスでさえ、そういう差別があるわけだ…。
マリオンが今までに直面してきた差別のあれこれを聞き、私は心が痛んだ。
(注:LGBTIとかLGBTXか様々な表現がありますが、とりあえずLGBTQとしておきます)
と、ここで話が終わればいいのだが、そうではなかった。
マリオンたちは結婚して幸せな生活が始まった、と私は思っていた。
ある日。
知らない差出人から私宛にメールが来た。
メールの件名は『マリオンのことについて』とか、そんな感じだった。
不穏な件名だ。
『マリオンに何か起きたんだろうか?』と私は動揺し、うっかりその不審なメールを読んでしまった。
内容は、事故が発生し、不幸にもマリオンが亡くなったという内容だった。
マジか?
私は大きなショックを受けた。
しかしよく考えてみると、この差出人、誰だよ?
マリオンの家族なのか同僚なのか友人なのか、誰なんだ?
差出人とマリオンとの人間関係が、明確に書かれていない。
メールはフランス語で書かれていた。
しかもちょっと難しいフランス語で、私が知らない言い回しとかがあった。
つまり、フランス語ネイティブからのメールだったのだ。
なんか嫌な予感…。
マリオンに電話してみると、当たり前だが元気だった。
やっぱりねえ…。
ウソのメールだったわけだ。
心配させないよう、変なフランス語メールをもらったことは彼女に黙っておいた。
何となくマリオンの置かれた状況が理解できたのだが、一応、日本人の友人Mさんに相談してみた。
Mさんは私よりはるかに年上。
長年海外で働いてきた、百戦錬磨の?姐御だ。
話を聞いたMさんは、不快そうに顔をしかめて言った。
「そりゃ、嫌がらせのメールでしょうねえ。
フランスにもLGBTQの人が嫌いな人がいるんでしょう。」
なるほど…。
メールの内容や、マリオンとの関係が不明な怪しい差出人、フランス語で書かれた文章から推察する限りだが。
レズビアンが嫌いなフランス人が、その友人である私にまで嫌がらせをするために、彼女が亡くなったというメールを寄越したんじゃないか、というのがMさんの推理。
メールの不自然さから推測して、嫌がらせかなとは思っていたが、やはりそうなのかもしれない。
あーあ、フランスに幻滅したなあ…。
こんな嫌がらせをするヤツがいる限り、マリオンが普通に幸せになるのは本当に大変なんだろうなあ。
私の勝手なイメージだが、フランスは自由恋愛の国と思っていた。
自由恋愛であれば、当然、LGBTQの人にも寛容なんだとずっと信じ込んでいた。
まあ、差別のない国はないので、フランスだけを責めるわけではないんだが。
余談だが、南アフリカはアパルトヘイト終了後、様々な法律が変わった。
アパルトヘイト時代には認められなかったLGBTQに対しても、新憲法のもとでは同性同士の婚姻は合法である、という人権重視の法律へ変更された。
まるで南アのLGBTQの人たちの人権が守られているかのように見える。
国際的にも南アフリカは、『人権を尊重してまっせ』とアピールできるようになった。
しかし、それをうのみにしてはいけない。
私が南アに住んでいた時、ある町で若い黒人女性がコミュニティの人たちに惨殺された。
彼女がレズビアンと知った近所の人たちが、『町の恥』として殺害したのだ。
新聞でそれを知って、私は大きな衝撃を受けた。
憲法でLGBTQの人たちの権利が保障されているからと言って、実際の社会で彼らが保護されているとは限らないのだ。
フランスの話から脱線してしまった。
マリオンは家族に恵まれ、今も元気にフランスで生活している。
時折、仕事のことや子どもたちを育てる大変さを愚痴るメールが来る。
彼女がそういう普通の幸せな生活を送っていると知ることが、私にとっては一番うれしいし、安心できる瞬間だ。
フランスはいまだに好きになれないのだが、まあ、国は関係ないからいいや。
私はマリオンと親しいだけで、フランスと親しいわけではないからだ。(変な理屈だが…)