オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

養子

 

ちょっと真面目な話。(いつも真面目だが…)

アメリカ人は養子縁組をしている人が多い。

 

お金持ちが恵まれない子どもを養子として引き取るケースも多いが、お金持ちだけが養子を迎えているわけではない。

普通の人であっても、さほどお金持ちでなくても、養子を迎えている人が本当に多い。

ただ単に、「恵まれない子どもに家庭を与えたいから」という理由だけでだ。

 

日本だと、両親がそろっていて経済的にも盤石で、みたいな条件が養親に求められるらしい。

アメリカは(すみません、養親になれる条件の詳細は知らないのですが)独身者でも養子を迎えられるのだ。

 

これだけ多くの養子縁組がされているということは、アメリカ人が社会に高い関心を寄せている証拠なんだと思う。

あれだけ豊かなアメリカでも、家庭に恵まれない子どもがいるという事実の裏返しでもある。

国内だけでなく海外から養子を迎える人もいる。

 

大学生の頃。

同じ寮に住んでいた女子学生、ヘザーと仲良くなった。

彼女と色々話しているうちに、家族の話になった。

 

「子どもの頃、兄弟が多くて一人部屋を持ったことがなかったの。

学生寮に入って、ようやく一人部屋に住めるようになったんだよ!」

とヘザーは嬉しそうに言う。

 

私も、子どもの頃は姉と同じ部屋だった。

なので、一人部屋に憧れていた。

ヘザーの気持ちは分かる。

 

大学に入って、1年時はルームメイトと部屋をシェアしていた。

これは大学の配慮で、留学生は特に早くアメリカ生活に慣れるよう、アメリカ人のルームメイトをあてがわれるのだ。

そうして、2年時でようやく私は一人部屋をゲットできたのだ。

 

私はヘザーに言った。

「へえ、そうなんだ。子どもの頃、私も姉と部屋を共有してたんだよね。」

 

ヘザーはうんうんとうなずいた。

「私も兄弟が多かったから、同じ同じ!一人部屋、あこがれだよね!」

 

私はヘザーに尋ねた。

「何人兄弟だったの?」

ヘザーはにこやかに答えた。

「16人。」

 

私は聞き間違えたのかと思った。

「え?何人兄弟?」

ヘザーはもう一度、16人兄弟だと答えた。

 

Sixteen?マジかい?

(16も多いが、まさかSixty 60じゃないだろうしねえ)

 

私が目を白黒させたのを見て、ヘザーは笑った。

「びっくりするでしょ。でも、本当だよ。」

 

ヘザーのご両親は敬虔なカトリックだという。

カトリックは避妊や産児制限をしないのです)

そのため、ヘザーは兄弟が多かった。

その上、ご両親は何人かの養子を迎えたので子どもが16人になった、というわけ。

 

「16人兄弟って、どうやって生活するの?」

私もヘザーのご両親が養子を迎えたと聞いて、ようやく話が分かった。

しかし、16人の子どもを育てる2人の両親、という生活が、ちょっと想像がつかない。

 

ヘザーのご両親は頑張って働き、大きな家を建てた(アメリカでは、自分で木材を買ってきて、少しずつDIYで自宅を建てる人がいます)。

小さな部屋をたくさん作ったが、それでも子どもたちは16人もいる。

というわけで、2人~3人で1部屋を与えられ、生活してきたのだという。

 

「まるで学生寮みたいだったけどね。」

とヘザーは笑った。

部屋はともかく、食事代も半端ないだろう。

そこまでして、親のいない子どもを養子に迎えようというヘザーのご両親には、本当に頭が下がる。

 

後にも先にも、兄弟が16人という学生はヘザーだけだった。

いくら寛容でも、16人の子どもを育てるのは生半可な覚悟ではない。

 

ちょっと驚いたので、誰かにこの話をしたくなった。

仲が良かった別の友人ケイティに会った時、この話をした。

「ね、すごいでしょ、ヘザーのご両親。そんなにたくさん子どもを育てるなんてさ。」

 

私が話すのをじっと聞いていたケイティは、私が話し終わると私の顔を見た。

「うちも親が養子縁組したんだよ。」

 

えっ?そうなの?

知らなかった。

 

ケイティはいつもユーモアのセンスがあって面白く、女子だが空手の黒帯だった。

柔道や空手の発祥国、日本をリスペクトしている、と言って日本人留学生と親しかった。

そんなケイティにも、養子の兄弟がいるとは知らなかった。

 

私が何か言う前に、ケイティは話し始めた。

「確かにさ、うちの親は恵まれない子どもを引き取って、偉いと思うけど。

でも、私は個人的には養子縁組に反対なんだよね。」

 

私は内心、驚いた。

明るくて面白いケイティが、そんなことを言うとは思っていなかったのだ。

 

でも、何か理由があるに違いない。

「どうして養子縁組に反対なの?」

と聞いてみた。

 

ケイティは言葉を選びながら、静かに話し始めた。

彼女は4人兄弟で、兄、姉、ケイティの3人は両親の実子だ。

すぐ上の姉とケイティの間に、養子縁組で家族になった姉が1人いた。

ケイティが物心ついてから家族に迎えられた子どもで、韓国からの養子だった。

 

昔、韓国は貧しかったのだ。

アメリカ人の養子として海を渡る韓国人の子どもは少なくなかった。

 

ケイティの両親は韓国人の子どもをアメリカ生活になじませるため、自分たちの子どもと変わりなく、平等に扱った。

そんな両親に対し、ケイティは子どもながらに「両親は養子の姉を、自分の本当の子どもと同様に愛しているのだ」と感じていたという。

 

つまり、兄弟4人とも両親から平等に扱われ、育てられたのだ。

じゃあ、なぜケイティは養子縁組に反対なのか。

私が聞くと、ケイティは答えた。

 

「その韓国人のお姉さんは、両親の見ていないところで、妹である私をつねったり叩いたりするようになったの。」

 

ケイティの韓国人の姉は、成長するにつれて自分が家族と肌の色や髪の色が違うことに気づくようになった。

自分だけが、この家族の中で血がつながっていないことに不満や孤立を感じるようになったようだ。

 

それがストレスだったのかは分からない。

しかし、両親の目を盗んで、韓国人の姉はケイティだけをターゲットにいじめるようになったという。

もちろん、両親がいる前ではいい子にふるまっている。

そうすれば、アメリカ人の両親にかわいがってもらえると分かっているからだ。

 

私はため息をついた。

ケイティは続けた。

 

「もちろん、私には言えなかった。

もし、お姉さんが私に暴力をふるっていることを親に告げ口したら、お姉さんの居場所はなくなってしまう。

それだけじゃない。

もしかすると、『親に告げ口した』と言われ、またお姉さんから暴力をふるわれるかもしれない、と思ったの。

私はお姉さんのために、我慢するしかなかった。」

 

ケイティの兄や姉も、養子に来た韓国人の子どもがケイティに陰で暴力をふるっていることに気づかなかったのだ。

両親やほかの兄弟にバレないように、彼女は巧妙にケイティをいじめていたのだ。

ケイティは、お姉さんの立場を悪くしないよう、ずっと彼女の暴力を我慢していたのだという。

 

私は深いため息をついた。

そんなことがあったのか。

ケイティの顔からはいつものウキウキした明るい表情は消え、真剣な顔つきになっていた。

 

彼女は話を締めくくった。

「だから、養子縁組をする人は偉いとは思うけれど、養子縁組をされる子どもの方は、ねえ。

もちろん、うまく行っている家庭もあると思うよ。

でも、どの家庭も必ずうまく行くというわけでもない。

少なくても、私の子ども時代は最悪だった。」

 

養子に来た韓国人のお姉さんは成人し、実家を離れて働きながら一人暮らしをしている。

もう、彼女にいじめられることもない。

大人になったら、苦い子ども時代の思い出として思い出すだけだ。

と、ケイティは言った。

 

なるほど…。

そんなことがあったわけだね。

養子縁組の暗い部分もあるわけだ。

 

温かい家庭に恵まれない子どもを引き取りたい。

そう願う人の優しさは、人間の良さだと思う。

でも人間同士である以上、親も子どもも、難しい面もあるわけだ…。

 

大学内で会うと、ケイティはいつも日本人留学生に声をかけてくれる。

ジョークを飛ばしたり、空手の型を披露したりしてくれている。

ボーイッシュで武道好き女子と思っていたが、人に気遣う優しい子だったのだな、と気づいた。

もしかすると、優しい人ほど周囲の人に気を遣って、苦しい立場に立たされてしまうのかもしれない。