オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

知らないおばあさん

 

寒くなると思い出すことがあります。

 

アメリカでの、ある冬の週末。

友人から借りた本を返そうと思った。

ずっと学生寮にいるのもつまらないし、気分転換に外出するのもいいかも、と思ったのだ。

 

本を返して友人宅を出ると、雪が降り始めた。

 

歩き続けるうちに、雪が激しくなってきた。

あれよあれよという間に、あたりは猛吹雪のようになった。

服についていたフードをかぶって歩くが、前後上下左右がホワイトアウト(言い過ぎか)?

うわ~遭難しそうだ(←それは大げさ)。

 

強風にあおられた雪で、目の前がブリザードのようになった。

私の住んでいた州は、冬はマイナス40度くらいまで下がる。

その日はマイナス20度くらいだったらしいが、ここまで来ると20度も40度も変わりませんよ。

 

四苦八苦して吹雪の中を歩く私の隣に、巨大なキャデラックが止まった。

運転席の窓が開いて、しわがれた女性の声がした。

「何やってるの!早く乗りなさい!」

 

へ?誰?

すぐに警戒心が動いた。

『知らない人の車に乗ってはいけない』

と律儀に思い(こんな日本人を誘拐する人もいないだろうが…)、私は運転手が誰なのか見ようとした。

 

ドアがバタンと開いた。

「早く乗りなさい!」

乗らずにもたもたしていたので、再び叱られた。

見ると運転席にいるのは、まったく知らないおばあさん。

 

「早くしなさい!寒いんだから!」

状況が呑み込めないが、大声で怒られるので仕方なく乗る。

 

この女性は一体誰なんだ?

というか、誘拐されたらどうしよう。(←まだ言ってる)

どうして知らない人に怒られなきゃいかんのだ。

 

私が乗り込むと、運転席のおばあさんは車を出しながら怒ったように言った。

「こんな吹雪の夕暮れに、たった一人で歩くなんて!ダメよ!」

 

私の行く先が大学と分かると、そこへ着くまでの間、説教が始まった。

若い女の子が一人でねえ!何かあったらどうするの?」

「こんな寒い日に外を歩いたら凍え死んでしまうわよ!」

 

おばあさんの説教の間中、私は神妙になって「はい、すみませんでした」「わかりました」を繰り返した。

知らないおばあさんなのだが、しかもヒッチハイクしたわけではないんだが、学生寮まで乗せてくれるらしい。

 

説教をする彼女をよく観察してみた。

真っ赤な口紅を塗り、温かそうなセーターを着て、大粒のイヤリングをつけている。

若者ならピックアップとかトヨタの小型車なんだが、さすがおばあさん、昔流行ったような巨大な車を運転している。

 

温かい車内にしばらく揺られ、ようやく人間らしい心地を取り戻した頃。

学生寮に到着。

礼を言って車を降りようとすると、やっとおばあさんは笑顔になった。

 

立ち去る巨大なキャデラックを見送りながら、やっと私も分かった。

吹雪の中をフードをかぶって歩く若者(私だ)を見て、捨てておけないと思って止まってくれたのだ。

大声で怒られたが(たぶん耳が遠いから?)、親切なおばあさんだったのだ。

 

アメリカに住んだ数年間に、良いことも悪いこともあった。

でも、アメリカ人の親切心にはいつも気持ちが温かくなる。

自分が日本で車を運転中、吹雪の中を歩く人を見かけたら、同じことができるだろうか?と思う。

 

寒くなると、あの派手派手なキャデラックに乗った派手なおばあさんを思い出す。

冬は寒くて嫌だな~と思うけど、心温まる思い出も冬に多い気がする。