昨日の記事を書いて、コートジボアールについてこんなことを思い出した。
私がアビジャンにいたときのこと。
以前の記事にも少し書いたが、ツェツェバエに刺された疑いで、知り合いの日本人がフランスへ搬送されたことがあった。
ツェツェバエに刺される?
日本ではあまり聞かないハエの名前だが、実は怖いハエだ。
ツェツェバエに刺されると「眠り病」にかかる。
症状はというと、ものすごく眠くなって最後には死に至るのだ。
(私もたまに「ツェツェバエに刺されたか…」と思うが、ただの寝不足だったりする)
家畜(牛とか)しかかからない病気と思っていたので、私はとてもビックリした。
コートジボアールの医療事情は十分ではないので、先進国で検査を受けることになったのだ。
しかし、彼女はフランスの病院で「至って健康そのもの」と太鼓判を押されてコートジボアールに帰ってきた。
ついでに「便秘」もバレたと言っていた。
アフリカの病気で有名なのはマラリアだ。(アジアにもあるが…)
ハマダラ蚊が媒介する病気なので、蚊に刺されないよう注意するしかない。
夕方になったら蚊取り線香を炊き、虫よけスプレーを体に塗布して外出するとか、ね。
それ以外にも、アフリカには先進国に知られていない病気があるので、油断はできない。
でも、病気は原因さえわかれば、ある程度は自衛可能だ。
ところで、インドネシアにいたときに、セキュリティ会社の方と知り合ったことがある。
その方は、欧米、アジア、アフリカなど世界各国に展開する日本企業の駐在員に、安全セミナーを開講している人だった。
その方が、突然こんなことを言い始めた。
「世界各国を回って、どの国が一番びっくりしたか、というと、やはりコートジボアールですね!」
え?
私は内心ドキリとした。
自分がコートジボアールに在勤していたことは、まだ一言も言っていないのに、いきなりそこですかい。
自分の恥部、いやさ急所を押えられたような感じがして、私はドギマギした。
何食わぬ顔をして、私はその理由を聞いた。
下手に「私はコートジにいたんですよ!」なんて言おうものなら、『コイツ変人かも』とドン引きされかねない。
「初対面の日本人にはドン引きされないよう、相手の出方を見る」というのが私のモットーだ。
彼の話はこうだった。
世界各国の日本企業を回り、在留邦人へ最初に尋ねること。
それは、『あなたが在勤している国で、一番不安に思う安全関連のトピックは何ですか?』である。
「どの国の駐在員も口々に挙げるのが、治安の悪さ(強盗、泥棒、殺人等)、政情不安(クーデターとか)、感染症等の病気、なんですよ。」
そうですねえ、駐在員の安全上の懸念は、大体その3つに集約されるでしょうねえ。
インドネシアも泥棒は多いし、反政府デモも結構ある。
ビッグ3のうち2つはあるのだ。
(今やコロナも含め、3つともコンプリートだが)
その方はにこやかに続けた。
「ところがですよ、コートジボアール駐在日本人の関心は、それじゃないんですよ!
彼らが一番不安に思っているのは、毒蛇なんですよ!」
ヘビ?
なんじゃそりゃ?
私は拍子抜けした。
セキュリティ会社の方は笑顔を保ちつつも、『不思議ですよねえ』という口調で言った。
「寝ようとしたらベッドに大蛇がいた、とか、家の中でとぐろを巻いていたとか、日常茶飯事らしいですよ。
だから、コートジ在勤者はヘビの種類や、毒の種類にもやたらと詳しくて驚きましたよ~。」
驚くことか?
朝起きたら靴の中にサソリが入ってるとか、そういうのはよくあるでしょ…。
まあ、言われてみれば、ヘビは先ほど出てきた「駐在員の懸念事項ビッグ3」には含まれていないが。
私が考えていると、その方はなおも続けた。
「コートジではどの日本人も口をそろえて『蛇が怖い』って言うんですよ。
犯罪とかクーデターとか病気なら、ある程度は自分で身を守れるけど、野生動物が相手じゃねえ。」
そりゃそうですよね。
人間相手だったら行動の予測がつくから自衛策も打てるし、何とか出来るだろう。
ヘビや蚊、ハエが相手なら行動が読めないですよね。
おまけに毒を持っていたら、怖いですねえ。
まあ、そう考えるとコートジボアール在勤者の懸念事項が毒蛇、というのも理解できる気がする。
コートジはすでにクーデターを2回もやってるしね。
泥棒や強盗も怖いのだが、毒蛇はどうしようもない。
医療と話がずれてしまった。
海外在勤者の安全上の懸案事項とは、これほどまでに国によって変わるものなんだろうなあ。
クーデターは、西アフリカの年中行事みたいなものだ。
感染症だって、西アフリカにはコロナだけでなくエボラとかいろいろある。
西アフリカの名物に慣れてしまったら(慣れるのだろうか?)、後は怖いのは毒蛇だけだ、ってことになるのかも。