インドネシアのジャワ島に、おいしいサツマイモがある。
ジャガイモは「ジャカルタのイモ」がなまって日本へ伝わったとか聞く(真偽は定かではない)。
しかし、ジャガイモではない。
サツマイモだ。
(余談ですみません。
「ジャガイモ」がジャカルタのイモだとすると、さぞかしインドネシアはジャガイモがおいしいのでは?と思いがちだ。
しかし、インドネシアでは、ジャガイモはなぜか欧州からの輸入品が多かった。
ジャガイモは、意外にもそんなに一般的ではない。
どうしてだろう?)
ジャカルタ南部に山脈が2つほどある。
そのあたりに行くと取れるのが、そのおいしいサツマイモ。
さほど品種改良しているようにも見えないのに、これが美味なのだ。
名前はチレンブと呼ばれていて、外側の皮は薄い黄土色。
糖度が30度くらいなのだそう。
ジャカルタ近郊と書いてしまったが、実際は西ジャワ州バンドン市あたりが一大産地とか。
糖度30度ってどれくらいの甘さなのかと思い、調べてみた。
日本のサツマイモで「糖度30度」を持つイモは、「紅はるか」というサツマイモらしい。
「紅はるか」は改良されてそれくらいの糖度なのだが、チレンブは大した改良品でもない(失礼)のに、おいしい。
収穫の季節になると、道路わきにサツマイモを販売する店が立ち並ぶ。
生で販売しているのだが、日本のように焼き芋にして販売している店もある。
チレンブを真ん中で折ると、濃いめの黄色が現れる。
ねっとりしていて、甘くておいしい。
このままで食べてもおいしいし、スイートポテトにしてもおいしいのだ。
インドネシアに赴任した最初の年。
ジャカルタのような都会にいると気持ちが疲れてしまうので、山の方へ遊びに行こう!
とインドネシア人たちに誘われた。
たまたま、その季節はチレンブの収穫時期だった。
路肩に立ち並ぶサツマイモの店。
生のイモを買ったのだが、店の奥で焼き芋を作っているのを見た。
味見を兼ねて、焼き芋も購入した。
南アフリカのサツマイモは、甘みが全くなくて美味しくなかった。
大学イモにしても、蜜をたっぷりかけないと美味しくない。
海外のサツマイモにはがっかりさせられてきたので、チレンブも期待していなかった。
しかし、チレンブの焼き芋を口にしてビックリ。
美味いではないか!
キロで買ってジャカルタに持ち帰ったのだが、あまりにおいしくてあっという間になくなった。
このサツマイモの季節が再び巡ってきた。
ちょうど、出張でジャカルタ近郊の山道を差しかかることがあった。
日帰りでそちら方面に行ったのだが、私は前年の経験から、このあたりのサツマイモが美味なことを知っていた。
ジャカルタでなかなか入手できない美味なサツマイモ。
ここで買わずしてどうする。
しかも一年に一度のサツマイモの季節だ。
「帰りにイモを買うから、店に寄ってくれ」
と社用車の運転手に頼んでおいた。
しかし。
仕事が終わったら、急に日が暮れてきた。
早く帰らねば、ジャカルタ方面は鬼のように渋滞するのである。
早く早く。
帰路を急いだ。
「あ!サツマイモを買うのを忘れた!」
私は車の中で思い出した。
「サツマイモの店があったら寄ってくれ!」
悲鳴のように運ちゃんに頼んだが、時すでに遅し。
「この辺りはもうお店は無いよ…。どうしても買いたいなら、道を戻るしかない」
運転手が悲壮な顔で言う。
「でも、道を戻ったら時間がかかって、渋滞に巻き込まれるかもしれないじゃん!」
私がそう言うと運ちゃんは無言になり、ヤギのように悲しそうな眼をした。
つまり、『今から道を戻ってサツマイモを買いに行くことは不可能』という意味の悲しい顔らしい。
(あるいは、『早く帰りたいからイモはあきらめろ』という意味なんだろう)。
くっそ~!!
サツマイモのことを完全に失念していた。
というわけで、この年はこのチレンブを食するチャンスは失われた。
本当に悔しい。
3年目に、確かまたどこかへ出張へ行ったか何かで、一本ほど食べた記憶がある。
しかし、それっきりだ。
悔しいことこの上ない。
先日、ネットニュースを読んでいたら、こんな記事があった。
コロナで海外旅行へ行けないため、タイでは日本の焼き芋が販売され、人気を博しているとかいう。
いやいや。
ぜひインドネシアの焼き芋も食べてみてくれ!
おいしいものは日本にだけあるのではない。
チレンブの焼き芋はおススメですよ!
サツマイモの季節になると、「あ~インドネシアの焼き芋が食べたい」と思う。
暑い国で焼き芋なんて食べたくないよ…と皆さん思うでしょうか?
いえいえ、暑い国だろうが、焼き芋はいつ食べてもおいしいのです。
チレンブの焼き芋は、バニラアイスクリームを添えてもまた格別です!