オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

イエメン

 

南アフリカで働いていた時、友人の友人が来訪したことがあった。

以前の記事にも登場したサウジアラビア人のサイード君。

彼から連絡があり、友人が南アフリカへ行くので会ってやってくれ、ということだった。

 

イード君のお友達はイエメン人だった。

 

イエメンは内戦とかいろいろお騒がせの国だ。

イード君の友人、カリム君はイエメンから逃れてサウジアラビアへ移住したらしかった。

まあ、文化的にも地理的にも近いから、当然なんだろう。

 

私はイエメンも中東も旅行したことはないが、写真を見てひそかに憧れている。

アラブ人に対する私のイメージは、「急がない」「相手をゆっくり品定めする」「一度仲良くなるととっても親切」という感じだ。

なので、イエメン人もそんな感じなのかな、と思っていた。

つまり、仲良くなるまでは時間がかかるが、そのあとは親しくなれる、とかね。

 

で、そのカリム君がヨハネスブルグへやってきた。

唐突に私の携帯電話が鳴る。

「もしもし?君がサイードの友達?僕は彼の友人のカリムだけど」

 

むむ?

彼からの電話が来るだろうと思っていたので驚かないが、声の低さに驚いた。

電話の声だけ聞くと、50代か60代のおじさん(おじいさん?)のようだ。

30代とか聞いていたが…こんな老けた若者なのか?

 

彼が投宿しているヨハネスブルグのホテルを聞いて、早速向かった。

調べると高級なホテルだった。

若造のくせに(←偏見)、私が泊れないようなホテルに泊まっているのか。

 

部屋を探し当てて尋ねると、彼はニコニコしながら私を出迎えてくれた。

「おお~!待ってたよ!僕がカリムだよ。」

 

見ると、電話の印象とは正反対の、普通の若者だった。

アラブの民族衣装を着ているわけでもなく、シャツにジーンズの格好だ。

「まあ座って座って。夕食、食べた?」

彼はニコニコしながら椅子を勧める。

 

私はと言えば、ヤツに対する警戒心を緩めてはいない。

いくら友人の友人とはいえ、相手は見知らぬ男性だ。

しかもホテルの密室だ。

(私は彼の好みの女性ではないとは思うが、そういう危機感は一応持っていなければね)

 

彼と距離を置いて座る。

部屋をチラ見して、(襲われたときに備え?)逃げるルートも確認する。

部屋の調度はゴージャス。

なんだ、結構いい部屋じゃん。

こんな若造(←あくまでも偏見)が宿泊できるような部屋なのか?

この人、何の仕事をしているんだろう…。

 

カリム君は、「そうそう、忘れないうちにサイードからのお土産を渡さなくちゃ!」と言って、何やらプレゼントの包みを出してきた。

「サイードが君によろしくね、って言ってたよ」

受け取って中身を見ると、ブランド物の香水だった。

こういうところ、アラブを感じるなあ。

 

カリム君はルームサービスのメニューを開いて、注文したい料理を吟味している。

夕食には遅くないか?

って、アラブ時間?

私は仕事を終えた後で、このホテルに来てるというのに。

 

注文した料理が部屋に届けられた。

彼は私に料理を勧め、飲み物を勧め、なかなかのホストぶりだ。

おしゃべりをしているうちに、カリム君が色々な国でビジネスをやっていることが分かった。

これからブルキナファソに行くのだという。

 

「ねえ、ブルキナファソっていう国、知ってる?僕は行ったことないんだよねえ」

まあ、普通の人は行かないよね。

私は一度だけ行ったことがある、というと、「どんな国?どんな国?」と目を輝かせて聞いてきた。

 

さっきから、私は彼のフレンドリーっぷり(よく言えば、だが)にちょっと圧倒され気味だった。

なんか、前から友達だったみたいな感じに接してくるんだよね。(まあいいけど)

 

もしかして、アラブ人って「友達の友達は友達だ」って感じなんだろうか?

「人見知り」って言葉を知らないんだろうか?

それとも私が警戒心強すぎなんだろうか?

まあ、ヤツから見たら私は警戒するほどの人間でもない(ヤク中でもなさそうだし、目つきも悪くないし)ってことなんだろう。

 

「いい国だよ。」

と私が言うと、彼は「ホント?ホント?うわあ~楽しみだなあ!」とうれしそうだった。

 

いや、「いい国」って、コートジボアール在住経験者から見るとね。

だって、コートジに出稼ぎに来ているブルキナファソ人たちは、「まじめ、働き者、おとなしい」で有名なんだよ。

それに、誰だって貧しい国には肩入れしたいものでしょ?

 

という細かい背景が、「いい国」の意味に含まれているんだよ、と説明しようとした。

しかし、カリム君は本当におしゃべりで、どんどん話題が変わって行ってしまった。

 

そして1時間くらい経った頃。

私は「もう十分サイード君への義理を果たしたかな」と勝手に判断し、家に帰ることにした。

「まだ早いじゃん」とカリム君に引き留められたが、私は明日も会社なんだよ。

 

彼は名残惜しかったらしい。

「もう一度南アフリカへ出張に来るから、僕とまた一緒にご飯食べてよ!一人じゃ寂しいんだよ!」

と言っていた。

そっか、誰でもいいから誰かと食事をしたいのか。寂しがり屋?

 

その後、彼はもう一度南アフリカへ来た。

また、例のゴージャスホテルだ。

前回は、彼のとめどないおしゃべりに疲れた(すみません)ので、同僚の久保さん(女性)を連れて行った。

 

「おお!今日はもう一人新しい人が来た!」

久保さんを連れて行ったので、カリム君は大喜びだった。

友達の友達の友達は、もう友達なのかな。

微笑ましい性格だ。

 

「どこかへ食べに行こうよ」

と提案したが、ホテルの部屋でくつろぐのが好きだ、とヤツに押し切られて、またルームサービス。

言いたいことは分かる。

あんなゴージャスなフカフカのソファーが部屋にあったら、あそこから立ち上がれないよね。

 

また、じゃんじゃんルームサービスを取り、飲み食いおしゃべりをして1時間過ぎた。

まあ、よくしゃべる男だよ。

私のアラブ人のイメージがもう一つ追加された。

 

「じゃあ、そろそろ帰るね。」

と我々が帰り支度を始めると、またもやカリム君は悲しそうな顔になる。

ごめんね、明日も会社なのよ。

 

彼に別れを告げ、車に乗り込んだ我々。

帰宅途中、久保さんはしきりに言っていた。

「あの人、あなたの友達?とっても良い人だけど、相当変わった人だねえ。」

 

いや、「あなたの友達」って言われてもねえ。

私もどうやって彼の対応をしたらいいのか分からないので、久保さんを連れていったんだけどね…。

どうも、今ひとつアラブ人の扱い方が分からん。

 

翌日、職場で久保さんはカリム君と会ったことを、他の同僚に話していた。

「すごい高級ホテルに泊まっててねえ!めっちゃおしゃべりなの!イエメン人なんだって!」

聞いている同僚は、感心した様子。

「そんなに変わった人なら、私も会ってみたかったな!」

「イエメン人と知り合いなんだ、すごいね!」

 

いや、こっちは戸惑うばかりなんだってば。

そんなに親しくないのに、どうしてあんなにフレンドリーなんだか理解できん。

もしかして、アラブ人って顔が濃いだけで、本当はいい人なのかも?(アラブ好きの人がいたら教えてほしい)

いや、「〇〇人」と国籍でカテゴライズしてはいかん。

単に彼がオープンな性格に違いない。

 

結局、会社の人たちからは「妙なイエメン人の友人がいる」というレッテルを貼られたらしい私。

その後しばらく、「ほら、変なアラブ人の友達がいたよね」と周囲から言われ続けた。

 

そう言えば、インドネシアにいたときにケニア人の知り合いがいた。

インドネシアでアフリカの人を見かけることは非常に稀だ。

だからなのか、インドネシアでも日本人同僚たちに「どうしてケニア人と友達なんだ」と根掘り葉掘り聞かれた。

そんなもん?

 

そう考えると、カリム君の懐の深さはすごい。

「どうしてサウジアラビア人と友達なんだ」「どうして南アフリカに日本人がいるんだ」というところはすっ飛ばして、「ご飯食べる?」ときたもんだ。

もちろん、私がサイード君の友人だから信頼しているのだとは思うけど。

やっぱ、カリム君はいいヤツなんだろうか?

 

その後、ブルキナファソへ行ったカリム君から連絡があった。

ブルキナファソへ行ったけど、全然いい国じゃない!」

 

「いい国じゃない」ってどういうこと?

すると「高級ホテルが無い、ゴージャスな料理が無い、貧しい国だ、うんたらかんたら」と泣き言を言ってきた。

 

だからさ。言ったじゃない。

あ、言ってなかったね。

私の思う「いい国」とは、貧しくても人がいい国のことなんだよ。

だまされた?