オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

南洋真珠

 

南洋真珠をご存じだろうか。

日本の真珠はうっすらピンクがかった白色で丸く、粒がそろっている。

しかし、(私も知らなかったのだが)日本産真珠と異なり、南の海で取れる「南洋真珠」というものがあるのだ。

 

それを知ったきっかけは、ある日のこと。

日本からジャカルタへお客様が来ることになり、会食をすることになった。

 

会食が始まり、日本から来たお客様(年配のご婦人だった)が、ある同僚Aさんの胸元を見て言った。

「あら?それは南洋真珠かしら?」

 

彼女の襟元を見る我々。

Aさんの胸元には、黄味がかった大粒の真珠が一粒、燦然と輝いていた。

少しバロック気味なのが、良い味わいを出している。

 

「そうなんですよ!東京で買いました!」

Aさんは真珠に負けないような笑顔を見せた。

再び二度見する我々。

 

日本から来たお客様は続けた。

「まあ!東京で買ったら相当お高いでしょ?」

Aさんは笑顔を緩めた。

「そうですね。でも、まあ、それなりのお値段ですよね。」

 

一連のやり取りを聞いて、私は初めて「南洋真珠」というものを知った。

日本から来たご婦人は、南洋真珠がタヒチなどの海域だけでなく、インドネシアのあたりでも取れるらしい、なんてことを話している。

 

そもそも「南洋真珠」なるものを知らなかった私。

へえ、そうなんだ…。

あの、大粒の黄色いバロックパールが南洋真珠なのか。

Aさんは、これはオーストラリアだかどこかの産物だ、と話している。

 

そんな高額なものを東京で購入し、しかもジャカルタ赴任へ持参するとは。

Aさん、おしゃれだなあ…。

私なんて、まず高額なアクセサリー自体、持っていない。

 

そんな感じで会食は終わった。

南洋真珠のことを学んだ私は、その後はそのことをすっかり忘れていた。(←だから買うこともないわけだ)

 

それからかなり時間が経ったある日。

出張から帰った同僚Bさんが出勤してきた。

 

この彼女もおしゃれで、出張のたびに現地で何かを購入してくる。

手織りの美しいスカートとか、ジョグジャカルタのバティックで出来たワンピースとか。

出張から戻ると、それらを着用して出勤してくる。

安く民族衣装?が買えるのは、インドネシア在勤女性の楽しみの一つだ。

 

この日は、彼女の胸元に燦然と輝く、小粒の黄色いパールネックレスがあった。

おや?もしや?

これって例の、「高価な」南洋真珠じゃないだろうか?

 

私は忘却の彼方に押しやられていた「南洋真珠」のことを再び思い出した。

Bさんは、最近ジャカルタに着任したので、あの日本から来たご婦人との会食には出席していない。

 

私は彼女に尋ねた。

「それってもしかして南洋真珠ですか?」

Bさんは不思議そうに自分の胸元を見た。

「これですか?そういう名前なんですか?」

 

ん?

違うの?

 

Bさんは顔をあげた。

「ロンボクへ出張に行くと、こういうネックレスを観光客相手に売りつけにくるんですよ。

ロンボクで真珠が取れるらしいですよ」

ロンボク?

ああ、Bさんはそういえばロンボク島での業務が多く、たびたびロンボク州へ出張してるよね。

 

「店で買うんじゃないんですか?」

私が重ねて尋ねると、Bさんは首を振った。

 

「私が出張で行くようなところは一般的なリゾート地じゃないし、観光客も来ないからでしょうけど。

ホテルの下までこんなネックレスをじゃらじゃら持って、現地人が来るんですよ。」

 

Bさんは出張先で業務が早く終わった夜に、ホテルの下にいたネックレス売りのおじさんに出くわしたこと、ネックレスを冷やかし気味に吟味して購入したことを話した。

 

へえ、そんな感じで売ってるんだ…。

私はBさんの付けているバロックパールをしげしげ見た。

小粒ではあるが、日本で販売したら結構なお値段になりそうだ。(あくまでも想像)

 

「いくらくらいなんですか?」

ついに気になっていることを私は聞いた。

Bさんは首を振った。

 

「こんなの。安ものですよ!いくらだって売ってるんだから!」

へえ。

安物というからには、ジャカルタや銀座で売っているような価格ではないんだろうな。

 

そのあと、Bさんはロンボク州がいかに貧しいかみたいな話を始めた。

私も何度かロンボクへは出張に行ったことがあるので、なんとなくは分かる。

 

ロンボク島で観光客が来るのは、サーフィンが出来る一部のビーチだけ。

そういうところは観光ホテルが立ち並び、経済が潤っている。

しかし、我々が行くような出張地はそんなリゾートエリアではない。

 

グーグルマップで「レストラン」を探し、ホテルの周りをうろうろする。

場末の雰囲気が漂う、さびれたショッピングモールの片隅にピザ店を見つける。

電灯の切れかかった店内で、わびしく冷たいピザを食べる。

そんな感じの出張を、私も何度か重ねてきた。

なので、ロンボク=華やかな夢の島、ではないことも十分理解できる。

 

そっか、ロンボクでも南洋真珠が取れるわけだね。

私の脳裏には、ぼんやりとした薄暗いレストランの店内や、壊れかけたマネキンに流行おくれの服を飾った衣料品店が蘇ってきた。

 

ロンボクには、おみやげらしいおみやげが本当に少ない。

もちろん、伝統的な美しい手織りの布や、貝殻細工など伝統的工芸品はある。

文化的には豊かだし、何もない島、ではないのだ。

ただ単に市場で販売する戦略を持っていないのだ。

ロンボクイチオシのピーナツですら、パッケージデザインや味付けがイマイチだ。

 

私は再びBさんの南洋真珠に目を向けた。

Bさんは、もともと安いがさらに値切った、と話している。

日本で売れば高価なはずの真珠を、場末のホテルで値切り倒すわけか(笑)。

でも、Bさんが買ったので少しはロンボク経済が潤ったと思うよ。

 

残念ながら、その後、私がロンボクへ出張する機会は全くなかった。

出張計画を立てていたが、コロナで出張が次々につぶれ、そのまま日本へ帰国することになったのだ。

日本でロンボクパールを買おうとしたら、1,000円では買えないんだろうな。

 

そう考えると、ロンボクで南洋真珠を買っておけばよかった、という一抹の後悔に襲われる。

おみやげと言えばピーナツだよ、と毎度ロンボク人に言われるので、ピーナツばかり会社へ買って帰っていたよ。

やられた…。