我が家の近くにあった家が売れた。
結構なボロ家だった。
どうせ売れるわけがない…と思っていたら、最近ようやく売れたらしい。
売りに出てから買い手がつくまで、相当な時間がかかった。
その家は小さいが庭もついていて、車庫スペースも確保できる(軽限定だが…)。
かなり長い間、空き家だった。
家というものは、誰も住まないと荒れる。
主を失ったその家もどんどんさびれていき、何だかみすぼらしい感じになっていった。
これじゃあ売れないだろうなあ~とずっと思っていた。
その家は長い間売りに出ていたので、いろいろな人が見に来た。
土日になるとその家の前にたたずむ家族がいたり、若いカップルを見かけたりした。
しかし、家は買い手がつかないままどんどん老朽化していった。
これだけボロボロになってしまったら、買ったとしても相当リノベーションをしなければならない。
そこまでして買わないよね。
そんな感じの家だった。
つまり、リノベーションをしてまで購入したいほど、魅力的な家ではなかったのだ。
庭はあるがそんなに広くないし、買い物に便利な立地というわけでもない。
家自体もさほど大きいわけでもない。
駅至近に新築物件が次々に建築されているが、それらさえ買い手がついていないのだ。
駅から少し離れたこんな中古、買うわけがない。
隣家の猫が行方不明になり、探すとその空き家でまったりしていることがよくあった。
なかなか買い手がつかないので、その家はすっかり猫のオアシスになってしまっていた。
そんな感じで何年かが過ぎた。
いくら都会を離れて地方に住む人が増えたとはいえ、この家余りの時代。
新築でもない家に、しかも東京23区じゃないのに、住む人がいるんだろうか?
近所の方々は「会社の独身寮になるといいのに」とか勝手なことを言っていた。(←若い住民を増やしたいだけ)
会社の独身寮…って、その会社、どこにあるんじゃい。
ところが。
価格を半額以下にしたら、買い手がついたのである。
さすが半額以下、だ。
半額ではない。
半額以下、だ。
長期間売れなかったので、価格をどんどん下げざるを得なかったんだろう。
金額を聞いて驚いた。
超激安価格だ。
土地代金にすらなっているのかも怪しい、バナナのたたき売り並みの破壊価格だ。
長い間その家の前にかかっていた「売り物件」の看板がようやく取り下げられた。
近所の方、特にその空き家のお向かいさんは喜んだ。
だって、長い間空き家だと、ちょっと不用心じゃないですか。
ようやく、誰か新しい住民が来てくれる。
若い家族(勝手な理想)ならなおさら良い。
しかし、その家を買ったのは、一軒家を探している若い家族ではなかった。
どこぞの投資家が、投資目的で購入したのだ。
その話を聞いて、ああ、やっぱりね…と私も半分納得した。
何度も言うが、この家余りの時代。
わざわざこんな田舎のあばら家を買いますかね?
賃貸目的でなければ買いませんよね。
で、家を購入した方がやってきた。
もちろんご本人は家主というだけだ。
実際に家のリノベやテナント探しは不動産会社を通すわけなんだが。
色々やることがあるので、購入した家を再度見に来たらしい。
この人がすごかった。
空き家の購入者が乗り込んできた?と聞いて、その空き家のお向かいさん(老夫婦)はご挨拶がてら、いそいそと家から出てきた。
(年寄はヒマなんですよ…笑って許してやってください)
「もしかして、若いご家族が引っ越してくるんですかね?」
この辺りは年寄りが多いエリアなので、老夫婦は期待に胸をふくらませながら購入者に尋ねた。
それを責めることはできないだろう。
だって「この家の購入者」と聞いたら、ご家族でここに転居されるのかな?と普通なら思うはずだし。
その方はどうやら都内のどこぞにお住いで、もちろんこんな田舎に移住してくる気なんてさらさらない。
「いえ、リノベーションをして賃貸に出すつもりなんですよ。」
それを聞いて、お向かいさんは少々がっかりした。
でも、まあ、空き家に買い手がついたから良いか…と思っていたら、その投資家はこんなことを言い始めた。
「賃貸に出すんですよ。
不動産会社を通すから、良いテナントを見つけてもらわないと困りますよ。」
そりゃそうだよね。
良い借り手が見つからず、ずっと空き家のままだったら、ただの不良債権になっちゃいますもんね。
その人はなぜか分からないが、言葉も荒く続けた。
「妙なテナントを入れたら、承知しないですよ!!こっちだってねえ!ったく!×〇△☆※…」
(そのあとは何やら不穏な言葉が)
聞いていたお年寄りたちは度肝を抜かれた。
結構激しい言葉が、その投資家の口から出てきたからだ。
不動産会社に不満を持っているのか、何が理由か分からんがイラチな方だったようで。
(半額以下で買ったのに、何が不満なんだろうか)
しばらくそこに滞在した後、その投資家は年寄り夫婦を蹴散らすように東京へ帰って行った。
すごすぎる…。
ボロの空き家に投資するわけだから中途半端なことはできない、という意気込みは分かるんだが。
何をそんなに怒っているんだ?
と思うくらい、初対面のお年寄りたちに威圧的な態度だったらしい。
まあ、勝手に自分を歓待?するために自宅から出てきた見知らぬ年寄り夫婦が面倒くさかったのだろう、というのは推察できる。
都会に住んでいると、こういうおせっかいな年寄りが煩わしく感じますよね。
俺はヒマじゃない!
こんな田舎でふわふわ年金暮らしをしている高齢者とは、自分は違うんだよ!
バリバリ仕事やってるのさ!
というのは分かる。
しかし、わざわざ近所の人との関係を悪くしなくてもねえ。
(あ、自分が住まないからどうでもいいのか)
その高飛車な投資家の方が帰った後、衝撃を受けた年寄り連中が近所にぼろくそにふれまわったことは言うまでもない。
(だから私も、数日後だがその話をまた聞きのまた聞きで聞かされるはめになったのだ)
まったく、色々な人がいるものだ。
でも、よく考えれば、その高圧的な投資家自身がそこに住むわけじゃないから、いいのかもしれない。
初対面の他人と当たりさわりなく話が出来ないような人は、いくら金持ちでも仲良くなれないだろうし。
今考えれば、あの家が半額以下になっていたんだったら、私が買ってもよかったのかな~なんて思う。
いや、しかし。
その投資家が言うように、良い借り手が見つからないと大変だ。
そう考えると、ギスギスしていた彼の気持ちも、分からんではないという気持ちになるのである。
お金をもうけるのは簡単ではない。
他人に八つ当たりしてまで、トゲトゲした雰囲気をふりまく人もいるわけである。
投資家の心の平安のためにも、我々近隣住民のためにも、良い借り手が見つかることを切に祈る。