オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

間違い

 

近所の方が昨年末に入院予定だった、と以前の記事に書いた。

 

ところが入院予定日を過ぎても、その方と道で出会う。

「こんにちは~」

と笑顔で言われて、こちらも「こんにちは~」と返す。

 

しかし、すれ違った後でよく考えると、なんか引っかかる。

あの方の入院日っていつだったっけ?

確か、がんと診断されて入院予定で、開腹手術をするのだとご本人から伺ったのだが。

 

入院が延期になったのかしら?

もしやコロナで空いている病床が無い、とか?

手術が必要なくらい体調が悪いはずなのに、手術を延期して大丈夫なんだろうか?(←延期と勝手に決めつける)

 

たまたま、その方の息子さんと会う機会があったので聞いてみた。

すると、お母さんは入院する必要がなくなったのだという。

 

「そんなことがあるんですね!」

聞いて私もびっくりした。

 

具合が悪いから入院するんじゃないの?

具合が悪いから手術することになっていたんじゃないの?

もしや奇跡が起きて突然治ったとか?(そんなこともたまにある)

 

息子さんは笑いながら言った。

 

「誤診だってことになって、急遽病院から連絡があったんですよ。

それで、入院も手術も取りやめになって。」

 

へっ?

私はさらに驚いた。

入院直前に、「入院しなくていい、誤診だから」って病院から連絡があるって、なんじゃいそれ?

そんなこともあるのか…。

 

しかしねえ。

個人病院で医者が一人しかおらず、その医者が誤診したならともかく。

彼女は大病院で受診している。

そこなら数人の医者とかスタッフが確認しているだろうに。

CTを取った人、病理医、臨床医、該当する部の部長などなど…。

 

決して一人の医者が個人的に判断をしていないはずだ。

病名や進行具合、手術の是非等、何人かで話し合って決めていると思うのだが。

 

何人で確認したのか分からないが、それでも「誤診」が出るわけか…。

私は複雑な気持ちで、息子さんの顔を眺めた。

息子さんはお母さんが手術をしなくて良かったことに安心しているようだった。

 

しかし、病院もよく気づきましたね、「誤診」だってことに。

 

私は以前、友人をがんでなくしているのだが、その友人は自覚症状があった。

かかりつけ医に「がんじゃないでしょうか?」と不安を訴えたのだが、医者からは笑って否定された。

「がんの症状じゃないのか?」と受診のたびに尋ねたそうだが、そのたびに「がんではない」と却下された。

 

そして、とうとう勇気を出してセカンドオピニオンをもらいに、別の医者へ行った。

すると、そこでがんだということが分かった。

「自覚症状があるのに、どうしてもっと早く受診しなかったのだ」と言われたのだという。

 

もちろん、医者も人間なので間違いはある。

だからミスを防ぐために、数人の医者が検査結果を検討し、病名や手術の可否を決定しているのだろう。

しかし複数で検討しても、それでも誤診はあるわけだ。

ふーん…。

 

というわけで、近所の方は検査を再度受けることとなった。

つまり、何が原因で具合が悪いのか、いまだに分かっていないのだ。

それも不安ですよね。

早く原因を突き止めて、治療なり手術なりをしたいですよね。

 

以前の話だが、英語圏アフリカの医療関係者が日本で研修をすることになった。

私はその研修に同行することになった。

 

研修員の中に、エチオピアから来日した医者がいた。

エチオピア人だけあって背が高く、やせているのによくしゃべる男性だった。

 

この医者、A氏が研修中に体調不良を訴えた。

英語の通訳さんが「Aさんはお腹が痛いらしいので、病院へ連れて行きます」という。

 

海外で体調不良になるなんて、そりゃ不安だろう。

しかし、医者でも具合が悪くなるのか…と私は不思議に思った(まあ、医者の不養生とか言いますけどね)。

 

A氏を医者に連れて行く前に、私は彼に尋ねた。

「あなたは、どういう症状があるんですか?どこが痛いの?自分では何の病気だと思う?」

 

A氏だって医者(確か内科医だった記憶がある)なので、○○の病気かもしれない、くらいの見当はつくはずだ。

それが分かれば、胃腸科なのか、消化器科なのか、どこの病院へ連れて行ったらいいのか我々にも分かる。

 

すると、私の質問攻めにA氏はしれっと答えた。

「僕に胃カメラを飲ませてくれ。」

 

胃カメラ

どうしてそれが必要だと分かるの?

 

私が問い詰めると、A氏はまたしれっと答えた。

胃カメラ胃カメラを飲ませてくれ。頼む。」

 

だから、どうしてあなたに胃カメラが必要なの?

必要かどうかは医者が決めることだよ。

 

A氏は真面目な顔で私に言った。

エチオピアには胃カメラが無いんだよ。だから、一度でいいから胃カメラを体験してみたいんだ。」

 

え?何言っとるんじゃ。

お腹が痛いんじゃないの?

 

「ううん、全然痛くない。健康だよ。

でもねえ、胃カメラエチオピアに無いから、ぜひとも日本で体験しなきゃいけないと思うんだ。

先進国で体験しなければ、僕は医者として一生胃カメラを見るチャンスはないからさ。」

 

お前なあ…。

健康なのかい。

 

確かにヤツの顔色は健康そうで、どこも悪いところはなさそうだった。

人の好い通訳さんがうっかりA氏の言うことをうのみにし、病院へ連れて行くところだったわけだ。

 

胃カメラ胃カメラと騒ぐA氏に、「ふざけるな。お前を病院へは連れて行かん」と私は言い渡した。

A氏の魂胆が分かった英語の通訳者さんも戸惑っていた。

 

研修中は、私は厳しい目でA氏の行動を監視した。

病院や看護学校など医療施設を訪問したり、救急車の内部を見学したりしたが、A氏は何に対しても興味津々だった。

エチオピアにはこんなすごいものはない!」

と大興奮だった。

 

あれだけ英語が堪能で、エチオピアのような国で医者になれるくらいの教育を受けているということは、やはり良い家柄の出身とか、頭脳が優秀とかなのだろう。

 

エチオピアには胃カメラが無いので、実物を見てみたい、という気持ちは分からんでもない。

でも自分が実験台になって、胃カメラを飲んでみるわけか…。

医療設備や薬が十分にない国で、医師として働くのは大変なものがあるんでしょうね。

そりゃあ、日本でいろいろな新しい設備を見たら、大興奮するのも無理はないよね。

 

その点、日本の医者は高度な機械や設備、医薬品がいくらでもあって、恵まれていますよね。

しかし、それでも誤診はある。

 

人間だれしも間違いはある。

しかし、ご近所の方の主治医は、「誤診」に気づいてすぐに手術取りやめの連絡をくれた。

ある意味良かったのではないか。

 

開腹手術をして「あれ?どこが悪いのかしら?」みたいなことにならなくて良かった。

間違いに気づいたら、すぐに撤回しないとね。

ご近所さんも早く体調不良の原因を突き止めてもらい、元気になってほしいものです。