先日、東京(と関東)は雪が降った。
「大雪」とニュースで言っていたが、雪国からすると大したことはない(と思う)。
大した積雪量ではなかったが、雪かきが大変だった。
雪が降った様子を写真に撮り、さっそくインドネシアのルルちゃんに送った。
「東京の雪が懐かしい」と常日頃言っている彼女は、狂喜乱舞。(ジャカルタで、だが…)。
「雪だ雪だ!いいなあ~いいなあ~うらやましい!」を連発。
いや、「いいなあ」なんてことはないぞ。
君も雪かきをやったら、二度とそんな口がきけないはずだ。
私はたった半日の雪かきで筋肉痛になり、音を上げたのだった。
そう言えば、以前の仕事でモルディブ人研修員たちを鹿児島県で研修させたことがある。
彼らモルディブ人たちが来日したときは、たまたま冬だった。
関東の冬ですら、彼らにとっては鬼のように寒いらしかった。
私はモルディブへ行ったことが無いが、写真で見る限りトロピカルな島国なんですよね。
よりによって来日のタイミングが冬になるとは、気の毒だなあ。
気慣れないジャケット(借り物)を着こんで、クマのようにふくれあがったモルディブのおじさんたち。
かわいそうだが、仕方ない。
しかし。
彼らがこれから行く九州は、意外にも関東より寒い。
東京の冬の寒さに耐え忍ぶ?彼らに、通訳者さんたちはニヤニヤしながら言った。
「もしかして、鹿児島へ行ったら雪が降るかもねえ~この寒さじゃ」
雪?
雪?!雪が降るのか!
嫌がるかと思いきや、モルディブ人たちは大喜び。
人生で一度も雪を見たことが無いので、鹿児島へ行くことががぜん楽しみになったらしい。
まあ、「行きたくない」って言われるよりはいいですよね。
で、彼らを鹿児島へ送り出して数日後。
鹿児島県の方から電話があった。
「モルディブ人研修員たちは元気ですか?」
私は尋ねた。
先方は上機嫌だった。
「元気ですよ。それに、先日は鹿児島でも雪が降ったんですよ!少しですけどね。」
おお。
なら、モルディブ人たちは初めて見る雪に喜んでいたんでは?
「喜ぶというか…。
『雪だよ』と言ったら慌てて外に出てきたんですが、初めて見る雪に固まっていましたよ。」
モルディブ人たちは生まれて初めて見る雪に、ほうけたように見とれていたのだという。
中には、ホテルの外に突っ立ったまま、ずっと天を見上げている人もいたとか。
雪の中でずっと立ち尽くしているモルディブ人たちを見て、周りの日本人はさぞ戸惑ったことだろう。
なるほど。
確かに、雨とは違うし、服についても手で払うことも出来る。
不思議なものに見えるでしょうね。
モルディブでは、雪が降ることを見る機会は無いでしょうし。
日本や欧米は四季があるのであまり感動が無いが、日本の冬は寒いとか、秋は紅葉がきれいだ、とか、アジアやアフリカの人々は日本の四季の変化を結構喜んでくれるようだ。
タイ人は日本の紅葉シーズンに大挙して来日したがる、とかいうのはその一つなんだろう。
ジャカルタに勤務していた時。
インドネシア人スタッフの一人、A子さんが日本へ出張することになった。
A子さんはアシスタントだったので、本来は彼女のインドネシア人上司が日本へ行かなければならなかったのだが、上司は着任したばかりだった。
なので、業務を長らく担当しているアシスタントのA子さんが上司の代わりに出張したのだった。
私のアシスタントをやっているインドネシア人スタッフB子が、うらやましそうに私に言ってきた。
「A子さん、東京へ出張するんですって!いいなあ…」
いいなあ、って言われてもねえ。
私は暑いインドネシアの方がうれしいが。
それに今、東京に出張するなら冬だから寒いでしょ。
そういうとB子は畳みかけるように私に言った。
「そうなんですよ!だから、先週私はA子さんと買い物に行ったんですよ!
だって東京は寒いから、コートとか買わなきゃいけないでしょ?」
そっか、確かにインドネシアでは使わないようなコートが必要だよね。
コートだけじゃなくて、靴下とかセーターとか…。
常夏の国から冬の日本へ行くなんて、そりゃ面倒だね。
「面倒?そんなことないですよ!いいなあ、東京へ行けるなんて!」
私が面倒だねえ、と言ったら、B子は首を振って否定する。
冬のコートを買うなんてワクワクするじゃないですか!というのだ。
そんなもんかねえ。
B子も他のインドネシア人スタッフも「冬の東京なんていいなあ!」と口々に言う。
なるほど…一年中、夏の国に住んでいると、冬の気分を味わってみたいのかも?
B子は「うらやましい、うらやましい」を連発している。
そしてしばらく経ち、A子さんが東京出張から帰ってきた。
『東京は寒くてとんでもなかった!』んだろうなあ…と思いながら、B子と私は出張から帰ったA子さんに尋ねた。
「インドネシアへお帰り!で、東京、どうだった?」
A子さんはニコニコしながら、スマホの写真を見せる。
「ほら、こんな感じ!寒かったですよ~!」
見ると、キラキラ輝くイルミネーションの前に、キャメルのコートを着たA子さんが微笑んでいる。
こうすると、まるっきり都会のお姉さんだ。
インドネシア人の若い子は、本当にかわいい子が多いからなあ。
ん?このイルミネーションは?見覚えがあるなあ。
私が尋ねると、A子さんは笑った。
「そうなんです、表参道なんですよ!」
やっぱり…。
みんな行くわけだ、冬の東京と言えばこういう華やかなところへ。
B子は食い入るように、その写真を眺めている。(ごめんよ、東京へ行く出張が無くて)
A子さんはイスラム教徒じゃないのか、ベールをかぶっていない。
そのためか、日本人の若い女性に見えなくもない。
寒いのって、そんなに憧れなのかなあ。
なんか、こういう「寒い冬」とか「四季の変化」みたいなものへの憧れがある人が、インドネシアには多かったなあ。
日本人も「紅葉狩り」とか「お花見」とか自然を楽しむ旅行が好きだが、アジア人をターゲットにしても、こういう旅行は人気があるんでしょうね。
東北とか新潟とか豪雪地帯は、冬の間は移動が大変とか聞く。
しかし、雪を体験してみたい外国人観光客はいそうだ。
先日はパキスタン北部に雪が降り、それを見に来た国内観光客の車が雪で立ち往生したらしい。
雪で車のマフラーが詰まり、一酸化炭素中毒になった観光客が亡くなったということだった。
パキスタン国内ですら、雪を見に行く観光客がいるのか。
雪を見たがるルルちゃんは、「インドネシアの方が暑くて体が楽だよ」という私にいつも言う。
『人間は皆、ないものねだりだ』。
そうそう。そういうものですよ。
私はといえば、やっぱりバリの田舎で涼しい風に吹かれながら、まったり朝食を食べたりするのがいいですな。
冬の表参道なんて寒いし人込みはうっとうしいし、絶対に行きたくない。
私は、冬はさほど好きではない。
初夏が一番好きなのだ。(だからインドネシアはいいんですが)
一年中、初夏のさわやかな季節だという国があったら移住するだろうなあ。
そんな国は、私の調べた限り地球上にはないんですよね…。
やはり、人間はないものねだりなんだなあ。
まあ、寒く厳しい冬があるからこそ、春の美しさが際立つんですけどね。