お昼にラーメンを食べに行った。
以前から気になっていたお店だった。
人気があるのか、いつ行っても行列ができている。
「入りたいなあ~」と思いながら、1年が過ぎた。
もちろん私も、そんなに執念深く?その店に入る機会を待っていたわけでもない。
こういう社会情勢もあって、あまり外食をしなかった。
それに「今日はパスタの気分だな」「中華が食べたいな」という時もある。
しかし、ついにその店に行った。
お昼時分に行くと、外で待っている人がいた。
店外に置いてあった名簿に名前を書き、自分も待つ。
先に座っていた人が呼ばれ、店内へ入って行った。
しばらくすると、再び店員さんが店から出てきて名簿を見、私の名前を呼んだ。
よっしゃ、入れるぞ。
と思ったら、店員さんが申し訳なさそうに言う。
「あのー、カウンター席じゃなくても良いですか?テーブル席なら空いてますが…」
私は合点した。
テーブル席ってことは、相席しなきゃいけないのかな。
でも全く問題ない。
コロナになってからというもの、飲食店には透明のついたてが付いている。
見知らぬ人と相席しても大丈夫だ。
「相席ですか?構いませんけど」
すると店員さんは笑顔になって言った。
「いえ、お一人です。」
私は苦笑した。
なーんだ。それならもっと問題ない。
広いプールを一人で泳ぐようなものだ(ちょっと違う?)。
広々とテーブルが一人で使えるなら申し分ない。
私は店内に入り、指示されたテーブルに着いた。
4人~6人くらいが座れそうなテーブルだ。
このテーブル席を一人で使うのだ。
コートを脱いでカバンを席に置く。
注文を受けて、店員が去る。
私は水をコップに注いで一息つくと、店内を見渡した。
他のメニューもチェックする。
は~。
水をまた飲む。
広いテーブル席で、私はすっかりくつろいでしまった。
厨房の前のカウンター席では、一人客が次々に食事を終え、立ち上がっていく。
携帯をいじくったりしていると、店員さんがまた現れた。
「あのー、お願いがあるんですが」
なんだい?
聞くと、5人連れの客が来店したという。
なので、申し訳ないが空いているカウンター席に移ってもらえまいか。
なるほど。
そりゃ、一人客の私がカウンターに移った方がいいでしょうねえ。
私は「いいですよ」と即座に答えた。
店員はペコペコ頭を下げながら、私のテーブルを離れた。
私はコートとカバンを抱え、立ち上がりかけた。
あ、ちょっと待てよ。
テーブルの上には持参したアルコールお手拭きも置いてあるし、デジカメ(ラーメンの写真撮影のため)、スマホ(これも写真撮影用)、それに飲みかけのコップも。
あわわ…。
次の客が来るのに、まだ座っている自分。
タコのように(といっても手は2本しかないが)、それらの私物をすべて持ち抱える。
もたもたしつつ、なんとかカウンター席へ移動する。
私が移動したのを見計らって、店員さんが新しい客を誘導してくれた。
助かった。
見ると、「5人連れの客」とは2人のお母さんと小さな子どもたちだった。
まあ、あんな小さい子だったら、くつろげるテーブル席がいいよね。
私はようやく座ったカウンター席から振り返って、5人連れをもう一度見た。
小さい子どもたちはきゃっきゃっ言いながら、楽しそうにお子様メニューを選んでいる。
やれやれ。
すると私の前に、注文したラーメンが運ばれてきた。
「お待たせしました!」
おお。
これが、1年も待った?ラーメンか。
早速写真を撮影しようとデジカメを構えて、手が止まった。
ん?
メニューの写真とちょっと違うぞ。
私が戸惑っていると、横からすかさず店員さんが言った。
「こちらは、席を代わってくださったお礼に、味付け卵のサービスです!」
そ、そうか。
改めてよく見ると、トッピングの生卵と、半分に割った味付け卵。
計3つの卵が載っている。
なるほど、違和感の正体は3つの卵か。
しかし…ラーメンの上に卵が3個も乗っている図。
メニューの写真をもう一度確認すると、私の注文したラーメンには最初から生卵が載っている。
そこへ、サービスで味付け卵をプラスしてくれたわけか。
嬉しいが、なんとなく卵の食べ過ぎな感じがしなくもない。
しかし、お店の厚意で卵をサービスしてくれたのだ。
ありがたくいただくことにする。
割り箸を割って、ラーメンに取りかかる。
麺はアルデンテか。
スープは深い味わいの味噌。
トッピングに青ネギと辛味噌。
これまた風味が追加されてよしよし。
もやしも多すぎず少なすぎず。
食べ始めて、ちょっと思った。
最近、私は全体的に食事量を減らすようにしているのだが、このラーメン、ボリュームあるなあ。
がんばって食べ進める。
スープがおいしいので食べ続けられるが、やっぱり女性には量が多い。
そして。
生卵を麺と辛味噌&青ネギに絡め、美味しくいただく。
途中で味付け卵の片割れも食べた。
しかし、いずれにせよ麺やトッピングの豚バラの量が多いのよ。
お腹がいっぱいになってきた。
いつまでもスープに浮く味付け卵の片割れ。
いや、店側のご厚意なので、卵も全部食べるのだ。
苦行のように黙々と完食する。
スープを全部飲み干すと、どんぶりの底に文字が見えた。
「ありがとう」。
私も「ありがとう」ですよ。
だって、もう動けない。
今日の夕食は不要だ。
苦しい…。
代金を払って店を出た。
お腹いっぱいで、大満足。
その後、この店での出来事を家人に話した。
すると、「へえ、卵を増量してくれたんだ。良かったねえ!」と言う。
良かったのだろうか。
席を移るくらい、そんなに大したことではない。
それを感謝してくれるなんて、こちらが恐れ入る。
でも、まあ、自分がやった小さなことで誰かが感謝してくれるのは嬉しい。
最近、海外でラーメン人気と聞く。
お腹いっぱいになるんだから、そりゃ欧米人には人気が出るだろうな。
カツ丼を昼食に食べると、午後の仕事が眠くなったり、夕食が食べられなかったりする。
しかし、大量の豚バラ肉とトッピング卵2つを乗せた濃厚味噌ラーメンも、これだけお腹にどしっと来るわけだ。
その日の夕食が入らなかったことは言うまでもない。
4月からジムにでも通わなければならないかも。