七夕だからこういう話題を書くわけではないが、ルルちゃんの妹が結婚するらしい。
ルルちゃんは、私がインドネシアで懇意にしていた友人だ。
「へっ?妹って、もうそんな年齢?」
私がインドネシアにいたとき、ルルちゃんの妹、リーナちゃんはまだ大学生だった。
あどけない笑顔が印象的だったのに、もう結婚か。
子どもの成長は早い(←ってもう「子ども」じゃないんだけどね)。
確かジャカルタで開催されたマンガフェスティバルか何かで、ルルちゃんに「うちの妹だよ」と紹介されたのだ。
(マンガフェスに来ていた、ってことは妹もマンガオタクなんだろう)。
あれから、まだそんなに経っていない。
インドネシア人の結婚は早い。
10代で結婚する人もいるくらいだ。
なので、それ自体は驚くことではないんだろうけど。
このたび、私が何に驚いたかというと。
「何年か前に大学生だった子が、今年結婚すること」ではない。
ルルちゃん曰く。
「妹は結婚したらジャカルタを離れ、夫の実家で義両親と同居」なんだそうだ。
それを聞きとがめた私。
「あれ?将来の旦那さんはジャカルタの人じゃないの?」
と聞くと、妹の婚約者はジャワ島東部のある大都市出身なんだという。
でも、同じジャワ島なんでしょ?
同じ島なんでしょ?
と思う人もいるだろう。
いや、同じジャワ島といえど、その町はジャカルタから900キロ近く離れている。
(まあ、スマトラとかスラウェシとか、違う島に嫁に行くよりは近いのかもしれんが…)。
インドネシアはひたすら巨大な島国なのだ。
そんな遠くの人と妹さんはどうやって知り合ったのか。
まあ、大体わかりますよね。
読者の皆さんご推察の通り、SNSを通じて知り合ったのだという。
ちょっとビックリした。
ルルちゃんの家庭及びご親戚は、良い家柄だけあってかなり保守的。
「SNSで知り合った」
彼氏との結婚をよくぞ許したなあ、ってことである。
ところでルルちゃんは既婚者だが、親や親戚に自分の結婚相手を認めさせるのにえらく苦労したそうだ。
たとえば、結婚を考えている彼氏を家に連れてくるとする。
当然、親兄弟にも引き合わせる。
彼氏が帰宅した後で、ルルちゃんはそれとなく親の意見を伺う。
「あの男の子はまあ、悪くないけどねえ…」
なんて親が言おうものなら、それは結婚相手として「不可」ということだ。
ルルちゃんはその彼氏と別れ、別の彼氏を探す。
「なんで?親の意見なんて別にいいじゃん。
結婚は自分と相手の合意のみに基づくわけだし」
なんて理想的なことを私はルルちゃんに言ってみた。
しかし、彼女は浮かない顔をして首を振る。
「結局、結婚したら親兄弟や親戚づきあいがあるでしょ。
だったら最初から、家族が気に入る男性と結婚したほうが面倒が無くていいよ。」
自分の人生で家族がそれだけ重要、ってことかい。
分からんでもないけど、なんとなく納得できないけどなあ。
「親や親戚が認めてくれそうなムコ候補、となると「友達の知り合い」「友人の友人」が間違いない。
だって、友人の友人なら「出身地、学歴、経歴、民族、宗教等」個人情報もある程度わかるしね。」byルル
というのが結婚相手を探す昔ながらの方法なんだとか。
ことほどさように伝統的なインドネシアの結婚は、個人の性格よりも「宗教、出身地、民族」などが重要視されるのである。
ってことで、ルルちゃんは「学生時代の友達の知り合い」「友達の遠い親戚」「そのまた知り合い」など、自分の知り合いから範囲を広げて夫候補を探したらしい。
大変なこっちゃ…。
親の意見がそれほど大事か?誰だっていいじゃねえか!
と思う私は、ルルちゃんの歴代の彼氏に同情する。
しかし、「第三者(親)から見た人物評が一番信頼できる」というのも、ある程度は真実だ。
恋に落ちている時は、相手の欠点が見えないからねえ。
間違いない結婚相手、ってどの国でも見つけるのが大変なんだよね。
ルルちゃんの一族郎党&おば様方の要求は、「ムコになる男はイスラム教徒であること、ジャワ島出身であること」等多岐にわたった。
それらの条件をすべて満たしたのが、今のルルちゃんの旦那様である。
まあ、ルルちゃんの旦那は私が見ても「よく出来た旦那さんだ」と思う。
さすが厳しい面接を乗り越えて入社…いや、結婚を許可されただけのことはある。
しかし、ルルちゃんの結婚の経緯を聞いて、私もどっと疲れた。
「は~インドネシアの結婚って大変なんだわさ」
伝統的な価値観を重視する国なら、まだそういう感じなんだろうな。
結婚相手選択には親や親戚の意見が優先される。
だから「知り合いの知り合い」に紹介された知り合い、ってのが安全パイなわけだ。
こうやって、ルルちゃんから
「いかに親が気に入る結婚相手を見つけるかが大変だ」
という苦労話を聞いていた。
だから、妹のリーナちゃんが「SNSで知り合った」人と結婚を決めた、と聞いて驚いたのだ。
「彼に会ったけど、いい人だったよ!」
とルルちゃんは言う。
しかし、伝統的な「知り合いの知り合いからの紹介」という方法で妹が結婚相手を見つけたわけではない、のがちょっと彼女のお気に召さないらしい。
姉妹なのに、結婚相手の選択方法が違うわけだ。
30代の姉は「伝統的な方法」で、親や親戚一同の気に入る相手を苦労して見つけた。
しかし20代の妹はSNSでサクッと(?)彼氏を見つけた。
姉妹なのにねえ。
ルルちゃんが結婚した時から何十年も経っていないのに、である。
今どきの若者は…というルルちゃんの嘆きが聞こえそうである。
インドネシア社会の変化って早いなあ…。
それが私の第一印象。
日本なら「世代が変わったら、結婚観も変わる」くらいなのかもしれないけど。
案外、インドネシアの方が日本のような古い国より、社会の動きが速いのかもね。
以前、フランス人の友人に尋ねられたので、日本社会の現状をあれこれ実体験を交えて話をした。
私の話(主にジェンダーロール等の話題だったが)を聞いた彼女が言っていた。
「日本女性が今、日本社会で味わっている女性差別って、フランスでは私の母親世代が味わったことだよ。
フランスは日本より、ひと世代先に社会が進んでいるのかもね。」
うん、そうかもね。
社会って、祖母→母→娘、と世代ごとに変化していくものだよね。
その時は、「そうか、私の子ども世代になったら、今のフランスに追いつくくらいなんだな」
と思った記憶がある。
しかし昨今は、社会の変化の速さがますますスピードアップしているようだ。
ルルちゃんが30代にして「今の20代は」と嘆くくらいなんだから、もはや一世代どころではない。
こうなると、リーナちゃんの結婚式及びその後が楽しみである。
さすがに結婚式は、伝統的なヤツだろう。
日本でも昔の人がやっていたが、何百万もかけてホテルを借り切り、派手な披露宴をぶち上げるのがインドネシア流だ。
これは、さすがにお母さんも親戚一同も譲れないだろう。
私も「今の若い者は」とか「ついて行けない」と嘆くのではなく、「そっか、今はそんな感じなんだ」と思うようにしている。
自分の周囲を見てもそうだ。
彼氏や彼女、妻や夫をアプリとかSNSで見つけた、という人が多くなってきた。
それだけ、「友人の友人の知り合い」で適切な彼氏・彼女候補を見つけるのが難しくなったということかもね。
「人に紹介されると後が面倒くさい」ってのもあるしなあ。
私なんか電話に出るのもおっくうになってきたし(←それはちょっと違う?)。
まあ、伝統的な結婚にせよ、現代的にせよ、リーナちゃんが幸せになってくれれば一番いいんだけどね。
こうやって、インドネシアの伝統もどんどん変わっていくんだろうな。
今日は七夕。
世界中のすべての愛する二人が、幸せでありますように。