髪型について、こんな思い出がある。
2歳年上の姉は、常にロングヘア。
私たちが幼稚園の頃は、母が姉の髪を三つ編みに毎朝編んでいた。
私はそれがうらやましかった。
「私も髪を伸ばしたい!」
そういうと、母はいつも首を振った。
「2人も毎朝三つ編みにしなきゃならないなんて、面倒くさい。」
「朝は忙しいんだから、そんなのやってられない。」
「あんたはショートでいいの。我慢しなさい」
なぜなんだ。
姉は「三つ編みは嫌だ」と泣く。
私はロングにしたい。
だったら姉をショートに、私をロングにすればいいじゃないか。(名案)
しかし、母はがんとして私の提案を受け付けなかった。
姉は何をするにもおっとり、のろのろ。
それが「女の子らしい」と両親は思っていたようだ。
だから長女はロングヘアにすべし。
逆に私はおてんばで、やることなすこと早い。
パキパキしているので「男の子っぽい。」
だから次女はショートにすべし。
姉=女性らしい=ロングヘア。
妹(私だ)=男っぽい(偏見だが…)=ショートヘア。
という両親の考えは長年変わらなかった。
親の厳命で、私は高校までロングヘア禁止だった。
なので、ボブで妥協していた。
大学生になり、アメリカへ。
お金がなかったし、美容院で英語でオーダーするのが面倒だったのもある。
「ロング禁止」という親もいないので、髪を伸ばし始めた。
ところが。
ボブヘアに慣れたせいか、ロングヘアにするとどうも首筋がうっとうしくてたまらん。
結局、ボブヘアに戻った。
ボブのまま卒業し、就職し、働いていたある日。
先輩社員のYさんが結婚した。
彼女は私より6、7歳年上だ。
彼女の新居へ、同僚たち数人で遊びに行った。
駅で待ち合わせしたのだが、現れたYさんを見て驚いた。
何と、ボブをバッサリ切ってベリーショートになっていたのだ。
驚く我々に、Yさんは笑いながら言った。
「1,000円カットに行って、『大阪のおばさんみたいにしてください』って言ってやってもらったの。」
大阪のおばさん…。
いい得て妙だ。
(すみません、大阪のおばさまには大変失礼と思いますが)
言われてみれば、いや言われなくても『大阪でよく見かけそうなおばさん』だ。
思い切ったな。
Yさんいわく、主婦になって自分が自由に使える収入が無くなった。
マクドナルドでバイトを始めたが、会社員時代とは比べ物にならない。
美容院代を浮かそうと思って、ベリーショートにした。
ということだった。
旦那さんは驚いたでしょ?と尋ねると、Yさんは苦笑した。
「高校球児みたいだね!だって。それだけ。」
良い旦那さんだ。
まあ、髪型を変えたからって、愛は変わらないですよね。
すごいな、いつも私の先を行っているな、Yさん。
とその時は思った。
しかし、さすがに「大阪のおばさん」カットをやる勇気は無かった(だってロングに憧れてたからね)。
それから何年か経ち、常夏のインドネシアに赴任。
インドネシアの年間平均気温は25度~35度。
ボブでも十分暑い。
行きつけの美容院の日本人美容師さんに何度も頼んだ。
「暑いんで、短くしたいです。」
ところが、美容師さんは難しい顔をして言う。
「いや~ボブのままがいいと思いますよ。」
ボブだと汗だらだらで暑いんだよ。
もっと涼しいヘアスタイルにしたい、って頼んでるんじゃん…。
その時、Yさんのことを思い出した。
ある日、美容師さんに宣言した。
「ショートにしてください。」
美容師さんは驚いた。
ボブのままがいいとか、ショートは似合わないかもとか、頭の形が悪いとか、さんざん私をなだめすかした。
でもねえ。
チャレンジせずして、どうして「ダメだ」と思うのだ?
いいから、切れ。(←えらそう)
横も後ろも短くした。
「大阪のおばさん」よりは若干長い、くらいになった。
おお。
案外、似合っているじゃん。
美容師さんも鏡の中の私を見て、ビックリしたようだった。
「似合いますねえ!」
うん、私も想定外。
よしよし。
家に帰って再度鏡を見た。
しかし、ショートにしたら多少は女性らしくしないといけないな。
明日は大きめのイヤリングと、普段は付けない口紅をつけて出勤だ。
そして、翌朝。
会社が入っているビルの入り口(ビルの入り口に警備員さんがいる)から中へ入ろうとした。
すると、インドネシア人の警備員さんに止められた。
「ミスター!」
振り向く私。
内心、ちょっと腹が立つ。
(髪を短くしたからって、私の顔が分からんとはどういう警備員だ。
それに、「ミスター」じゃないんだよ。
女だよ、女!)
インドネシア人の警備員は続けた。
「ミスター、おはようございます」
あのなあ。
英語では呼びかけに「ミスター」は使わないんだよ。
見知らぬ男性に呼びかけるときは、たいていSirだ。
っていうか、問題はそこじゃない。
私はスカートをはいてるじゃねえか!
男じゃないんだっつの。(←ガラ悪し)
男性に間違われることを避けるため、翌々日も大ぶりのイヤリングを着用してスカートで出勤。
こんな目立つイヤリングをつけていたら、さすがに男性と思われないよね。
と思ったら、今度はビルの入り口で女性警備員が私に話しかけてきた。
「ミスター、今朝はエレベーターのメンテナンスをやってまして、あちら側をご利用ください。」
…。
ミスターじゃないんだよ、と言いたいのをこらえて、あちら側に回る。
くそっ。
スカートはいてても「ミスター」かい!
ショートにしただけで男扱いされることに愕然とする。
しかしここで「私は女なんですけど」って騒ぎ立てるのは、もっと恥ずかしいですよね?
ここで、読者の皆さんへお伝えしたい。
インドネシア人が悪いのではない。
彼らは英語圏の人間ではないのだ。
留学したわけでもないのに、一生懸命外国人に英語で果敢に話しかけてくれる、大したやつらなんである。
私がモヤってる理由は、Sirじゃなく「ミスター」と間違った英語で呼ばれることではない。
イヤリングをつけて口紅を引いても「男性」と思われることなのだ。(←自分のせい)
それくらい、「男顔」ってこった。
くそ~~~~~~!!!!
ま、インドネシアはオカマさんも結構いらっしゃるので、間違われるのも仕方ない。(←どういう着地だ)
しかし、やってみると楽なんである、ショートが。
インドネシア勤務を終え、日本へ帰国した後もなんとなくショートを続けている。
ロングヘアの同僚のSさんが言っていた。
「ロングにしておくと、美容院へ何か月も行かなくて済むから安上がりなんだよね。」
そういうやり方もあるか…。
というわけで。
ロングとショート、どちらが安上がりとか、どちらがメンテ楽なのかは一概に言い難い。
しかし、私のように、子どもの頃にショートだった人がロングにするのは案外難しい気がする。
逆は楽だけどね。
毎朝三つ編みにされて泣いていた姉も、今ではボブにしている。
理由は「楽だから」。
そうだよね、それに尽きる。
ところで、ショートの髪が伸び始めた私。
これから秋だし。
せめて髪を伸ばして女性らしくしようかな。
いや、中身が女性なのになぜわざわざ「女性らしく」しようとする必要がある?
必死に「女性はこうあるべき」という社会からのジェンダーの偏見に抵抗している感じ?
(ショートにする→男性に間違われる→女性と思われたい→髪の手入れは楽な方がいい→ショートにする、をぐるぐる回ってるだけじゃん!)
ああ、また理屈っぽくなってしまった!
ま、オカマさんと思われてもどうでもいいや。
という気持ちになり始めている。
Yさんのように自分軸をちゃんと持っていれば、周囲にどう思われてもいいのだ。
と思えるハートの強さ、欲しいです。