オレンジの花と水

ブログ初心者の日記風よみもの

郵便局員

 

原田ひ香さん。

という不思議なお名前の作家さんが、最近気になっている。

代表作は「三千円の使い方」という本らしい。

まだ私は読む機会を得ていない。

 

同じ著者の別の作品で、「老人ホテル」という作品を先に読むことが出来た。

(私の周囲には読書家が多く、貸したり借りたりできるのでラッキーなのである)。

 

この作品の主人公は、24歳の日村天使(えんじぇる、と読む。キラキラネームらしい)。

生活保護をもらっている両親のもとに生まれ、7人兄弟の末っ子である。

 

天使は、ホテルで清掃の仕事をやっている。

子どものころから親のグダグダっぷりを見て嫌悪感を抱き、何とかして自力で生活したいと願っている女子だ。

ホテルの長期滞在者(いや住人?)の老人たちから投資や不動産の指南を受け、生活を立て直していく。

 

ここまで読んで、お金がテーマの小説(というか、お金=生活=人間ですけどね)ということが分かる。

「三千円の使い方」は未読だが、タイトルから推測するにやはり経済小説?なのかもしれない。

 

とはいえ、小説家らしい目配りがとてもナイスなのだ。

天使の同僚のシングルマザー・山田さん。

山田さんの存在が、小説にやわらかい味付けをしている。

(でなければ、老人とか生活保護とかパワーワードの多いこの小説、読者が疲労しちゃうだろう)。

 

金銭にルーズだった両親から何も学んでいない天使に、自炊を教え貯金を勧める老女・綾小路光子。

(恥ずかしいから)とか(どうせ自分はダメだ)と、チャレンジもせずに最初からあきらめる天使を戒める役どころだ。

ダメもとでチャレンジしろ!正社員になれ!とはっぱをかけられる天使。

いいですわ~。

 

ダメ親から独り立ちする天使の成長物語でもある。

天使を導くキャラの濃い老人たちは、「子どもは(親だけで育てるのではなく)村全体で育てるものだ」というケニアの教えを思い出させる。

作家さん担当の編集者も優秀なんだろう…。

 

で、私のお伝えしたいポイントはそこではない。

原田ひ香氏は、もともとファイナンスに興味があって知見もお持ちの方と推察。

そういう強みがあると、こういう小説も書けるわけだ…。

と思ったのだ。

 

また話が脱線して申し訳ない。

かつて、私はどこかの出版社の新人文学賞に応募したことがある。

1度ならず何度か、だ…恥ずかしながら。

 

もっとも直近で応募したのは、なんの文学賞だったか忘れた。

小説のアイデアを何度も紙に書きだしてブレストし、ああでもないこうでもないと呻吟していた。

そして、某出版社の新人文学賞作品募集要項を発見して、応募することに決めた。

 

その規定に合うようにページあたりの行数を調整し、ページ数を削ったり増やしたり。

内容を何度も書き直し、ああでもないこうでもない…。

原稿を自宅プリンタでプリントアウトしてからミスに気付き、何度もプリントアウト。

とまあ、誰でもやりそうなドタバタを長期間繰り返した末、ようやく完成した。

 

書いている時は意識しなかったが、全部プリントアウトすると結構な厚みになった。

これを郵便局から郵送しなければならない。

募集要項に「作品は郵送」と書いてあったからだ。

 

普通の封筒では入りきらない。

巨大な封筒を購入し、原稿をぎゅうぎゅうに詰め込む。

よかった、何とか全ページ詰め込んだぞ。

 

そして郵便局へ。

原稿でぱんぱんにふくれた分厚い封筒を手に、ゆうパックのサイズや送料をあれこれ吟味する。

 

その日は郵便局内にお客さんがおらず、カウンター内の局員たちはヒマそうに私を注視していた。

たぶん、「あいつ、何をやってるんだか」と思われただろうなあ。

とにかく尋常な重さの郵便ではないので、仕方ない。

 

そして私は意を決し、カウンター内の郵便局員へその結構な厚みの重量物を差し出した。

 

「あの、ゆうパックで送りたいんですが」

 

一人の女性局員が待ってましたとばかりに立ち上がり、対応してくれた。

 

「はい!ゆうパックでよろしいですね?」

 

いや、もっと安い送付方法があればいいんですけど…。

かなり重いのだが、あまり高額だと困る。

と、あれこれ心の中で考える。

対応する女性局員と私のやり取りを、他の職員がさりげなく聞いているのが分かる。

 

「これを送るのですね?」

 

再確認するように局員が訪ねた。

そのすさまじく分厚い書類を見て、彼女が戸惑っているのが見て取れた。

 

そりゃそうだよね。

こんな厚みの書類を、メールじゃなく郵便で送る人なんていませんよね。

宅配便って手もあったよね。

スミマセン…と恥ずかしく思っていたら、再び女性局員が聞いてきた。

 

「この封筒の中身は何ですか?」

 

あ、中身ですか?

聞かれて、私は狼狽した。

まさか「新人文学賞に応募する原稿です!」なんて絶対に言えない。

恥ずかしすぎる。

 

「え、えっと中身は書類で…か、紙です、紙!」

 

私は勢い込んで答えた。

紙だ、と主張したのだが、時すでに遅し。

女性局員は封筒の上に書かれた某出版社の宛名を見、そしてそのわきに書かれた「新人賞応募原稿在中」という文字まで読んだ。

(というか、彼女が封筒の上に走らせた目線で、彼女が中身を把握したことを私は悟った)。

 

万事休す…。

私は顔から火が出るほど恥ずかしかった。

その怪しい封筒の中身が新人文学賞への応募原稿と分かり、女性局員の態度ががらりと変わった。

 

「そうですか!じゃあ、特定記録とかも必要ですよね?

そうすれば、先方が受け取ったかどうかわかりますもんね?」

 

あ、そ、そうですか…。

そこまで考えていなかったが、たぶん彼女の言う通りだ。

だって「原稿が締め切りに間に合わなかったから落選」なんてこともあるかもしれない。

(いや、駄作だから落選すると思わないのかい…)

 

でも「出版社が受け取ったかどうか」分かった方がいいのかな…(←グズグズ)

とにかく恥ずかしすぎて、この場から逃げ出したい。

 

その女性郵便局員は、最初から親切だった。

が、目の前の貧相な客が「新人賞に原稿を送付するらしい」と分かったとたん、一気に応援モードになった。

 

あなたがそこまで一生懸命やってくれるほどの価値のある原稿じゃないんですけど…。

なんだかいたたまれないような、でもありがたいような、気恥ずかしい時間が続いた。

 

結局、その女性局員がテキパキ進めてくれ、特定記録の手続きをしてくれた。

おかげで、その分厚い原稿を無事送付することが出来た。

そして、数か月後、その原稿は出版社から戻されてきた。

想像はついていたが、落選だったのだ。

 

断り文句は覚えていない。

「当社の求めている作風と違う」とか、そんな文言だったような記憶がある。

 

でも、出版社からの断り文句をはっきり覚えていないということは、自分にとっては、落選はさほどダメージじゃなかったのだと思う。

私がいまだに覚えているのは、その郵便局員の親切心である。

封筒の中身が分かってから、彼女は明らかにオーラが変わった。

 

あなたを応援しまっせ!

何かをやってあげたい!

という気持ちが態度や言葉にあふれていて、私は彼女の親切心が心にしみたのだ。

 

今、時間が経ってから振り返って思うこと。

それは、あの時の郵便局員は作家志望の友人がいて、そういう人を応援したいという気持ちにあふれていたのかもしれないな、ってこと。

あるいは、彼女自身が作品を執筆して、いつか世に出したいと思っていたのかな。

 

そういうささやかな想像をふくらませると、何だかうれしい気持ちになる。(←まだ作品を世に出していないのに、勝手にいい気分になる)

 

ところで、郵便局にはいろいろなストーリーを持ったお客さんが来るだろう。

私みたいに、自分の作品を世に出したくて原稿を送る人も来る。

 

ということは、郵便局員ならではの小説のネタがたくさんあるんじゃないだろうか。

同様に、駅員とかバス乗務員、タクシー運転手の方も。

原田ひ香さんも、もしかして銀行員とかそういうお仕事の経験があるのかもなあ。

 

作家というものは、ファンとか編集者とか様々な人が育てるもの、でもあるかもしれない。

応援してくれる人が一人でもいれば、作家は頑張って執筆できるのかも、ですね。

落選はしたが、こんな親切な郵便局員さんに会えたことで「引き続き頑張ろう…」と大いに励まされたのである。