先日、こんなことがあった。
私は毎晩、翌日の天気予報を見る。
通勤時の服装や交通手段を決めるためだ。
たぶん読者の皆さんもそうしていると思う。
翌朝が雨の予報なら、濡れてもいい靴を選んだり、早めに家を出たりする必要がありますよね。
その日の翌日の予報。
「朝は小雨。午後は雨が上がり、傘不要」。
うーん。
朝だけ雨なのか…。
私は駅まで自転車で通勤している。
終日雨であれば、傘をさして駅まで歩いて行くしかない。
レインコートを着て自転車に搭乗、という手もあるけどね。
が、レインコートは脱着がめんどうくさいし、傘をさして自転車をこぐのは危険。
でも、傘をさして駅まで歩くとなれば、家を早く出ないといけない。
家を早く出るのは嫌だな…。
と、そんなことをぐずぐず考えていた。
だって午後から雨が上がるなら、自転車で駅まで行きたいですよ。
そしたら、帰宅時はさっそうと自転車で帰れるのだ。
朝だけ雨ってのがねえ…。
どうしたものか。
すると、その日の朝。
私が自宅を出るときはパラパラ程度の小雨だったのだ。
ほとんど降っていないくらいの。
おお、ラッキー!!
私は喜び勇んで自転車にまたがり、駅まで飛ばした。
そして首尾よく駅に到着し、自転車置き場に自転車を入れた。
そして駅構内へ入った。
いつも使う路線のホームへ行き、電車を待った。
すると。
なんと、雨が降り出してきたのだ。
先ほどの、降っているかいないかくらいの小粒の雨が、大粒になった。
土砂降りまでは行かないが、傘が必要なくらいの降り方になってきた。
ヤバい。
私はホームで首をすくめた。
だって、午後から雨が上がるって言ってたからさ。
傘なんて持ってきていないのだよ、折り畳み傘さえも。
すぐ止むだろうと思い、じっと電車を待つことにした。
しかし、そういう時に限って雨がやまないのよ。
だんだん雨粒が大きくなり、前髪が濡れてきた。
どうもやむ気配はなく、頭も肩もコートの身頃もだんだん濡れてきた。
クソっ。
仕方なく、私は首に巻いていたマフラーを取ってほっかむりすることにした。
なんかイスラム教徒になった気分。
いやいや、アメリカ人なら基本は傘をささないよ(だって持ってないからね)。
などと色々考え始めた。
過去に行ったことのある国々の人々の様子が頭に浮かぶ。
私が住んだ国の多くでは、傘をさすことがあまりなかった(いや待てよ、コートジボアールとインドネシアは傘をさしてたなあ…)。
傘をさす、ってのはやはり雨の国だからですよね…。
そんな思いが次々に頭の中に浮かぶが、その間もじゃんじゃん雨が降る。
ポイントは、「土砂降りではないが、中くらい~大粒気味の雨」ってとこだ。
土砂降りなら完全にあきらめて、ほっかむりを取ってどこかへ避難するんだけどね。
この程度の雨なら、多少濡れても大丈夫そうな気もする。
でも、「多少」でもなくなってきたぞ。
わりと濡れてきたので、早く電車よ来てくれえ~と心の中で祈っていた。
すると、私の隣にスッと立った人がいた。
私が気づくと、その人はにこやかに言った。
「電車が来るまでの間、傘に入りませんか?」
そう言ってご自分の持っていた傘をたむけ、私を傘の中へ入れてくれたのである。
おおっ!神!!
私はかなり驚いた。
こんな親切な人がいるのか!
朝からこんな素敵なことが起きるなんて。
それとも、後ろから見ると結構みすぼらしい感じだったのかな、ほっかむりで雨に濡れている私が。
まあ、自分のことはどうでもいい。
私はお礼を言って、その方がさしかけてくれる傘の中に入った。
「天気予報では、こんなに降るって言ってませんでしたからねえ。」
その人は、傘を持っていない私に気遣ってくれたのか、そんな話を始めた。
自宅を出るときは降っていなかったのだという。
「じゃあ雨は降らないよね」と思い、そのまま出勤したらしい。
駅に着いたら本降りになってきたのに気づき、慌てて自家用車に戻り、車内にあった傘を取り出したのだという。
車内に傘があってよかった、とその人は言った。
ですよね。
小雨、もしくはほとんど降っていない状態なら、誰しも大丈夫と判断しますよね。
天気予報というものはあくまでも「予報」ですしね。
やっぱり折り畳み傘くらい持ってくればよかったと私も思ってるんですよ。
私もそんな風に返事をした。
そんな話をしながら、私はその人のことをちょっと観察した。
見覚えがある感じもする。
同じ駅の同じ時刻の電車に同じホームの定位置から乗る人のことは、たいてい覚えるものだ。
ところで。
まったく見知らぬ方から、予期せぬ親切を受けると戸惑ってしまう。
予想もしていない良いことが起きると、うれしい反面、すぐ対応できないものですね。
その方は私に気を遣わせないよう、そして私が濡れないように傘を手向けながら、他愛もない話を続けてくれた。
身に余るありがたい親切である。
彼女が気を遣ってくれていることがよく分かり、私は心から感謝した。
私なら自分が傘をさしていたとしても、濡れている見知らぬ人に声をかける勇気はない。(←自慢するなよ)
電車が来た。
乗車すると、空いている席が右と左に1つずつあった。
彼女は左へ、私は右へ別れて座ることになった。
座席に座り、気持ちが落ち着いたので考えを進める。
こういうきっかけで見知らぬ人と話す、という機会がなかなか日本には無い。
どうしてだろう?と思ったが、それは私を含めて多くの日本人が、知らない人に声をかける勇気がないからでしょうね。
話しかけたら変な人だった、てことになったら怖いですしね。
が、傘に私を入れてくれた彼女だって、たぶん勇気を出して私に声をかけてくれたのだろう。
最近、メイクも手抜きだし服もいとこからのおさがり?で、外見に全く手をかけていない私。
よくこんな人相風体の怪しい?おばさんに、思い切って傘をさしかけてくれましたね。
本当にありがたい。
翌朝、また昨日の彼女に会えるかな?とかすかな期待を胸に駅へ行った。
しかし、ホームで彼女の姿を見かけることはなかった。
有給でも取得してるんでしょうかね…。
御礼を言いたかったのだが、まあ、あまり深追いしないでおこう。
しつこく探すと、向こうも恐怖を感じるでしょうしね。
でも、今度会ったら会釈くらいはしよう。
そして、今度からは、ちょっとの雨でも折りたたみ傘を持参するようにしなくては…。
と思ったが、その朝は傘を持っていなかったからこそ、心温まる?朝のひとときを過ごせたわけだ。
何が幸いするか分からないものですね。
私も、勇気をもって他人に声をかけられるように頑張ろう。
なんて思った一日でした。
だってですよ。
この方に、雨中で傘に入れてもらった私。
「世の中、いいこともたまにはあるものだ」と、生きる希望(言い過ぎだが…)がちょっとわいてきたんですよん。
ちょっとの勇気を出して誰かに声をかければ、その人が大いに勇気づけられることもあるわけだ。
10個嫌なことがあっても、1つの輝く出来事があれば、人生もう少し頑張ろう!
という気になれるのかもしれないですね、人間って。
というわけで、次回は親切を受ける側ではなく、与える側になろうと思っております。