またまた松本清張です。
さすがミステリーの巨匠。
読み始めたら、一気に読めてしまった。
読み終わっていちいち感心する。
読者を一気に小説世界へ引き込む筆力が違います。
昔の作家さんだから文体が古いだろう、感情移入しづらいだろう…と思いがち。
いやいや。
昔に書かれた作品であっても、年月を感じさせないところが素晴らしい。
簡単なあらすじを説明する。
新人女流画家・降田良子の絵に、著名なコレクターがほれ込む。
それを見て、一攫千金狙いの画商やら美術評論家がこぞって良子の作品を絶賛。
良子は「天才画家」と祭り上げられる。
しかし、謎がある。
良子は、一体どうやって絵を学んだのか?
良子の絵を売り出しているK画廊の支配人・中久保にとっても謎だ。
中久保は、良子のアパートへ行ってみたり生活を調査したりと、彼女の絵の秘密を探ろうとする。
実家がお金持ちなので、良子は売れない新人画家のくせにアトリエなぞ借りる経済的余裕がある。
しかし、良子はアトリエの中を見せてはくれない。
鶴の恩返しのごとく、アトリエの中でどうやって絵を描いているかを絶対に誰にも見せないのだ。
良子の絵が売れるようになると、良子に絵を教えたという自称「良子の師匠」の老人も登場する。
が、良子は老師匠と絵のタッチも違うし、まともに絵を学んだこともないようだった。
じゃあ、一体どうやって良子は絵を学んだのだ?
謎は深まる一方だ。
ところが、途中から様相は異なってくる。
K画廊のライバル、S画廊の支配人・小池が良子の絵の秘密を探る探偵となるのだ。
小池もいろいろと、良子の絵について疑問があるからなのだが。
小池は、良子の実家を訪ねて福島県へ行く。
良子の家は素封家で、老舗の和菓子店だった。
そんなにお金持ちだったら、娘を東京で一人暮らしさせ、アトリエを借りられるくらい送金できるよね。
くらいのお金持ちである。
実は、この小説は小池が探偵役として表舞台に出てくるまでが、予想外に長い。
良子を売り出しているK画廊の中久保が謎解きをするのかと、てっきり読者は思ってしまうのだ。
しかし、主人公が中久保→小池に移るのがスムーズ(だから説明の前半が長かったのだ)。
違和感はない。
小池は太っているが、働き者である。
そろそろ独立して、自分の画廊を持ちたいと思っている。
しかし、今の勤め先・S画廊の社長・大江は病身で、たぶん長くない。
大江は中学生の息子が成人するまで、小池に支配人として勤めてもらいたいわけだ。
そんな小池自身を取り巻く微妙な人間関係も、ちゃんと描写されている。
小池は良子の家の秘密を知り、良子の絵の元になる下絵を描いている人物も突き止める。
問題は、福島県でその人物が描いた絵を、どうやって東京の良子が見るか、という点だ。
このトリックも小池は解き明かす。
そして、トリックの種明かしに肉薄した小池に危機が迫る。
小池はだまされてタクシーに乗せられ、青梅の片田舎にある小さな小屋へ連れていかれる。
夜間に睡眠薬入りのコーラを勧められ、小屋の裏手からは妙な物音が…。
小池、危機一髪。
機転を利かせて難を逃れた小池。
「(雇用主である)大江が自分を殺そうとしていた」
と、大江の顧問弁護士に相談。
うわっ、上司に裏切られたわけかい。
てか、良子の秘密を大江も知りたいんじゃないのかい?
と読んでいる方はビックリ。
しかし、さらにビックリなのは、顧問弁護士から「何の証拠もないから訴えられない」と一蹴されるトコ。
殺されていないのだから犯罪とは言えない、と言われてしまうのだ。
生きて逃げてきたのにねえ。
かわいそうな小池ちゃん…(笑)。
最後は大団円?となる。
小池は独立し、大江はその一年後に死去。
良子の絵は売れなくなる。
良子が手本にしていた絵を描く人物が亡くなったので、新しい絵が描けなくなったのだ。
それだけではない。
良子は絵の師匠(自称)の爺さんの甥と恋に陥り、頼りない甥の世話を焼くようになる。
で、良子はアーティストとしてのキレがなくなった、というわけ(それも微妙だが)。
そして、小池の勤め先・S画廊のライバルだったK画廊は没落。
(大団円とは言えない?)。
まあ、私としては、目をそむけたくなるような恐ろしい描写が無い小説で良かったわん。
小池が青梅の小屋に連れていかれたときは、心臓バクバクでしたけどね。
そのクライマックスへ持っていく松本清張の筆力、改めてすごいわ。
そこが、作家の力なんでしょうね。
奥付を見たら、なんと1979年にこの小説が発行されている。
何十年も前の小説なのに、今も面白く読めます。
やっぱり、松本清張にハマってしまいましたよ。
また次も松本清張本を借りようともくろんでいる。
こんな感じで読みやすいと、長編も取っつきやすいかもなあ。
そして、小説に出てくる地方の描写もいいですよ。
良子の出身地は福島県のある町、ということで、小説では架空の町を描いているのだが。
モデルがあるにせよ、この小説の人物がいかにも住んでいそうな雰囲気をかもし出している。
実力のない画家が評論家に「有望な新人画家」と祭り上げられる場面は、現代社会の風刺も効いている。
今も昔も変わらないのかもですね。
同時進行で東野圭吾も読んでいるのですが、やはり作家は多少の批判精神を持つべきですね。
電車の中で読みながら、思わず声を出して笑ってしまった(恥)。
東野さんは今よく読まれている作家さんと思うので、特に記事では紹介しません。
私的には、松本清張をぜひ推したいですね。
(私も「清張にハマっている」という人から聞いて、ハマったわけなんですけどね)
松本清張作品はまたドラマ化されるかもしれないので、そちらも楽しみにしておきます。