先日、美容院へ行った。
最近発掘したお店だ。
前回そこで髪を切ってもらったら、職場の同僚に好評だった。
「よく似合ってる!」
「いい髪形になったね。」
「スッキリしたじゃん!」
様々なおほめの言葉をもらったが、私も内心(あの店、案外良かったなあ)と思っていた。
最近は髪質が変わってきたし、もともと髪の生え方が厄介なのだ。
美容師泣かせの頭であることを、頭の持ち主の私はよーく知っている。
が、その店の美容師さんは、(私は気づかなかったが)凄腕?だったのだろう。
面倒くさい私の頭&髪をうまくカットしてくれたのである。
どうせこの店もダメだろう…と期待していなかっただけに、仕上がりの良さに私は大満足したのだった。
というわけで。
二匹目のどじょう…ではないが、またその美容院へ行くことにしたのだ。
誰だって、似合う髪型にしてもらいたいですよね?
その美容院を再訪すると、男性の美容師さん2名がカット中だった。
忙しいんだな、このお店。
「いらっしゃいませ~!」
私が入ると、店内に元気な声が響き渡った。
メンバーズカードを取り出し、受付を済ませる。
今日も、前回と同じ髪型にしてもらおう。
ほどなくして、私は呼ばれた。
小太りの若い男性美容師さんが、ニコニコしながら私を待っていた。
「今日はどんな風にしましょうか?」
えーっと。
私は記憶をたぐり寄せた。
前回はこの人だったっけ?
覚えていないなあ…。
「同じ髪型のまま、1.5センチくらい切ってください。」
思い出せないので、とりあえず伸びた分だけ切ってもらおう。
確か前回も、髪を切りながら美容師さんと話し、髪型が決まっていった記憶がある。
「耳にかけますか?」
「えりあし、もう少し切りましょうか?」
てな感じに。
小太りの美容師さんが、チョキチョキと軽快に私の髪を切り始めた。
うーん…前回はこの人だったっけ?
違うような気もする…。
何とか思い出そうとして、鏡に映る彼の顔をちらちら見てしまう。
常に「美容院に期待していない」ので、カットしてくれた美容師さんのことを覚えていないのだ。
あ~前回の腕のいい美容師さんのこと、覚えておけばよかった。
私の隣で髪を切ってもらっていたお客さんが、先ほど終わったようだった。
お客さんは満足げに、担当美容師と話をしている。
その人を担当していたのは、背が高く足の長い、スラッとした男性美容師さん。
帽子をかぶっておしゃれである。
美容師ですと自己紹介されたら、誰でも納得しそうなイケメンである。
それにひきかえ私の担当美容師さんは、愛想はいいがコロっとしている。
おいしそうなコロッケとか、ゆげの立つ肉まんを想起させる。
いやいや、人間、外見じゃないんだよ。
とは思うものの、鏡に映る自分ではなく、どうもその美容師さんに目が行ってしまう。
前回切ってくれた人、この人だったっけ??
ううむ…自信ないなあ。
カットが終わったお客さんが、支払いを終えて店を出た。
しばらくして、その背の高いイケメン美容師さんも店を出て行った。
お昼近くだったので昼食を買いに行ったのか、あるいは一服か。
しばらくすると、彼と入れ違いになるようにして新しいお客さんが来店した。
「いらっしゃいませ~!!」
私の髪を切っている小太りの美容師さんは、私の耳元で大声を張り上げた。
だよね、美容院とか居酒屋って、店員が一斉に声を張り上げる業種だよね。
私は黙って髪を切られながら、新しいお客さんの様子をうかがった。
新規のお客さんは、若い男性だった。
最近は理髪店ではなく、美容院へ行く人が多いんだろうな。
まあ、どうでもいいけど。
「ご予約ですか?お名前を書いてお待ちください!」
アシスタントらしき店員が、新規客からカードを受け取る。
小さいお店なので、カットできる人が2人しかいない。
私のカットが終わるまで、このお兄さんは待たされるわけだ。
新規客は、きょろきょろと店内を見渡した。
私は髪をカットされながら、新しいお客さんの様子が気になった。
何を探しているんだろう?
私の担当美容師は、それを見て愛想よく声を張り上げた。
「おかけになってお待ちくださいね!」
すると。
その若い男性客は、私の担当美容師に容赦なく尋ねた。
「あのー。
帽子をかぶった背の高い美容師さん、今日はいないんですかね?」
私の髪をカット中の小太りの美容師さんは、それを聞いて一瞬言葉を失った。
「…。」
それを聞いて全てを悟った私は、彼の顔を見ることが出来なかった。
さっきまで、(この人だったっけ?)とちらちら彼の顔を見ていたのだが。
あのお客さん、この人をご指名じゃないわけだ…。
「ご指名ですね?
では、お名前の横にBって書いといてください。」
小太りの美容師さんの声が遠く聞こえた。
若い男性客は、その指示に従ってBと書き入れたようだった。
なるほど、この店はそういうシステムだったのか。
美容師を指名する場合は、A(小太り)、B(背の高い方)と書くわけだ。
私は最後の仕上げをしてもらいながら、すべてを反芻して考えていた。
よく分かった。
前回、私の髪を上手にカットしてくれた腕のいい美容師さんは、背の高いイケメンBさんだったのだ。
今になって、すべてを思い出した。
カットがすべて終了した。
私は小太りの美容師さん、つまりAさんを再び見た。
Aさんは、終始ニコニコと愛想よく笑顔を作っている。
「お疲れ様でした!」
指名されなくても笑顔を忘れないAさん。
私は、彼の肩を叩きたくなった。
頑張れ、Aさん。(心の声)
ほかほかのシュウマイとか小籠包とか想像して、失礼しました。
しかし、現実は厳しい。
マンガでも小説でも、たいてい主人公は背の高いハンサムと相場が決まっている。
美容界においてさえも、背の高いイケメンの方が美容師としての技術も高いってか。
神様、イケメンに味方しすぎじゃん…。
でも、私は笑顔のかわいいAさんを全力で応援しますよ!!
しかし…。
つらいですな。
指名されるのが自分「じゃない方」って。
でも、私も「そっか、Bさんの方がカットが上手なわけだ…」と気づいて、心が揺れております。
やっぱりカットが上手な美容師さんにやってもらいたいからなあ。
次回、あの店に行くときの心理的ハードルが上がりました。