「年度末で忙しい」日々であるが、やっぱり読みたいのだ、本が。
となると、通勤電車の中で読める文庫本が軽くていいですよね。
というわけで、新潮文庫「きつねのはなし」(森見登美彦著)を借りてみました。
著者の森見氏。
すいません、なぜか私は今まで森見氏を「相当な高齢の作家さん」とずっと思い込んでいました。
日本ファンタジーノベル大賞とか、多くの賞を受賞されている実力派作家さんである。
「夜は短し歩けよ乙女」とか「太陽の塔」とか、他の作品名を耳にした読者の皆さんもいらっしゃるだろう。
お名前は私もあちこちでお見かけしていたので、勝手に「高齢者」と思っていたのかも…(恥)。
「きつねのはなし」。
4つの短編が収められていて、それぞれゆる~くつながっている。
いずれにも骨とう品店「芳蓮堂」が登場する、不思議なお話たちだ。
京都が舞台だからこそ、この妖怪めいた不気味な雰囲気がはまっている。
第一話の「きつねのはなし」は、芳蓮堂の顧客である天城さんという男性の話である。
天城さんの住まいは神社の近くの古い屋敷で、裏手にはうす暗い竹林。
竹の葉のすれる音が絶えず聞こえる…とくれば、まさに妖怪話にうってつけの舞台。
この天城さん、とにかく薄気味悪いのだ。
主人公は、芳蓮堂でアルバイトする大学生、「私」。
天城さん宅へ届け物をして以来、この不気味な男性に好奇心を覚えている。
芳蓮堂の主人、ナツメさんは若い女性である。
「天城さんに要求されても、決して何かを渡してはいけない」と「私」は忠告される。
が、「私」は天城さんに乞われて、下宿にあったストーブを渡してしまう。
そして、それに味を占めた天城さんは、今度は狐のお面を要求する。
ナツメさんからもらった狐の面を天城さんへ渡すと、「私」の恋人である奈緒子が失踪する。
ほらね、天城さんに何かを渡してはいかんのだよ…。
読んでいる方は、ちょっとドキドキする。
第二話の「果実の中の龍」は、ウソをつく先輩の話だ。
第二話を読んでようやく、一話目の「私」が二話目の「先輩」であることに気づく。
って感じに話はつながっていく。
三話目「魔」は、京都の町で夜間に人を襲う魔物の話。
大学生である「私」は、バイトで高校生の家庭教師をやっている。
その町で、夜道を歩く住民が何者かに襲われることが多発する。
襲撃された被害者はみな、「何かが自分のそばをすり抜ける」ような刹那、殴られるという体験をしている。
するする走って、空き地を出入りするような、何か長細い生き物…。
住民たちは夜の見回りをすることになった。
その見回りに参加する教え子やその兄の直也、彼の友人・秋月たち。
私の前を、胴の長いケモノが私を先導するように走っていく…。
もはや、どっちなんだ。
ケモノが私か、私がケモノか。
「先生、落ち着いてください。俺たちが分かりますか?」
直也の声。
ケモノのようなうなり声しか出ない私。
うお~!!
ケモノは「私」に取り憑いちゃったのかい?
とまあ、和風ファンタジーホラーといった趣の作品集である。
なんか、かなり唐突な説明の仕方で申し訳ない。
興味のある方は読んでみてください、ってことなんだが。
(全然ブックレビューになってない)
発見があった。
ホラーではあるが、あまり「あっち側」へ行き過ぎていない。
文章も端正で読みやすいのだ。
京都の暗く怪しい雰囲気も、行間からざわざわ立ち上ってくる。
こういう小説って、ホント京都がよく似合う。
著者の森見氏も、ご自身の「生活圏で妄想したこと」を小説にされているとか。
うーむ、京都に住むとこういう妄想が出来るのか。
伏見稲荷大社が気持ち悪いところだ、という登場人物のセリフがある。
私は一度だけ、そこへ行ったことがある。
有名な赤い鳥居周辺しか歩かなかったせいか、怖いという印象はない。
むしろ、着物を着た中国人観光客がうじゃうじゃいて、すごかったわよ。
ってくらいのイメージしかない。
一人で夜に行ったら不気味なんだろうなあ。
京都はお寺や神社が多いので不気味なイメージがあるし、ホラー小説の舞台になりやすいのかも。
浦安とかカリフォルニアなんて、絶対そんなイメージないもんね。
第一、私なんて、ササの葉がすれるざわざわとした音を聞いても何も感じない(←えらそう)。
想像力貧困だから、ホラー小説の構想になりそうな妄想なんてわきあがってこないわけだ…。
やはり妄想力+自分の実体験は、小説の土台になるんですね。
ところで、森見氏はこの作品を「三男」と呼んでいらっしゃるらしい。
他のお子様(作品群)も読んでみたくなりますね。
私は、この「きつねのはなし」を通勤電車の中で読み進めた。
読むと、一気に京都にいる気分になります。
現実逃避?
前の記事に書いた通り、今、仕事で頭がおかしくなっているので、こういう小説を読んで頭を冷やしている。
不思議なもので、今まではこういうジャンルの本を読んだことがなかった。
でも、自分のおかれた環境や体調によっては、違うジャンルの本に心惹かれることもあるわけですね。
偏らず、いろいろな本を今年も読んでみよう!と思っているところです。