私の職場には、アルバイトやパートの方々がいらっしゃる。
彼らは気が利くし、他者とも協力的で優秀な方が多い。
常々思う。
これって、マーフィーの法則なんでしょうかね。
「正社員は使えないヤツが多く、非正規は優秀な人が多い」って。
人間って立場が安定すると、努力しなくなるものなんだろうか?
ま、どーでもいいけど。
バイトさんの中には、留学生の方もいる。
彼らは日本の大学院博士課程で研究しているので、我々よりはるかに賢い。
日本語だってペラペラである。
しかも(ここが最大ポイント)若い…。
そりゃ中年日本人に比べたら、頭の回転は速いわけだよ。
そんな優秀な若者たちに助けられている、中年日本人の私である。
私だってわかっている。
さほど自分は頭が良くないってことを(笑)。
しかし立場上、彼らはバイトさん。
私の方が(一応)上、ということになっておる。
こちらから教えることは何もないが(いばるなよ)、日々若者に教えられているのだ、恥ずかしながら。
そんなある日。
大量に資料をプリントアウトしなければならない事態に陥った。
某取引先に提出するためだ。
大車輪でコピーを作成する我々。
当然、バイトさんたちも資料作成作業に駆り出される。
ホント、日本ってこういう紙作業が多いよね。
資料をコピーし、ナンバリングし、ファイリングし。
アタッチメントは別途添付する。
紙ファイルをいくつか作成する。
そんな作業があった。
内容は単純だが、とにかく大量の紙が発生する。
締め切りが迫っていたので、人海戦術で片づけるわけだ。
昭和が抜けきれない日本の職場…。
「提出するファイルには、テプラでタイトル貼っておいてね」
そんな指示が、作業中に上司から飛んだ。
はいはい、やっときますよ。
上司の言ったタイトルをメモっておく。
テプラでタイトルを作り、ファイル表紙に貼っておく。
はい、終了。
量は多いが、資料をプリントアウトし、ファイルに閉じて提出するだけのことだ。
頭を使う作業ではない。
というわけで、提出すべきファイルを作成終了後、通常業務に戻っていた私。
隣の課にいるバイトさんたちは、てんやわんやで紙と格闘している。
3月ともなると、こんな戦場が日本各地で展開されているわけだ。
彼らはどう思ってるんでしょうか、日本の職場を…。
すると、1人のバイトさん・Tさんがおそるおそる私のデスクにやってきた。
Tさんの回転の速さ、呑み込みの早さにいつも私は助けられている。
「あの、ちょっと教えてほしいんですが」
ん?
優秀な学生さんでも分からないことがあるんかい。
彼女は私の作ったファイルを指さして言った。
「それ、どこでどうやって作るのでしょうか?」
は?
どれ?
何か特別なことをやったかな、私?
戸惑っていると、Tさんはもう一度指さした。
「これです。どうやって作るのでしょうか?」
指さす先には、私がテプラで作成したファイルタイトルがあった。
「ああ、これテプラで作るんですよ。」
「テプラ?」
なるほど。
テプラを見たことが無いらしい。
日本特有の商品なんだろうか?
事務キャビネから、私はテプラを取り出す。
ついでに、幅の違う数種類のテープも見せる。
「テプラって、こういうヤツ。こうやって使うの。
これなら字が汚い人でも問題ないでしょ?
海外にもあるかな?」
珍しい物を見るように、目を輝かせるTさん。
「私の国にはありません」
ふーん。
まあ、今はデジタルの時代だし、資料を紙で提出する職場なんて海外には少なそうだ。
だからテプラは必要ないんですかね?
私なんか字がめっちゃ汚いから、テプラがあるとありがたい。
操作方法を教える。
「縦書きってどうやるんですか?」
あ、それは「編集」で縦書き・横書きを選ぶんだよ。
そしてテープの幅を選んだり、字の大きさを選んだりして適切な仕上がりにする。
「面白いですね!こんなの初めて見ました!」
かもねえ。
事務員でないと、こんなもの使わないでしょうしね。
テプラであっという間にファイルの背表紙と表紙の文字が出来上がる。
「ハイ終了。」
私が出来上がったタイトル文字を渡すと、Tさんは喜んだ。
「すごいですね!」
すごいよね。
(もちろん、私のことをほめたわけではない、と私だってわかっている)。
テプラというものを発明した企業がすごいのか。
事務用品が充実している日本がすごいのか。
どっちの意味か分かりませんが。
確か、来日する外国人の中でも日本の文具は人気だとか聞いたことがある。
ですよね。
そりゃ、私だって素敵な便箋とか、書きやすいボールペンとか見るとテンションが上がりますよ。
100均のボールペンでさえ、クオリティが高いもんね。
日本は文房具&事務用品天国だ。
商品の選択肢が多いし、ペンなら滑らかな書き心地だし。
インクの発色もきれいだし、紙質も高級だし。
デザインも可愛いのが多いし、もう言うことない。
なんて考えながら、仕事に戻った。
そして午後に所用で席を外し、戻ってきたら机の上にお菓子が3つも置いてあった。
見ると、Tさんのメッセージがついていた。
「先ほどは助けていただき、ありがとうございました!
御礼です。Tより」
いやいや、お礼なんて…。
お菓子なんて1つでいいのに(←もらう気満々)、3つもくれるのかい。
我々より頭の良い若者に、教えることが一つでもあった、というのがうれしいぞ!
と、喜んだ一日でした。
ところで。
今の時代、紙ベースで書類を提出する場面がどれくらいあるんでしょうか。
紙全盛なのは日本だけなんでしょうかね。
(日本でもペーパーレスな会社はありますけどね)
そう考えると、紙文化の日本ならではの発明なんですかね、テプラって。
小さい商品一つとっても日本独自の文化があるのかもしれんなあ、と思った一日でした。
それにしても、テプラを発明した人こそ、「すごい」。
案外、他の国に持っていけば別の用途で爆発的に売れたりして?
なんて思います。